インドの未来:3期目のモディ首相の頭の中(中)
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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸その意味でも、ロシアに限らず、グローバル・サウスの中心的役割を果たそうと積極的に動いているインドに注目する必要があります。国連の最新の人口統計予測によれば、この4月末、「インドの人口は中国を凌駕した」と報告されました。2024年末のインドの人口は14億2,900万人で、中国は14億2,600万人と予測されています。
このままでいけば、インドの人口は63年には17億人を突破するはず。インドの特徴は若年層の多さです。中国では人口の15%弱が65歳以上で、この比率は年々増加しています。日本同様、人口の高齢化が急速に進んでいるわけです。長年、「一人っ子政策」を続けてきた影響も顕著なのが中国。
一方のインドは女性が平均して6人の子どもを出産してきました。やはり人口の多さは経済力にも影響します。インド国立銀行の予測によれば、GDPですでにイギリスを抜いたインドですが、ドイツや日本をも間もなく追い抜き、29年にはアメリカ、中国に次いで世界第3位の経済大国に躍り出るとのこと。今後10年以内に、インドのGDPは現在の3兆4,000億ドルから8兆5,000億ドルに急増すると見られています。ちなみに、今年の経済成長率は8%と予測されています。
もちろん、インドにはカースト制度の名残もあり、社会階層間や異なる宗教間の対立もあります。しかし、経済的な豊かさが広がれば、そうした「負の遺産」も早晩克服されるに違いありません。
日本ではほとんど知られていませんが、インド人の大富豪の数は中国に引けを取らないほど急増しています。自然再生エネルギー会社である「アダニ・エンタープライゼズ」は過去5年間で資産価値を50倍に拡大。同社は30年までに世界最大の自然再生エネルギー企業になることが確実視されています。
同社の創業社長であるアダニ氏はモディ首相と同郷で、モディ首相の選挙活動を全面的に支援してきた人物で、いわば、モディ首相の応援団長です。港湾、道路、鉄道などインフラ整備ビジネスで財をなしたアダニ氏ですが、モディ首相の経済政策にも深く関与しています。
最近のインドの技術的躍進を象徴しているのが、月面探査機の打ち上げといえます。「チャンドラヤーン3号」と命名されたロケットは月面着陸に成功しました。これまで月面到着を成し遂げたのはアメリカ、ロシア、中国ですから、インドは4番目となります。もちろん、インドが目を向けているのは月に限りません。モディ首相はインド国内のインフラ整備にも並々ならぬ意欲を見せています。
とはいえ、インドでは自然災害や列車の衝突事故が頻発しています。30年を目標に、国内1,200の駅に自然エネルギーによる発電設備を完備するとのこと。こうした鉄道の改良工事と自然再生エネルギーへの転換によって新たに110万人の雇用を生み出すと豪語するのがモディ首相です。宇宙と地上に「Made in India」を拡大しようとの構想に他なりません。
そんな未来の超大国を目指すインドでは6月4日開票の総選挙が実施され、モディ首相が3期目を手にしたばかり。世界最大規模の選挙で、有権者数は約10億人。投票所の数は100万か所を超えていました。しかも、IT大国のインドらしく、選挙運動では世界初のAI技術を駆使したユニークな取り組みが目白押し。
モディ首相もAIのお世話になっていました。広い国土で世界最大の人口を抱えるインドです。公式の言語だけで22種あり、非公式の地域言語は780を超えています。共通語のヒンディー語で語りかけても通じない地域や有権者が多いため、モディ首相は独自の同時通訳ソフトを活用し、多言語での選挙活動に取り組んだというわけです。
とはいえ、73歳になったモディ首相の前途はバラ色とは限りません。というのも、10年間政権を握ってきたのですが、今回の総選挙では自らが率いる人民党は議席数を大幅に減らしたからです。結果的に、議会での単独過半数を失いました。今後は、連立を組むほかの少数政党との駆け引きが欠かせなくなり、かつてのような「モディ一色」とはいかなくなります。
しかし、モディ首相は強気の姿勢を崩していません。「インドのために大きな計画を温めている。誰も怖がる必要はない」と発言。 かつてセクタリアン暴力への関与が疑われ、米国と英国からは「ペルソナ・ノン・グラータ」と認定され、入国が認められていませんでしたが、首相になってからは歓迎されるようになっています。インド経済を発展させ、中国とも対峙する姿勢を維持しているので、欧米からは期待値が高まっているためでしょう。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連キーワード
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