2024年12月23日( 月 )

株主総会風雲録(1)トヨタの乱 章男氏再任に助言会社が「NO」!(前)

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 「書き入れ時」とは、売上が非常に伸びる時期を指す。株主総会の季節がやってきた。かつて株主総会は、総会屋が「与党」と「野党」に分かれて、荒稼ぎする場であったが、今日では総会屋を見かけない。代わって、さまざまなプレーヤーが株主総会を「書き入れ時」としている。

議決権助言会社の2強、ISSとグラスルイス

 上場会社の行く末を決める株主総会に強い影響力を持つ組織がある。「議決権行使助言会社」と呼ばれる企業だ。役員選任などの議案が企業価値を高めるかを判断し、賛成か反対かを投資家にアドバイスする。議案の可否を左右するとして、経営者はその力を恐れる。

 議決権行使助言会社は1985年にコーポレート・ガバナンス(企業統治)と機関投資家の議決権行使の質的向上のために、インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が発足したのが始まり。2003年にはグラスルイスが発足し、議決権行使助言業界はこの2社による寡占状態になっている。

 問題はその影響力だが、日本人投資家は外国人投資家ほど議決権行使助言会社の推奨に左右されない傾向があった。ところが外国人投資家が多い大企業においては、助言会社の「反対」推奨を無視できなくなってきた。

キヤノンの御手洗会長があわや解任寸前に

 昨年、助言会社の威力を見せつけた株主総会があった。「キヤノンショック」だ。

 キヤノンが23年3月30日に開いた定時株主総会(22年12月期決算)の取締役選任議案で、御手洗冨士夫会長兼社長最高経営責任者(CEO)の再任に対する賛成比率が50.59%だった。22年春の株主総会での御手洗氏の賛成比率は75.3%。それが再任に必要な過半数ギリギリまで急降下したことで、「あわや解任か」と経済界に衝撃が走った。

 議決権行使助言会社ISSが「取締役選任案は5人全員が男性で女性がいない」などを理由に反対推奨したことが影響したとアナリストが解説した。

 泡を喰ったキヤノンは女性取締役の確保に走る。

 今年3月28日、キヤノンは女性取締役を起用し、万全の体制で株主総会に臨んだ。効果はてきめん。御手洗氏の賛成比率は90.86%で、前回より40.27ポイントアップした。初の女性社外取締役となる前消費者庁長官の伊藤明子氏の賛成比率は98.45%とほぼ満票に近かった。

米助言2社が豊田章男会長再任に「反対」した理由

 助言会社の今年の株主総会における最大の見せ場は、6月18日に開催されるトヨタ自動車の定時株主総会である。米議決権助言会社2社が揃って、豊田章男会長(68)の取締役選任議案に「反対」を推奨したからだ。

 日本経済は「自動車1強」、とりわけ「トヨタ1強」が強まっている。トヨタグループの23年の世界販売台数は1,123万台で、4年連続世界一だ。日本最強のグローバル企業である「世界のTOYOTA」のトップに助言会社2社が「NO」を突き付けたのだ。

 なぜか?最大の問題は、トヨタグループでダイハツ工業や日野自動車、豊田自動織機などに不正が相次いだことだ。

 米通信社ブルームバーグ(5月28日付)は速報でこう報じた。

〈ISSは28日付けのリポートで、トヨタグループで相次いだ不正問題に関して、長年トヨタの経営トップを務めてきた豊田章男会長に最終的な説明責任があると考えられると指摘。同氏の取締役再任に反対する理由として、取締役候補者の顔ぶれやトヨタが発表した不正対策から判断すると、企業文化を変えるとするトヨタの主張とは逆に、実際はそれを維持しようとする傾向が疑われることを挙げた〉

(つづく)

【森村和男】

(後)

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