アジアの金融センター「香港」の没落(前)
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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏「眠らない街」だった香港
韓国語の言い回しのなかに、恍惚を覚える体験をすることを「香港に行く」と表現することがある。
香港はネオンサインにより夜景がきらびやかで、いつも観光客で賑わうアジアの代表的な都市であった。また、香港は世界で一番と言ってもよい中華料理を堪能できるだけでなく、昼も夜もショッピングを楽しめる「ショッピング天国」でもあった。映画産業においても一時期、香港はアジアで最も隆盛を誇っており、筆者も幼い時から香港映画を数多く見た記憶がある。
香港のスターのなかには韓国人なら誰もが知っている俳優が数人いた。ところが、香港は「ゼロコロナ政策」解除後も、海外からの観光客が戻らず、以前のような活気を取り戻せていない。
コロナ期間中に営業ができなくなり、多くの飲食店は店を畳み、香港の夜は驚くほど静かで様変わりしてしまった。このような状況になったのには、いろいろな理由があるだろうが、要因の一つとして、物価の高騰で観光客が香港にそれほど魅力を感じなくなったことが挙げられるのではないだろうか。
この10年ほど、不動産の高騰により、香港ではもはや一般の人が家を買えなくなってしまった。また、ビジネスコストもとんでもない水準にまで上昇した。香港はコスト的にほかの都市と比べ、競争力を失ったことが観光客が戻らないもう1つの原因であろう。
香港は中国経済が成長するなか、これまで中国にアクセスするためのアクセスポイントとして大事な役割をはたしてきた。金融面でも中国の発展を支え、アジアの金融ハブとして成長を遂げてきた。しかし、昨今の米中対立で中国経済も低迷し、香港はその影響をもろに受けている。そのような状況下で、香港の金融機能は衰退しはじめ、海外企業は香港から撤退している。また、2020年に国家安全維持法が発効され、中国政府によって人々の自由がいつでも制限できるようになったことも香港衰退の真の原因として考えられる。
人材は流出、香港政府の赤字も膨らむ
コストが上昇し、中国当局の規制の手が伸びるようになった香港は、本来の魅力を失ってしまい、その結果、香港から撤退する企業も増えている。
中国経済も低迷しているので、その煽りを受け、香港政府の財政は火の車だ。会計監査法人のKPMGによると、香港政府の財政赤字は1,300億香港ドル(約2兆5,000億円)になるだろうと推計された。22年の財政赤字は税収合計額の3分1ほどになるので、財政赤字がどれほど深刻であるかがわかる。
香港の魅力は何よりも低い税負担と税制が複雑ではなく、簡単で分かり安いことだった。その結果、多くの資金が香港に流れ込み、香港は金融が発達し、アジアの金融ハブとなったし、香港政府には多くの税収が発生した。しかし、財政赤字が拡大しているため、税収を増やすために香港政府は税制を改正し、税率を上げようとする動きに出ている。
(つづく)
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