「円安悪玉論」が株価を殺す~真夏の夜の悪夢をどう見るか~(後)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は8月4日発刊の第360号「『円安悪玉論』が株価を殺す~真夏の夜の悪夢をどう見るか~」を紹介する。失われた30年の根本原因、尚早の金融財政引き締めを繰り返すな
もう1つの懸念は財政からの景気抑制要因である。円安インフレにより政府の税収が大きく膨れ上がっている。政府はプライマリーバランスが2025年度に黒字になるとの試算をまとめたが、それは2023年の-5.2%(OECD、2023年11月)からの鋭角的回復になる。それは逆から見れば財政が2024~2025年にかけて民間需要を年間2.6%押し下げるということを意味する。円安インフレは家計から実質所得の減少というかたちで所得を奪っているが、政府には巨額の所得移転をもたらしているのである。この政府の税収増という巨額の所得をそのままにしておけば、民間消費は大打撃を受けることになる。現時点においては円安のデメリットを受け続け、繁栄の波に入れていない個人を救済する必要があるが、その処方は明らかである。インフレによって潤った財政が恒久減税というかたちで、インフレによって富を奪われた国民にお金を返還すべきであろう。
過去2000年と2007年の2回、日本は時期尚早の財政・金融引き締めによって景気後退を深刻化させ、10年で終わるはずの失われた時代が、20年、30年と続いた。今度こそ過去の誤りを繰り返さないように、日本株価の急落はそのことを戒めていると考えられる。
目先、鋭角的リバウンドが期待できる
とはいえ、「10年にわたって続いた日銀のリスクテイク促進が、一気にリスクテイク抑制へとシフトした」とする見方は、日銀にとって至極不本意なはずである。また米国経済の減速は利下げを促進することで株高要因ととらえられるはずである。日本政府はすでに株価下落を注視するとのメッセージを発しており、日銀からも市場を安堵させるトーンの発言が出てくるかもしれない。「誇大表示のパラダイム大転換」を織り込もうとした市場の急落は、絶好の買い場となる可能性が高いと思われる。好調な企業業績、急激に魅力度を強めた株式バリエーションは、日本株持たざるリスク(FOMO)を感じている全投資主体には良い買い場を提供しているのではないだろうか。
《参考》時期尚早の金融・財政引き締めへの転換が日本経済の2番底をもたらした
リーマン・ショックはすべて米国など海外での金融危機であった。しかし、その震源地から最も遠かった日本が最も大きな経済的打撃を受け、株価も最も長く低迷した。尚早の政策引き締めが円高を招いて株価と不動産価格を本源的価値以上に押し下げ、付加的なコストを企業に与え、回復に転じていた日本経済と株価をWボトムに陥れた。日本の土地と株式を合計した国富時価総額は、1989年末に3,142兆円でピークをつけ2002年末の1,723兆円でいったん底入れし回復に転じたが、リーマン・ショック後さらに下落し、2011年末1,512兆円になった(なお2023年末では2,410兆円と顕著に回復している)。この二番底は正しい政策を取っていれば回避できたはずである。
(了)
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