佐賀が推進する事業用建築物の木造化(後)
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さがの木の建築推進協議会
非住宅・中大規模建築物(事業用建築物)の木造化を推進する機運が高まっているものの、九州だけ見ても自治体ではそれぞれに異なる状況、課題を抱えており、そのため対応の在り方は一様ではあり得ない。そんななか、佐賀県では県の地域特性に合わせた推進策を展開し、それを通じて林業再生や木材活用の推進を図ろうとする動きがある。その中心的役割を担うことが期待される「さがの木の建築推進協議会」の取り組みについて、関係者に取材した。
川下で強い影響力、建築士が中心の組織
清水会長(左)と川﨑副会長 「これまでも佐賀県産材の活用、とくに事業用建築物の普及による活用拡大の重要性は認識されていましたが、その実現に向けては川上の林業事業者、川中の木材加工・流通事業者、川下の建築士や建設事業者がそれぞれにバラバラの認識をもっていました。あえていうなら使っている言葉がまったく違う、といったイメージでした。そうした状況を改善するために2年にわたりお互いを理解する機会を設け、協議会設立に至ったのです」と、協議会の設立で中心的な役割を担い、会長を務める、(株)アルセッド建築研究所の取締役佐賀所長・清水耕一郎氏は話す。
清水氏が会長となっていることからわかるように、協議会を主導するのは建築士である。そうした事例はほかの自治体ではあまり例がなく、非常にユニークな団体といえる。では、なぜ建築士が中心となり活動する方向性をとっているのだろうか。それは、建築物の提案を行ううえで、建築士が強い影響力をもつからだ。そもそも、建築士に建築物の木造・木質化に必要な知識や設計ノウハウがなければ、事業主に提案されることはない。これまで事業用建築物の分野では、鉄骨造かRC造で建設されることが一般的だったのは、木造への理解がない建築士が多かったことが大きな要因となっていた。
佐賀県産木材で建てられた
認定こども園「さくらんぼ」(多久市)しかし、木造建築物はかつての姿から大きな進展を見せている。たとえば経済性を例にとると、木造の躯体は軽いことから基礎工事費などが抑えられるため、建設費全体として見れば、ほかの構造に比べコストダウンが図られ、工期も短くなるケースがある。建築技術の向上により耐震性や耐久性を兼ね備えながら、木組みを生かした美しいデザインの建築物とすることも可能だ。「木造の中大規模建築物はすでに高度な技術を要する特別なものではなくなっています。そのことをより幅広い方々に知ってもらうべく活動しています」と、副会長の(株)川崎空間研究所・代表取締役で一級建築士の川崎康広氏は話す。
現在は、協議会の会員による研修会を通じたスキルアップを進めている段階だという。一方で、「仲間づくり」としてゼネコンや工務店に会員として参加してもらうための取り組みにも着手。「木造・木質の事業用建築物について高く評価する若い建築士、そして事業主も現れ始めており、少しずつ案件が動き出そうとしている」と清水氏は話す。
コンパクトな市場も普及の追い風に
大町町での事業所施工の様子 ところで、佐賀県は大都市を抱える福岡県などに比べて、建築需要そのものが少ないのが実状だ。それは中高層ビルの需要についても同様だが、そこにチャンスがあるのだと清水氏は指摘する。「市場のパイが小さいからこそ、1つ成功事例ができれば、その情報が地域に広がりやすいなど波及効果が大きく、普及のスピードが早いのが佐賀県の特徴」(清水氏)だからだ。そのため協議会関係者は今、協議会が関係する第1号事例をいかに早く創出できるかも目標の1つとしている。
佐賀県において、木造による事業用建築物普及のかたちができれば、その果実は同県にとどまらず、全国にスピード感をもって波及する可能性がある。佐賀県と林産業、建築需要の点で似たような状況にある自治体は数多くあるためだ。また、これまで主な木材の活用先であった住宅市場が縮小していくなかで、大工など住宅建設に携わる人たちの新たな仕事の確保につながる可能性もあり、さがの木の建築推進協議会の取り組みがどう進展していくのか、非常に興味深いところだ。
(了)
【田中直輝】
<INFORMATION>
会 長:清水耕一郎
所在地:佐賀市城内1-1-59
(事務局:佐賀県林業課)
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