2024年12月23日( 月 )

株主総会風雲録(1)トヨタの乱 章男氏再任に助言会社が「NO」!(後)

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 「書き入れ時」とは、売上が非常に伸びる時期を指す。株主総会の季節がやってきた。かつて株主総会は、総会屋が「与党」と「野党」に分かれて、荒稼ぎする場であったが、今日では総会屋を見かけない。代わって、さまざまなプレーヤーが株主総会を「書き入れ時」としている。

豊田会長の「再任反対」にISSとグラスルイスが足並みをそろえる

 グラスルイスも、トヨタの取締役会が十分に独立していない点などを挙げ豊田氏の選任議案について反対を推奨した。

 トヨタの昨年の株主総会では、グラスルイスが豊田氏の選任に反対を推奨し、米公的年金基金が選任に反対票を投じた。結果、豊田氏への賛成率は84.57%。前年の95.58%から低下した。

 今年は、ISSとグラスルイスが豊田氏の取締役選任反対に足並みをそろえた。議決権助言会社の影響を受けやすい外国法人が25.01%と初めて4分の1に増加した。

 豊田氏についての助言会社の指摘は的を射ており、反対票がどのくらいになるかに注目が集まった。

トヨタ「本丸」に不正は拡大

 株主総会を前にして事態は急転した。

 国土交通省は6月3日、トヨタ自動車など5社で、車の大量生産に必要な「型式指定」の手続きをめぐる認証不正があったと発表した。不正があったのはほかにマツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの4社。国交省は4日、愛知県豊田市のトヨタ本社に立ち入り検査に入った。

 グループの日野自動車や豊田自動織機、ダイハツ工業で次々と発覚した一連の不正問題は、ついに「本丸」のトヨタにも波及した。トヨタは不正があった7車種のうち、生産中の「ヤリスクロス」など宮城県と岩手県の工場でつくる3車種について出荷・販売・生産を停止した。影響は下請や地域経済におよんだ。

法令違反を棚に上げた開き直りの会見

 豊田氏は1月、日野自動車などで起きた不正氏を受け、自らグループの立て直しを主導する意向を表明した。今回、トヨタでも不正が行われていたことが判明。豊田氏は6月3日に謝罪会見を開いたが、法令違反を棚に上げ、開き直りともいうべき場違いな発言だった。

 『朝日新聞』(6月4日付け朝刊)は社会面トップに、『豊田会長「ブルータスお前もか」、トヨタ認証プロセスに疑問も』と大見出しをつけ報じた。

 「ブルータスお前もか」は、古代ローマ皇帝カエサルが議場で刺された際に、腹心の1人であったブルータスに向かって叫んだとされる。信頼していた者の裏切りを表現する。

 謝罪会見には、ふさわしくないセリフだ。あっけにとられた向きは多かったろう。

 豊田氏の“ホンネ”がつい口に出たと受け取ればわかりやすい。 

現役の社外取締役から「豊田会長批判」が飛び出す

 トヨタ創業者の豊田喜一郎氏の孫、豊田章男氏は昨年4月に佐藤恒治氏にバトンを渡すまで14年近くにわたり社長を務めた。社長時代に、ダイハツ工業や豊田自動織機などグループに会社に不正が相次いで発覚し、グループ全体のガバナンスに厳しい目が注がれた。

 トヨタの舵取りをしてきた章男会長が、将来的な後継者に据えようとしているのが、長男の大輔氏(36)だ。それへの布石として、うるさ型の副社長を次々更迭し、イエスマンで周囲を固めた。だが、グループ全体の不正が相次いで発覚し、社内から「章男会長批判」の声が挙がるようになる。

 メディアは最大の広告主であるトヨタ批判はタブーだったが、「週刊文春」(2月29日号)が口火を切った。『豊田章男トヨタ会長はなぜ不正を招いたのか』と巨弾レポートを報じた。

 現役社外取締役が実名で「一家言ある副社長を次々放逐した」と告白している。これには驚いた。

 現役役員に刺されたのだ。豊田氏が「ブルータスお前もか」と口走ったのは、このことを指していると思われる。

 6月18日の株主総会で、豊田氏は経営責任について、どう語るか。助言会社2社は、豊田氏の取締役選任案に反対を推奨しており、豊田氏の賛成率が23年総会の84.57%から大幅に下がるのは避けられない。

(了)

【森村和男】

(前)

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