2024年11月23日( 土 )

傲慢経営者列伝(5):トヨタ・豊田会長「超お坊ちゃま」の「裸の王様」(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 『裸の王様』は、アンデルセンの有名な童話である。ある国におしゃれな皇帝がいた。2人組の仕立屋が、「バカ者には見えない布地をつくることができる」という触れ込みでやってきた。皇帝は大金を払い、新しい衣装が完成した。家来は「布が見えない」といえず、大声で称賛する。皇帝はパレードで新しい衣装をお披露目する。1人の子どもが叫んだ。「なにも着ていない」──。トヨタ自動車の豊田章男会長は、現代の「裸の王様」である。

トヨタの内情を暴露した実話小説「トヨトミ」シリーズの衝撃

トヨタ自動車 イメージ    章男殿下が大のマスコミ嫌いなのは、トヨタの内部を暴露した小説も一因だ。覆面作家・梶山三郎による『トヨトミの野望』『トヨトミの逆襲』『トヨトミの世襲』の三部作が小学館から出版された。あくまでフィクションだと言っているが、99%実話だといわれている。

 トヨタでは犯人捜しに躍起となり、疑わしい記者を出入り禁止にした。この三部作は世界初の量産ハイブリッド自動車「プリウス」の産みの親である奥田碩8代目元社長の番記者による実話小説だ。

 奥田元社長はEV(電気自動車)時代が到来すると見据えて、エンジンにこだわる章男殿下をトヨタ自動車社長に据えることを危惧し、持株会社をつくって、その社長に章男殿下を祭り上げようとした。しかし、章男殿下の父、章一郎氏の逆鱗に触れて社長を解任され、今やトヨタの社史から奥田の名前は抹殺されている。

 暴露小説が章男殿下にもたらした衝撃の大きさを物語っている。

「ありがとう」が聞こえない、が積年の思い

 マスコミ嫌いの章男殿下は、自前のメディア「トヨタイムズ」を2019年に立ち上げた。「トヨタの本当の姿」を伝えるために誕生したが、「章男個人広報」の域を出ないのが実態だ。「章男社長はすごい」と自画自賛のオンパレード。すでに日本屈指の有名人となっている殿下をさらに持ち上げて、まるで北朝鮮の「偉大な首領様」礼賛を彷彿させると呆れられている。

 23年1月26日、自社メディア「トヨタイムズ」が、豊田章男社長が4月に退任すると報じた。特大のビッグニュースなのに社長交代の観測記事はどこも出ていなかった。マスコミに絶対漏らすなという保秘は徹底していたのである。

 朝日新聞デジタル(23年3月31日付)は、退任の真因をこう伝えた。

 〈豊田氏に近い幹部は言う。
「社長は日本を愛して経営してきたが、心が折れてしまいそうだった」
(中略)
「ここ日本では、私たちに対して『ありがとう』の言葉が聞こえてくることはほとんどありません」〉

「ありがとう」と言ってほしいのは、EV普及を妨害している点

 章男殿下は「しょせん親のコネだろう」との視線を浴び続けて社長まで上り続けた人だからこそ、被害妄想が強い面がある。そのため反作用として、「ほめられる」ことにこだわる。

 章男殿下は何に対して「ありがとう」と言ってほしいのか。章男殿下は以前から「電気自動車(EV)ではなく、電動化(ハイブリッド、PHEV、燃料電池車、EVを含む)の開発を加速させるべき」とか、「EVを増やすだけではカーボンニュートラルは実現不可能」だと言ってきた。

 なかでもEV化の流れに警鐘を鳴らし続けたことが章男殿下の真骨頂だ。そのため、アンチEVの急先鋒とみなされた。

 メディアは「EVに出遅れたからハイブリッドにしがみついている」「エンジン廃止宣言をしたホンダを見習え」「気候変動に消極的なメーカー」というレッテルをトヨタに貼った。

 章男殿下はこれに我慢がならない。EV化が進むと下請システムに築かれている自動車産業が崩壊することがわからないのかという憤りである。

 殿下が「ありがとう」といってほしいのは、自動車産業を守るために「すべてをEV化せよ」という政治家や官僚、メディアに徹底抗戦していることであろう。

自浄能力がないトヨタの御曹司は「裸の王様」なり

 経営者の評価は、時代によって変わる。かつては業績を上げていれば、株主から文句をいわれることはなかったが、今は違う。「コーポレートガバナンス」がキーワードになった。

 車の型式指定をめぐるトヨタの不正が拡大した。社内調査で他に不正はないと発表後、ひと月もたたずに国土交通省の検査で新たな事実を指摘され、道路交通法による是正命令が出された。

 二度あることは三度ある、どころではない。日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機に続き4社目。すべてトヨタグループだ。自浄能力がまったく欠如していると言わざるをえない。グループの統治ができていないということだ。

 高い地位にあって、周囲からちやほやされ、批判や反対する人がいないため、自分がわからなくなってくる。豊田章男会長は、まさに「裸の王様」である。

(了)

【森村和男】

(前)

関連キーワード

関連記事