【トップインタビュー】市制施行を見据えた基盤整備を進め、住民が幸福感を享受できるまちづくりを
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粕屋町長 箱田彰 氏
交通利便性の高さや都市と自然とが適度に調和した居住環境などを要因として、人口増が続いている粕屋町。現在、町内各所での開発が相次ぐほか、町の魅力発信にも注力しており、単独市制昇格要件の人口5万人達成を目前に控えた基盤整備に余念がない。現在2期目の粕屋町長・箱田彰氏に話を聞いた。
若者層にまちの魅力をPR
駕与丁公園の整備も──単独市制昇格要件の人口5万人達成が視野に入るほど人口増が続いていますが、まずは粕屋町の概要や魅力についてお聞かせください。
箱田彰氏(以下、箱田) 福岡市の東側に隣接する粕屋町は、約14㎞2という狭い町域ながらもJR福北ゆたか線とJR香椎線を合わせて6つのJR駅(柚須、原町、長者原、門松、伊賀、酒殿)を有し、通勤・通学や買い物にも便利な交通利便性の高さが特徴です。また、九州自動車道の福岡ICや福岡都市高速道路のランプを有する交通の要衝でもあり、国道201号沿いの東区多の津から連なるエリアには多くの物流施設や企業などが集積しています。さらに、市街化調整区域が町域の約半分を占めていることで緑や農地も多く残されており、それが良好な住環境の形成にも寄与しています。
ただ、人口増が続いているとおっしゃいましたが、実は現在、やや鈍化傾向にあります。当町の人口は、2022年9月末に4万8,975人となった以降は一進一退で、今年5月末時点では4万8,837人となっています。その要因として考えられるのは、ここ粕屋町でも地価が高騰し、新規住宅の開発が以前に比べると抑え気味になってきていることです。また、当町ではもともと人口4万8,000人達成を2030年ごろだと見込んでいましたが、10年前倒しの20年に達成しました。その急激な人口増の反動みたいなものも、あるのではないかとも考えています。
ただ、おっしゃるように人口5万人を達成して将来の市制施行を目指すためにも、粕屋町への移住・定住を促進していかねばなりません。その方策の1つとして現在、町内外の主に若者層に向けて粕屋町の認知の獲得とイメージアップを図っていくシティプロモーションに注力しているところです。
──具体的には。
箱田 たとえば現在、Z世代やミレニアル世代にも関心をもってもらえることを意識し、粕屋町の公式YouTubeチャンネルでPR動画「かすやのトリコ」を、公式InstagramでPRショートドラマ「だって…粕屋町やもん」をそれぞれ制作・公開しています。また、インフルエンサーや移住メディア「TURNS」にも協力いただいて粕屋町の魅力や情報を発信するほか、私や職員などが大学などに赴いて粕屋の良さを直接PRしたりしています。
あとは粕屋町のイメージといえば、何といってもランドマークである「駕与丁(かよいちょう)公園」であり、その魅力向上にも取り組もうとしているところです。たとえば駕与丁公園では、「バラまつり」や「YOSAKOIかすや祭り」など、年間を通してさまざまなイベントを開催していますが、現状はイベント時の駐車場のキャパが足りていません。そのため駐車場の拡張整備に加え、最近福岡市で盛んなPark-PFI(公募設置管理制度)による民間活用を含め、物販や飲食などの集客施設などの整備も検討しています。
町内では九大農場跡地含め
計100ha超の開発が進行──九大・箱崎キャンパス跡地の再開発が動き出しましたが、粕屋町の九大・原町農場跡地の動向も気になるところです。
箱田 農学部の附属農場だった九大・原町農場跡地ですが、その再開発については、もともと粕屋町の都市計画マスタープランのなかで西地区構想の重点事業の1つとして位置付けており、約22.8haもの広大な敷地を生かして、公共公益施設や商業・業務・住宅などが複合した新しい市街地を開発していく方針です。また、この跡地を通るかたちで、現在は扇橋交差点で止まっている「福岡東環状線(井尻粕屋線)」を国道201号やその先まで延伸整備していく計画もあります。
ところが、町の発掘調査でこの場所から飛鳥時代から奈良時代にかけての古代の役所跡だとされる「阿恵官衙(あえかんが)遺跡」が見つかり、20年に国史跡の指定を受けました。さらなる埋蔵文化財が存在する可能性もあることなどから、現在は文化庁と協議している状況で、現在まで大きな動きはありません。
ただ、箱崎キャンパス跡地の再開発が進み始めましたし、そろそろ原町農場跡地の開発も進んでほしいという期待はあります。将来的には新しい市街地の開発とともに、阿恵官衙遺跡を生かした遺跡公園の整備なども行っていきたいと思います。
──今年5月には、JR九州(株)との包括連携協定を締結されました。
箱田 今回のJR九州さんとの連携協定により、まずは既存駅の駅前のまちづくりや駅自体のリニューアルを行っていきたいと思います。とくに優先的に行っていきたいのは柚須駅と原町駅で、柚須駅は福岡市との境に近く、近隣に企業の事務所が多く立地していることから、乗降客数が町内で最も多い駅となっています。ですが、その乗降客数に見合うだけの駅施設や周辺環境となっておりませんので、駅舎の整備や駅前の利便性向上などを検討していきます。次いで原町駅のバリアフリー化なども検討していくほか、その他の駅についても順次手を付けていきたいと思います。
また、6つの駅同士、さらには駅と各地区とをコネクトするような、新たな地域公共交通サービスの整備も検討しているところです。現状も町内を福祉巡回バス「ふれあいバス」が走っていますが、イメージとしては、アイランドシティなどで運行しているAI活用型オンデマンドバス「のるーと」のようなものを想定しています。
さらに、町の構想としては先ほどの原町農場跡地のすぐ横に、JR新駅の設置も考えています。やはりこの場所の開発を進めていくにあたって、駅があるのとないのとでは、進み具合が全然違ってくると思います。まだ先の話になるとは思いますが、今回の連携協定が、将来的にJR九州への要望を行う際の足がかりになるのではないかと秘かに期待しているところです。
──ほかに、町内での主な開発計画などは。
箱田 まず、22年度に市街化区域に編入され、現在は区画整理事業が進行している「大隈西」地区の約12.9haでは、九州自動車道・福岡ICに近接している交通アクセスに優れた立地から、物流関連の土地利用を行っていく予定です。また、国道201号沿いの「戸原西」地区の約19.5haでも同じく物流関連の土地利用を計画しており、こちらは26年度に市街化区域への編入を予定しています。実は粕屋町は、ベッドタウンでもありますが、交通アクセスに恵まれた立地を生かして、物流関連の企業集積でも成長してきたまちです。なので、こうした物流企業・施設の受け皿の拡張を進めていくとともに、企業誘致にも注力し、それで得られる企業からの税収を行政サービス拡充の資金に充てていきたいと考えています。
一方で、JR酒殿駅の南側エリアで22年3月に土地区画整理事業が完了し、新たな住宅街が誕生したばかりですが、住宅関連の開発はさらに進めていきます。まず、福岡青洲会病院の東側一帯の「長者原西」地区の約21.0haは26年度に市街化区域への編入を予定し、ここでも住宅地開発を進めていくほか、先ほどの酒殿南の西側にあたる「酒殿西」地区の約6.4haでも新たに住宅地開発を進めていきます。
さらに、福岡東環状線沿いの「仲原別府」地区の約32.5haの開発も予定しています。ここは住宅関連だけでなく、商業機能も盛り込もうと考えているのですが、幹線道路沿いだからといって安易にロードサイド型の店舗を誘致するのではなく、何かしら“核”となるものを配置する開発を進めていきたいと思っています。
このように町内では今後、原町農場跡地も含めて合計100ha以上の開発を進めていく予定です。
目指すべきまちの姿は
田舎の良さと都市機能の調和──5年前の取材の際は、早急な市制を目指すのではなく、市制を見据えながらいつでも施行できるような基盤整備を行っていくとおっしゃっていました。現在はいかがですか。
箱田 市制施行に関するメリット・デメリットなどの研究を進めてきましたが、それはほぼ完了しています。デメリットとしては、たとえば市になると福祉事務所を設置して、これまで県が行ってくれていた福祉政策などを自前で行わなければならないほか、行政機能の拡充にともなう人件費などの増大などがあります。一方で、メリットとしてはさまざまありますが、とくにイメージ面での副次効果が大きいように思います。先ほどの企業誘致にしても、町と市では手を挙げてくれる企業の数が違ってくるでしょうし、定住促進にしてもそうです。
そうしたメリットとデメリットを比較して勘案した結果、23年4月に市制対策室を設置し、23年度を「市制対策のスタート元年」と位置付けるなど、今では本格的に市制施行を目指す方針へと舵を切っています。
──今年1月に、福岡市の中央区長の経験がある池見雅彦氏が副町長に就任しましたが、これは市制施行に向けた布石でしょうか。
箱田 それについては、直接的に市制施行するための手段として池見氏に副町長へ就任していただいたわけではありません(笑)。ただ、池見氏が福岡市の行政職員としてこれまで培ってきた知見やノウハウ、アイデア、人脈などは、これからの粕屋町のまちづくりにとって必要だと思っています。
というのも、粕屋町は福岡市に隣接していることもあり、住民からは生活レベルや便利さ、都市機能などを福岡市と同等のレベルを求められます。こども医療や保育などの子育て支援にしてもそうです。そのため、池見氏にも随時相談しながら、粕屋町の行政サービスを福岡市と比べても遜色ないレベルまで引き上げていきたいと思っています。
──ほかに、現在注力している取り組みなどは。
箱田 先ほどの開発もそうですが、行政として住民サービスのさらなる拡充も図っていかなければなりません。冒頭に人口増についてお話ししましたが、実は粕屋町の人口ピラミッドを見ると20~40代の働き盛り世代が最も多く、人口増の主な要因は転入による社会増ではなく、出生による自然増です。そのため粕屋町では、次代を担っていく子どもたちの成長と教育を政策のど真ん中に据えており、すべての妊産婦や子育て世帯、子どもへの一体的総合支援を行うことで、「子育て応援都市かすや」を実現していきます。さらに、児童生徒の教育環境の改善に加え、災害発生時の避難所としての環境改善のため、すべての小・中学校体育館の空調設備を今年度中に完備します。
また、自治体DXやGX(グリーン・トランスフォーメーション)を推進するほか、先ほどの新たな地域公共交通サービスなど、「いつでも市制施行できる」ための都市基盤整備を進めていきます。
──最後に、箱田町長が目指されている粕屋町の将来像についてお聞かせください。
箱田 私は、そのまちの良さというのは、やはり住民の方々が満足できる暮らしができているかどうか、幸福感を味わえているかどうかだと考えています。たとえば、子どもたちが学校にストレスなく行ける、保育施設の充実で保護者が働ける環境が整っている、通勤・通学のための交通手段も確保できている、そして高齢者も買い物難民にならず自由にどこでも行けて、公共サービスも受けられる──そうした適度に田舎の良さをもちながらも、充実した都市機能がバランス良く調和した“トカイナカ”というのが、やはり粕屋町の目指していくべき姿だと思います。
これまでお話ししたように、都市機能を充実させるためには企業立地を進め、その企業からの税収というかたちでの恩恵を、公共の行政サービスに還元できるような、そういった良い循環を構築していかねばなりません。そのための仕掛けを今やっていこうとしていますが、そうすることで、自然に人口も増えていくでしょうし、豊かで住みやすいまちになっていくのではないかと思います。これからも、粕屋町にお住まいのすべての方々が幸福感を享受できるまちづくりを進めていきます。
【坂田憲治】
<プロフィール>
箱田彰(はこだ・あきら)
1954年4月、粕屋町出身。福岡高校、中央大学を卒業後、79年に粕屋町役場に入庁。収納課長や経営政策課長を経て、2013年4月から15年11月まで副町長を務める。18年9月に粕屋町長に初当選し、現在2期目。法人名
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