2024年08月13日( 火 )

インドの未来:3期目のモディ首相の頭の中(後)

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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

 モディ首相にとって、日本の技術や投資はインドの経済発展に欠かせないもの。そのため、日本にもたびたび足を運び、政界や経済界との関係強化に努めています。日本の経済界もインドの可能性に期待を寄せ、2025年2月には日本の文化や技術を紹介する大規模な日本博覧会をインドで開催する予定です。日本が外交の中心に位置づけている「インド太平洋戦略」を名実ともに実現する好機到来といえます。

 あまり知られていませんが、インドでは「水問題」が深刻化しています。異常気象の影響もあり、河川や井戸が干上がり、生活用水や農業用水にも事欠くといった危機的状況が各地で発生中です。かつてモディ首相は「19年までにすべての家庭に水道水を届ける」と公約していました。このところ連日45度を超える熱波に見舞われているため、水の確保は至難のワザ。インド第2の都市ムンバイですら水汲みのために毎日4、5時間も費やす人々がザラにいます。

 インドでは「毎日の水汲みから解放されるのが夢」という貧しい国民が数えきれません。そのため、水をタンクで運ぶ「タンカー・マフィア」と呼ばれる悪徳業者も後を絶たない有り様です。残念ながら、モディ首相の「誰にも水を」という公約は実現されていません。まずはこの水問題の改善、解決に協力することが日本には望まれます。日本には海水の淡水化、汚染水の浄化、水道管の敷設、維持など、さまざまな水関連技術の蓄積があるからです。今こそモディ首相のインド超大国化に一肌脱ぐ意気込みを見せようではありませんか。日本とインドが協力すれば、グローバル・サウスが世界をより良い方向に変えることができるはずです。

インド デリー イメージ    モディ首相はインド式のヨガを世界に広めることにも熱心です。持ち前の「ヨガ精神」で内外の人心を掌握しようと奮闘中といっても過言ではありません。現在進行中のパリ五輪の会場においても、「インドの家」を初めて設置し、自国の選手を励まし慰労するだけではなく、会場を訪れる外国人や地元のフランス人にヨガをはじめ、インド文化の魅力をアピールしています。

 というのも、インドは36年のオリンピック誘致を狙っているからです。これまで、アジアでは日本、中国、韓国で開催されていますが、インド亜大陸初のオリンピック開催に向けて、虎視眈々と狙いを定めているに違いありません。

 加えて、アメリカの大統領選挙では民主党の大統領候補にインド系のハリス現副大統領が指名を確実にしました。また、共和党でトランプ大統領候補から副大統領候補に指名されたバンス上院議員の夫人もインド系アメリカ人です。

 ということは、どちらの陣営が勝っても、インド系がアメリカ政治を動かす可能性が高くなるわけで、インドでは11月の米大統領選の行方に関心が高まっています。「移民の国」と呼ばれるアメリカですが、なかでも600万人を超えるインド系移民はIT業界を中心にビジネスで成功を収めているケースが多く、わずか2週間ほどで350億円相当の献金を集めたハリス候補ですが、その多くはこうしたインド系から贈られたもの。

 インドの国内経済も順調で、通貨ルピーも安定し、財政も健全化が見られるため、アメリカやヨーロッパからの投資も拡大傾向にあるようです。アメリカの大手企業も中国からインドにシフトしつつあります。

 たとえば、ウォルマートは27年までにインドからの商品輸入額を100億ドルに増加させると発表しました。さらにいえば、欧州自由貿易協会(スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)は今後15年で1,000億ドルをインドに投資するとのこと。いずれもインドの巧みな「非同盟外交」や「人材育成」の成果といえるでしょう。

 インドはすでにBRICSの中心的存在ですが、「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国のまとめ役としても期待が高まる一方です。しかも、ロシアや中国とも共存共栄の道を模索しており、その絶妙な外交はモディ首相の「ヨガ精神」の賜物と思われます。大の親日国でもあるインドとの信頼関係をもっと深めることを日本は真剣に模索すべき時ではないでしょうか。

(了)

浜田和幸(はまだ・かずゆき)
    国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

(中)

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