来春闘、中小巻き込むか?連合、格差是正掲げ非正規処遇改善を強化
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連合が、来年の春闘方針の基本構想を発表し、初めて非正規労働者の労働条件改善に本格的に取り組む。基本構想で、「中小企業労働者や非正規労働者の月例賃金・時給の『底上げ・底支え』と『格差是正』をはかることに重点を置いた取り組みを進める」と明記した。大企業を中心とした従来型の労働組合のある企業での労使交渉から脱却、転換するもので、中小企業に春闘が波及するのか、注目される。
春闘の賃上げ率は、連合の集計(2015年は約5,500社)で2年連続の2%台。安倍首相は「賃上げ率は過去15年間で最高」と誇るが、こちらは厚生労働省集計の約300社の結果で、いずれも大企業を中心とした春闘賃上げだった。
アベノミクスが地方や中小企業に波及していないにもかかわらず、政府の動きと連合の新たな方針によって、中小企業が春闘に巻き込まれる可能性が出てきた。連合要求目安、中小1万500円、非正規時給37円上げ
連合の基本構想は、「従来型の自社の労使交渉の結果を波及させるだけでは不十分」として、具体的には、「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正な分配の実現、すなわち公正取引の実現をはかることが必要」と強調。賃上げ要求水準は、定昇分を除き2%程度を基準とした。
金額では、中小共闘の賃金引き上げ要求の目安を、10,500 円以上(賃金カーブ維持相当分4,500円)、非正規共闘では、「誰もが時給1,000 円」の実現を目指して、賃金(時給)引き上げの目安を37円とした。
最低賃金は、2015年度全国加重平均798円(昨年度から18円引き上げ)、福岡県では10月4日から16円引き上げられ、743円になったばかり。厚生労働省も、時給800円未満の労働者の賃金を引き上げる企業に助成金を出すなど、時給引き上げを後押ししている。中小の労働分配率は高止まり、余力は限られる
日本の労働分配率は、OECDからも加盟国全体の低下率を上回って低下していると指摘されている。欧米主要国がほぼ横ばいなのに対し、低下が際立つ。
しかし、中小企業は、体力のある大企業とは違う。中小企業(資本金1億円未満)の労働分配率は約8割と高止まっており、余力がある企業は限られている。連合が指摘するように「公正取引の実現」によって、中小企業が賃上げ原資を得られればいいが、付加価値の適正な分配に預かれる保証はない。労働者側の要求、経営者側の要求が対立するという発想ではなく、企業の利益と従業員の利益が一致する経営の道があるのではないか。労使双方が、「多少サボっていてもお給料をもらえる」「ストライキ権でたたかいとる」(労働者側)とか、「安い賃金でこきつかう」「残業代も払わないで最大限しぼりとる」(経営者側)という次元から脱皮するときだ。
労働コスト削減ではない生産性向上がカギ
それには、労働者が時間当たり労働生産性を最大限に発揮するのがカギだ。企業側から、労働者に「やる気」を持って、「能力」を発揮してもらう(もちろん、今持っている「やる気」と「能力」を最大限発揮するだけでなく、能力を向上してもらう)ように労務管理を行うのが効果的だ。
2000年以降の日本企業の生産性向上は、「非正規を含む労働コスト削減によっている」(経済産業研究所セミナー資料)と指摘されている。これでは、生産性向上が、雑巾を絞るようなもので、やがてはジリ貧になる。また、日本のGDPは約6割を国内消費に依存しており、輸出入の対GDP比率は世界最小ランクという「経済鎖国」の国である(同セミナー資料)。労働生産性が向上しても、大企業流の労働コスト削減は国内消費にマイナスだ。
連合の基本構想も、「働く者一人ひとりがそれぞれの能力を活かしながら生産性を高めていくこと」が求められると指摘している(ただし、それを言い換えればとして、「すべての働く者が人間らしい働きがいのある仕事(ディーセント・ワーク)に就くことと、仕事に応じた適正な処遇を確保すること」としている)。
これは、中小企業にとって、労働者の幸福と企業の最大限利益の獲得が両立する組織風土、労使環境に変えるチャンスでもある。
【山本 弘之】
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