【訃報】「夜の銀座の象徴」丸源ビル・川本源司郎氏回想(後)
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「川本源司郎」──。なつかしい名前を目にした。「銀座の大家」と呼ばれた丸源ビルのオーナーだ。脱税で4年の懲役刑が確定して以降、その消息を知ることはなかったが、今年2月に亡くなっていたと報じられた。福岡・小倉出身の“怪人物”の軌跡を振り返ってみよう。
ハワイの不動産王から個人住宅を購入
88年には、ハワイの不動産王といわれたヘンリー・カイザー氏の旧邸宅を、4,250万ドル(当時の為替レートで約47億円)という、米国の個人住宅としては当時の最高額を支払って購入した。
この邸宅は、ジャクリーヌ・ケネディ大統領夫人などの賓客が訪れ、華やかな社交舞台としての歴史をもつ。川本氏は毎年100万ドル(当時の為替レートで約1億1,000万円)の地代の支払いをめぐり、地主と軋轢が生じ、94年に建物所有権を返却している。
バブル崩壊で同業の不動産長者が続々と表舞台から去ったが、川本氏は乗り切った。その理由について、米経済誌『フォーブス』(99年9月号)で次のように語っている。「金融機関の誘いに乗って採算の合わない割高な土地に手を出さなかったこと」。バブルに浮かれなかったというわけだ。
国税に対して「全戦全勝」と豪語
「節税しない経営者はバカ。無駄な税金を払う必要はない」。川本氏の語録には、税金の支払いに極度に消極的な姿勢を示すものが多い。
川本氏は不動産の管理会社を設けず、丸源興産、みなと興産、丸源、丸源商事、東京商事など自身が代表を務める会社の設立と清算をまるで趣味のように繰り返していた。いずれもペーパーカンパニーだ。
ペーパーカンパニーは赤字の税務申告をして、法人税を払わなかった。それでいて赤字のはずの丸源グループは、飲食店ビルを次々と建てていった。
東京国税局は丸源グループに目をつけ、何度も調査に乗り出したが、脱税の証拠をつかむことはできなかった。法に触れることなく、赤字申告していたからだ。逮捕前、メディアの取材に、川本氏は「国税とは、何十年間も真正面からやってきて、全戦全勝」と豪語したのもうなずかれる。
国税が長年の執念で川本氏を脱税で摘発
丸源グループのオーナー、川本源司郎氏は2013年3月、法人税の支払いをのがれたとして、法人税法違反の容疑で東京地検特捜部に逮捕された。
東京地検特捜部の発表によると、グループ企業である東京商事にテナント料を集約、一部の賃料を売り上げから除外したり、所有するビルを売却したように装って架空損失を計上したりする手口で、11年12月期までの3年間で約28億8,000万円の法人所得を隠し、約8億6,000万円を脱税した疑いがもたれている。東京商事は12年4月に清算している。
地裁、高裁と争われたが、21年1月、最高裁上告を退ける決定をし、懲役4年、罰金2億4,000万円の実刑が確定、塀の内側に落ちた。
「節税はゲーム」とうそぶく川本氏を、特捜部は悪質な脱税者として切り込んだ。ビルの売却であり余るほどの潤沢な現金をもっている。それなのに、会社の清算を繰り返す不可解な工作をして、なぜ、国家を敵に回してまで脱税する必要があったのか。「節税はゲーム」という感覚の代償は高くついたようだ。
(了)
【森村和男】
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