2024年11月20日( 水 )

DV相談証明の制度運用実態(5)性差別を基本としたDV防止法が被害を生んでいる

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 DV相談証明とDV等支援措置が、虚偽DVの主張によって悪用され、加害者とされた側に回復しがたい被害をもたらすことを見たが、なぜそのような制度が生まれたのか。その原因である根拠法・DV防止法と、政府の施策方針であるDV防止基本方針の基本的な考え方について整理する。

女性被害者主義と、憶断による被害者保護主義

 「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(DV防止法)の前文は次のように記している。

 配偶者からの暴力の被害者は、多くの場合女性であり、経済的自立が困難である女性に対して配偶者が暴力を加えることは、個人の尊厳を害し、男女平等の実現の妨げとなっている。
 このような状況を改善し、人権の擁護と男女平等の実現を図るためには、配偶者からの暴力を防止し、被害者を保護するための施策を講ずることが必要である。

 このようにDV防止法は、法の趣旨において「女性」を被害者として想定し、それを積極的に救済するための施策を講じることを求めている。このDV防止法に基づく政府の施策方針を示した「配偶者からの暴力の防止および被害者の保護のための施策に関する基本的な方針」(DV防止基本方針)は、基本的な考え方を次のように記している。

 配偶者からの暴力は、外部からその発見が困難な家庭内において行われるため、潜在化しやすく、しかも加害者に罪の意識が薄いという傾向にある。このため、周囲も気付かないうちに暴力がエスカレートし、被害が深刻化しやすいという特性がある。
(中略)
 また、同性カップル間の暴力や被害者が男性、外国人、障害者などの場合があること、暴力の形態には身体的・精神的・経済的・性的なものなど多様な形があり得ることにも留意が必要である。
(中略)
 国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力を防止するとともに、被害者の自立を支援することを含め、その適切な保護を図ることが必要である。

 このようにDV防止法はまず基本的に「女性」を被害者として想定する。そのうえでDV防止基本方針は基本的な考え方として、被害者と加害者の関係を断定的に規定し、「外部からその発見が困難な家庭内において行われる」DVの被害者の発見と保護を最優先とするために、憶断による被害者の認定と、女性保護を目的として拙速な方法で加害者とされた側の権利を一方的に制限することを是認する思想となっている。

 「女性」以外の被害者についても「留意が必要である」とはいうものの、優先的に女性を被害者として想定する思想になっているため、実際には男性が被害者である場合においても、女性から被害の訴えがあれば優先的に女性を被害者と見なし、男性を加害者と見なす運用となりやすい。そのような法制度であるため、男女の争いとなる親権をめぐる争いにおいては、女性が自身を有利な立場とするために虚偽のDV主張を行い、相手男性に深刻な被害を生み出す温床となっている。たとえば、女性が一方的に虚偽のDV主張を行った場合、加害者とされた男性は、家族への接近禁止命令を受けるなど、一時的にも強い人権侵害を受けることとなり、それをきっかけとして別居から親子関係の断絶に至るなどの被害を生んでいる。

 このように性差別を根本に据えたDV防止法の女性被害者主義と、憶断による拙速な被害者保護主義の理念を体現した制度が、DV等支援措置であり、DV相談証明の発行制度である。

共同親権の課題と、DV防止法の在り方

 別居親と子どもの断絶をめぐっては、過去のシリーズ記事でも見てきたように、単独親権、DV防止法の悪用、継続性の原則がワンセットになって、親子断絶の被害者を生み出す仕組みとして機能している。

 5月に共同親権の導入を柱とする改正民法が成立したが、ここでも共同親権の留保条件として、同居時にDVや子どもへの虐待が発生していたと裁判所が認めた場合は、被害者を保護するために単独親権が設定されることになっている。

 真正のDV被害者に対して保護が必要なのは当然だ。しかし、先述したように性差別を基本に据えたDV防止法は、虚偽DVの主張による悪用を許す法制度となっており、共同親権の運用においてもDV防止法が悪用される懸念がある。また、これまで裁判所が親権者の決定を行うにあたって重視してきた、「継続性の原則」とDV防止法の合わせ技で、一方的に親権を奪われ、子の福祉を無視した同居親の悪意によって、事実上の親子断絶を強いられている別居親が数多生み出されている現状がある。

 新たに導入された共同親権が、その本旨である「子どもの福祉を最優先する」ための制度として健全に運用されるには、その関係法令として大きなしばりとなっているDV防止法の在り方について、ならびに今回記事で問題としているDV相談証明書の発行とそれによるDV支援措置等の運用について、広く議論が必要である。

(了)

【寺村朋輝】

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