2024年11月21日( 木 )

米中対立の下、習近平氏は何故悪手を連発するのか(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は7月21日発刊の第359号「7月18日のワシントン・北京二都物語~米中対立の下、習近平氏は何故悪手を連発するのか」を紹介する。

現状否認、弥縫策と問題先送り

 中国が日本と同様の不動産バブルの崩壊、デフレ陥落という長期経済困難に陥りつつあることは明らかである。3中全会の声明には「不動産、地方政府債務、中小金融機関など重点リスクを抑える方針をしっかり実行する」と明記されたがその具体策はなく、これまでの弥縫策と問題先送りが連発され続けることを示唆した。

 そもそも習近平政権は不動産価格規制により価格下落を抑えることで、バブルそのものを否定している。日本の場合地価はピークから8割下落して底入れしたが、中国の住宅価格は1割程度の下落にとどまっている。よって統計上も企業財務上も日本で起きたような規模での不良債権はまったく発生していない。その結果恒大集団、碧桂園などの事実上の破綻企業が追い貸しによって生かされている。

 当然のこととして、住宅価格の先安観が定着し不動産取引が激減しているのである。不動産需要を振興するためにローン金利の引き下げや頭金比率の引き下げ、代金前受済みの未完成物件(保交楼)の完成のための不動産業者への融資拡大、売れ残り住宅在庫の政府買い取りと公的住宅への転用、などが打ち出されたが、その規模は小さく焼け石に水である。

 雇用不安が高まり、不動産価格の先安観が高まっている状況では、国民は消費を切り詰めざるを得ず、それがさらなる経済収縮を招いている。社会保険・年金未整備の中国では、唯一庶民が頼れるものは貯蓄のみなのである。

患者が外科手術に耐えられないのか、
共産党は外科手術をできないのか

    1990~2003年までの日本における不動産バブル崩壊と不良債権処理の過程では、公的資金注入に対する世論の批判が強く、金融構造改革が遅れ経済の長期停滞につながった。これに対して中国は「独裁国家なのでバブル処理が迅速に行われる」という期待があった。しかし中国は日本どころではない問題の先送りが連発されている。習政権がそうした合理性のない悪手を採り続ける動機はどこにあるのだろうか。

 2つの理由が考えられる。第一に病状が深刻で患者が外科手術に耐えられない、のかもしれない。日本の不動産貸付はピークでGDPの2割程度であった。しかし中国の場合地方政府の別動隊である地方融資平台の債務残高だけでGDP比53%と日本の比ではない。さらに地方政府は高騰した土地利用権を販売することで総収入の4割以上を稼ぎ、固定資産投資や産業補助金の原資としてきた。地価下落を認め土地売却収入が激減すれば、地方財政は成り立たなくなる。高騰した不動産価格を維持するしかないのだろう。

 第二の可能性は、そもそも共産党体制が資本の規律になじまないということである。日本の金融改革は、物件のキャッシュフローと資本コストにより公正な不動産価格評価を行うことから始まった。しかし中国には資本コストで投資プロジェクトを評価するという慣習がない。恣意性が当たり前の党主導の行政において、資本の規律に従わせることは無理なのであろう。となるとゾンビを生かし続けるしかない。

活路「新質生産力」は
中国をさらに孤立させる

 このように見てくると、不動産バブルが慢性疾患化し、患者は緩慢に衰弱し続けるほかはなくなる。ならば中国経済の活路はどこにあるのだろうか。3中全会の答えは、競争力が圧倒的に強いソーラパネル、EVなどのハイテク、グリーン産業等の「新質生産力」で世界市場を圧倒し続けるということである。しかしそれはバイデン政権のみならずトランプ氏も欧州も拒絶する政策である。対中批判が高まり、中国はさらに孤立せざるを得ない。7/18日の二都物語は、米国の圧倒的優位を物語っている。

(了)

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