2024年06月27日( 木 )

いよいよ動き出した九大箱崎の再開発(2)

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イノベーション拠点のほか、多種多様な居住機能も

 都市空間での提案では、特徴的な「イノベーションコア」を中心として、ゾーン特性に応じた交流・発信・実証を促すスマートステージの整備や、街の骨格を形成する5つのメインストリートなどを整備。また、「箱崎創造の森」と題して緑化率約40%・樹木1万本以上による圧倒的な緑量の緑空間の確保を進めていくほか、九州大学時代の街割りグリッドや街並み高さなどを継承し、近代建築遺産と調和するスカイラインの形成などを行っていくとしている。

 都市機能の提案では、グローバル創業都市福岡の新しいイノベーション拠点を確立していくほか、今後の都市の在り方の先行事例となるような筥崎宮門前町の賑わいを取り戻す地域に開かれたミクストユースなまちを実現していくとしている。具体的には、業務・研究機能としてイノベーション拠点「BOX FUKUOKA」やライフサイエンス研究拠点「ライフサイエンスパーク」、新たな駅前ビジネス街区「North gate Hakozaki」などのほか、交流・にぎわい機能として福岡・九州の豊かな食をテーマにした日本最大級の食のエンターテイメント交流拠点「フクオカサスティナブルフードパーク」や「ブック&カフェ」「交流広場」などを盛り込んでいる。

 ほかに、「箱崎版地域包括ケアシステム」を構築した医療・福祉機能や、九州大学100年のレガシーを継承した教育機能、各ゾーンの立地特性や利用シーンに合わせた生活支援機能などが盛り込まれているほか、多様な人たちが安心して暮らし、交流やコミュニティが生まれる多種多様な居住機能なども整備していく方針。具体的な居住機能としては、2,000戸の分譲住宅や単身者向け賃貸住宅、高齢者向け住宅、共同社員寮、学生寮などを例示している。

 まちづくりマネジメントの提案では、「エリアマネジメント」「スマートサービス促進機能」「イノベーション導入支援組織」の3つのカテゴリーに分けながらも、まち全体の一体的な維持管理・運営管理などを新たに設立する(一社)箱崎まちづくりマネジメントが担当。筥崎宮を中心としたまちのありようを受け継ぐ地域の共創共栄マネジメントを実践していく方針で、地域全体の資産価値の向上や空間の魅力向上、質の高いライフスタイルの維持、スマートサービス実装の加速、世界レベルのイノベーション創出などに努めていくとしている。

箱モノ依存からの脱却か 明確な“核”なき提案

 住商らのグループによる提案内容を見ていくと、ある特徴に気づかされる。それは、全体を一言で象徴するような明確な“核”となる施設が見当たらないのだ。

 もちろん前述したように、いくつかの特徴的な施設(BOX FUKUOKA、フクオカサスティナブルフードパークなど)は存在するし、強いていうなら「イノベーションコア」が核と呼べる施設に当たるのかもしれない。だが、九電らのグループが提案した大規模集客施設(アリーナ)とは違って、「結局、九大跡地に何ができるの?」と問われても、一言で「コレができる」と言い表すことが困難なのだ。これまではエリアにおけるわかりやすい象徴として「九州大学」という最高学府が鎮座していたため、それに代わる開発となると、否応にもハードルが上がるのは致し方ないが、それを差し引いても、核となる施設がないため、結局のところ何ができるのかがわかりにくいのだ。

 だが、ごく個人的な意見にはなるが、今回の住商らのグループによる提案内容には好感がもてた。というのも今回の提案からは、再開発などにありがちな、「大きな箱モノをつくっておけばそれでいいでしょ」みたいな思惑は感じられない。「交流・にぎわい・業務・研究」機能を担うイノベーションコアを中心として、エリア内に「居住」「生活支援」「教育」「医療・福祉」「物流」などの機能を分散配置することで、単なる箱モノをつくって終わりではなく、人々の生活や活動の営みが感じられる場としての新たなまちをつくっていこうというような、そうした意気込みが感じられるからだ。

 また、当初計画ですべてを埋めてしまうのではなく、「将来活用ゾーン」として開発の余白を設けている点も面白い。何か大きな箱モノを中核に据えて終わりではなく、エリア内を細分化して個々に機能をもたせてまちを形成し、さらには将来の変化に備えた拡張性を備えている今回の提案は、持続可能性などを考えた場合、今の時代に合っているように思えるし、箱モノ依存型の旧来の再開発手法からの脱却ともいえるかもしれない。ゆえに、住商らのグループによる提案は、むしろ「特長のないのが特徴」だといっていいだろう。

(つづく)

【坂田憲治】

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