DV相談証明の制度運用実態(4)悪用されて「親子断絶」を生みかねない制度設計
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主な回答の要点
一部の回答の要点を確認する。
質問4への回答から、DV相談証明書の申請要件は、本人の来所によるDV相談のみであることが分かった。DV被害の客観性を示す診断書などは申請要件として不要であり、当該制度がDV被害の客観性を問わず、被害主張者の早急な保護を最優先していることがうかがえる。
質問7では、制度の運用件数について、一部の自治体は「統計がない」と回答しており、運用実態を正確に把握できるのか疑問が残る。国は、証明書申請件数を始めとして、DV等支援措置により閲覧等をブロックされたことへのクレーム件数や、それに対する不服申し立てと行政審査の結果など、実態の把握につとめるべきである。
質問11における自治体B、D、Fの回答は、主旨はいずれも同じであり、回答の詳しさの違いと見ることができる。すなわち、DV相談証明書をもって申し出が可能となる、住民票の閲覧ブロックなどのDV等支援措置については、住民基本台帳事務処理要領に記載された手続きにのっとった対応を行っていることを、いずれの回答も主張している。
以下でDV相談証明書とDV等支援措置の関係について整理する。
DV等支援措置は加害者とされた側の権利を制限する措置
住民基本台帳事務処理要領は、市町村が行う住民基本台帳の事務処理についてまとめた、主に総務省による発出通知である。このなかで、「住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付並びに戸籍の附票の写しの交付におけるドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の保護のための措置」という項目が設けられており、これがDV等支援措置と呼ばれる。
この措置はDV等被害者の申し出があれば、被害者の保護のために、加害者が被害者の住所を探索する目的で住民票を閲覧したり住民票・戸籍附票の写しの交付請求があった場合に、それを拒否(ブロック)することができるものとされている。つまり、DV等支援措置は、被害者保護最優先の観点から、加害者とされる側の権利を制限する措置となっている。
そのように他者の権利を一方的に制限する措置であることから、措置実施の申し出が可能な者は限定されており、(1)DV防止法、(2)ストーカー規制法、(3)児童虐待防止法のそれぞれが規定する被害者であり、かつ今後もその被害を受ける可能性がある者とされている。そしてもう1つ、(4)その他これらに準ずる者が、申し出が可能な者に加えられている。
また、申し出があった場合には、受付機関は支援の必要性を次のような方法で確認するとしている。
加害者が、当該申出者の住所を探索する目的で、住民基本台帳の閲覧等を行うおそれがあると認められるかどうかについて、警察、配偶者暴力相談支援センター、児童相談所等の意見を聴取し、又は裁判所の発行する保護命令決定書の写し若しくはストーカー規制法に基づく警告等実施書面等の提出を求めることにより確認する。
この場合において、市町村長は、上記以外の適切な方法がある場合には、その方法により確認することとしても差し支えない。自治体DとFの回答にある、「警察やDV相談機関等の情報を基に」や、「警察、配偶者暴力相談支援センター、児童相談所等の意見を聴取し」とは、この項目についての言及である。
DV相談証明書は客観的証拠なしに支援措置を可能にする
支援措置の申し出が可能とされている上記の(1)~(3)で規定される者となるには、それなりに手続きが必要である。そのため、(1)~(3)の保護対象者となる手続きを満たしていない場合でも、(4)それらに準ずる者としてDV等支援措置の対象者となることを認めるために設けられた手続きが、DV相談証明書の発行制度である。
証明書の発行については、DV防止法に基づいて告示された「配偶者からの暴力の防止および被害者の保護のための施策に関する基本的な方針」(DV防止基本方針)のもとで発出された、各都道府県に対する省庁通知に基づいている。DV相談証明書は、被害者保護を優先とするDV防止法ならびにDV防止基本方針の理念を反映して、客観的なDV被害の証拠がなくても相談者が支援措置の対象となるように発行が認められた証明書である。
ただし、そのように客観的な証拠に基づかない証明書であるために、発行される証明書には、「本証明書は、本人の申し出による配偶者からの暴力に関して、来所相談があったことを証明するものであり、配偶者から暴力があった事実を証明するものではありません」という文言が明記され、支援措置以外の目的で証明書が使用されないようになっている。
質問11の回答に戻ると、自治体B、D、Fは回答で、支援の必要性については「警察などに確認を行う」としている。しかし、DV等支援措置とDV相談証明書は、住民票の閲覧等をブロックするという実際の措置と、その申し立てが可能な者を認定するという2つの段階において、DV被害を主張する側を優先的に保護する思想となっているため、用意周到な虚偽のDV主張がなされた場合、何ら歯止めがないまま、証明書の発行と、それによる措置の実施によって、加害者とされた側の権利が一方的に制限されてしまう制度となっている。
よって、この制度で住民票の閲覧等をブロックされた側が自身の権利を守る方法は、自治体Fが回答しているように、ブロックされた後に「不服申立て」を行うという方法である。
「不服申立て」では親子断絶を防ぐことはできない
虚偽DVの主張によってDV加害者とされた側が住民票の閲覧等を請求する目的は、自らの親権に関する適切な措置を講じるために、虚偽DVを主張する配偶者が一方的に連れ去った子どもの所在を探すためだ。
だが、虚偽DVの申し立てで住民票の閲覧等をブロックされた側は、権利として認められた「不服申立て」によっては取り返しのつかない被害を負うことになる。
子どもの親権者を決定するにあたって、裁判所が重視する基準の1つに「継続性の原則」がある。すなわち、両親の別居後、子どもがすでに一定期間どちらかの親と同居して安定した生活を送っている場合、あえて状況を変更する必要がない限り現状を継続したほうが子どもの福祉にとって望ましいと考えて、同居親を親権者に相応しいと見なす基準だ。
子どもが片親によって連れ去られ、同時に虚偽DVの申し立てで住民票の閲覧等がブロックされ、子どもの居場所を把握することができなくなった別居親は、「不服申立て」によって子どもの所在に関する情報開示を行政に対して求めることになる。その間、別居親は自らの親権に関する適切な措置を何ら講じることができないまま時間を過ごすことになるが、一方、連れ去り親はその期間を子どもと同居した期間として、後日、親権をめぐる争いにおいて、「継続性の原則」に従って親権獲得のための有利な時間とすることができる。つまり、DV相談証明書とDV等支援措置の制度は、子どもの連れ去りを企てて虚偽のDVの主張をする者にとって、極めて有利な制度として成立している。
このように虚偽DVの主張によっても発行が可能なDV相談証明書と、それによって申し立てが認められるDV等支援措置は、子どもを連れ去られた片親の権利を一方的に侵害し、回復しがたい重大な被害をもたらす。その被害とは、子どもの連れ去りをきっかけとした「親子断絶」である。
(つづく)
【寺村朋輝】
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