2024年12月24日( 火 )

【クローズアップ】動き出した九大・箱崎キャンパス跡地再開発【提言】トライアルDX案取り込みで“鬼に金棒”へ

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 これからいよいよ再開発が進んでいくことになる九大・箱崎キャンパス跡地。住友商事(株)を代表企業とするグループによる提案では、エリア内に機能を分散させてまちを形成していくほか、「将来活用ゾーン」として開発の余白を設けているが、この将来活用ゾーンの使い方次第で、全体がさらに良くなる可能性を秘めているように思われる。私見ながら、提言としてまとめてみたい。

箱モノ依存からの脱却

 九大・箱崎キャンパス跡地の再開発における優先交渉権者に決定したのは、住友商事(株)を代表とし、九州旅客鉄道(株)や西日本鉄道(株)、西部瓦斯(株)、清水建設(株)、大和ハウス工業(株)、東急不動産(株)、(株)西日本新聞社で構成される企業グループ。今回の公募ではほかに、九州電力(株)や(株)九電工、東京建物(株)らで構成されるグループと、トライアルグループの計3グループが応募していた。5月に公表された審査結果では、価格評価点では九電らのグループが満点を獲得してトップだったが、企画内容の評価項目である「まちづくりコンセプト」「スマートサービス」「都市空間」「都市機能」「まちづくりマネジメント」のすべてで住商らのグループが他2グループを引き離し、総得点では住商らのグループが次点の九電らのグループに90点近くの大差を付けて勝利した。

 住商らのグループによる提案では、まちづくりのコンセプトを「HAKOZAKI Green Innovation Campus」とし、箱崎キャンパス跡地および九州大学の歴史を継承したうえで、高質でみどり豊かなまちづくりを進めて新たな価値を提案し、新産業を創造・発信していくとともに、環境先進都市として世界を牽引する、未来のまちづくりを実現するとしている。内容の詳細は割愛するが、特徴的な「イノベーションコア」を中心に、ゾーン特性に応じた交流・発信・実証を促すスマートステージの整備や、「箱崎創造の森」と題した緑空間の確保を進めていくほか、グローバル創業都市福岡の新しいイノベーション拠点を確立していくとしている。また、「箱崎版地域包括ケアシステム」を構築した医療・福祉機能や、九州大学100年のレガシーを継承した教育機能、多様な人たちが安心して暮らし、交流やコミュニティが生まれる多種多様な居住機能なども整備していく方針となっている。

 住商らのグループによる提案の特徴を一言でいえば、「箱モノ依存型の旧来の再開発手法からの脱却」といっていいだろう。九電らのグループが提案したとされる大規模集客施設(アリーナ)とは違って明確な“核”が見当たらない。「交流・にぎわい・業務・研究」機能を担うイノベーションコアを中心として、エリア内に「居住」「生活支援」「教育」「医療・福祉」「物流」などの機能を分散配置することで、単なる箱モノをつくって終わりではなく、人々の生活や活動の営みが感じられる場としての新たなまちをつくっていこうというような意気込みが感じられる点は好感がもてる。

開発余白にトライアルDX案を

住友商事らグループの提案・全景(九大・UR公表資料より)
住友商事らグループの提案・全景(九大・UR公表資料より)

 もう1つ注目したいのが、当初計画ですべてを埋めてしまうのではなく、「将来活用ゾーン」として開発の余白を設けている点だ。こうした将来の変化に備えた拡張性を備えている点は、持続可能性などを考えた場合、今の時代に合っているのかもしれない。

 ここで提案したいのが、この将来活用ゾーンにおいて、トライアルグループが提案していた案を取り込んでみるというのはどうだろうか。トライアルグループでは、今回の公募での落選直後に、提案していた案を公表している。それによると、「ALL JAPANでDXを推進する」「博多ベイエリアを日本のシリコンバレーにする」というコンセプトに基づき、異なる分野の掛け合わせを推進して新たな産業クラスターを形成し、イノベーションを生み出していくとしている。また、都市機能のなかで、業務・研究機関の中心施設「DX Development Center」や産学公が連携するDX Development コンソーシアムを設けるなど、まちづくりの核に「DX」を据えていることがわかる。ことDXに関してトライアルグループは、すでに宮若市および九州大学との産官学協働で、リテールDXを軸にしたまちづくり「リモートワークタウン ムスブ宮若」プロジェクトを独自に推進。福岡市が箱崎キャンパス跡地で進めようとしている「FUKUOKA Smart EAST」にも合致する先進都市づくりの領域では、独自のノウハウを豊富に蓄積しているといえる。

 住商らグループの提案ではイノベーション拠点「BOX FUKUOKA」などもあるが、仮に将来活用ゾーンにトライアルグループのDXのまちづくり案を加えると、都市機能全体を下支えするDXがさらに強化され、より良いまちになっていくのではないだろうか。この場所が、九州大学という教育・研究の場であったことを考えると、DXの業務・研究機関との親和性も高い。まちづくり全体の提案としては負けてしまったが、トライアルグループのDXのまちづくり案にはキラリと光るものがあるように見受けられ、これを取り込めば、まさに“鬼に金棒”だ。優先交渉権者となった住商らのグループには、“王者”の度量をもって他グループの優れた案を貪欲に取り込み、箱崎キャンパス跡地のより良いまちづくりに取り組んでいっていただきたい。

【坂田憲治】

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