『脊振の自然に魅せられて』「久しぶりの沢のぼり」(前)
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毎年、夏は仲間と脊振での沢登りを楽しんでいた。だが高齢になり、石と石の間を飛び越えるのが容易にできなくなり、仲間からのサポートも難しくなったので、2年前に沢登りをやめていた。
今年の夏は異常に暑い。また朝から晩まで続く暑さにうんざりしていた。そこで、久しぶりに脊振の谷水浴びに行こうと思った。週一回の仕事に向かう途中、偶然にも自転車に乗ったMと西南学院大学前の交差点で会った。彼の顔を見るのは2年ぶりである。彼が早良区役所に勤務していた時代、道標設置事業を一緒に行った仲である。
そんなMと偶然出会ったのである。Mは「池田さん、沢へ行きましょうよ」と声をかけてきた。交差点での立ち話だったということもあり、「そのうちね」と返事をして別れた。
筆者は毎年、夏は沢へ入り、冷たい水で体を冷やし、五感を研ぎ澄ましてきた。沢登りは滝のシャワーを浴びながら岩場に手足を置いて上流へと進む。岩のどこに手を入れるか、足をどの岩に置くか、慣れると自然に体が反応する。岩から滑り落ちないよう両手、両足のいずれかで3点を支えるのである。どの岩に手を入れ、どの岩に足を乗せるかを一瞬で判断するので脳トレにもなる。多少の危険はあるが、筆者たちはザイルを必要とする沢登りはやらない。そういった意味で、脊振の沢は身近に沢登りを楽しめる場所である。また変化に富む沢もたくさんある。
30代から1人で坊主ケ滝の上部に入り、スニーカーで「ピョンピョン」と身軽に岩を飛び越えて沢を楽しんでいた。落差15mの坊主ケ滝は、脊振山系の金山(967m)直下の大きな沢である。金山沢とも呼ばれ、水量も豊富で室見川の上流になる。坊主ケ滝は昭和の時代、家族連れで賑わっており、渓谷沿いにキャンプ場やバンガローもあった。筆者も子どもたちとよく遊びに行ったものだ。
今年の7月初め、家内が両手に帯状疱疹ができ、手が不自由になった。そのため筆者が料理、洗濯を毎日やっていた。家内への手助けも必要なので、買い物の時以外は1日中部屋に閉じこもっていた。8月になると痛みが多少和らぎ、少し余裕もできたので、沢に行くことを決めた。
自宅近くに住む脊振の自然を愛する会のメンバーで、先日偶然出会ったMとワンゲルの後輩Oを誘う。8月10日(土)の午前8時に自宅近くの郵便局前に集合し、福岡市早良区南部にある坊主ケ滝へ向かった
自宅から30分で坊主ケ滝の登山口に着いた。沢登りに必要なフェルト靴、スパッツ、手袋、ヘルメットをそれぞれ装備する。登山口から坊主ケ滝へ向かった。歩いて15分である。10年前は山道を歩くルートであったが、広域林道の早良線が登山道を横切り、気軽に車で行ける地点となっている。入り口にコンクリート橋もでき、横には車2台分の駐車スペースもできている。ここからは遠目ではあるが、坊主ケ滝の見学ができる。
渓谷沿いの山道をしばらく歩くと、坊主ケ滝がみえてきた。すでに滝から上がって着替えている人たちがいた。大人2人と子ども1人であった。大人2人は滝行をしていたらしく、ふんどし姿であった。帰り支度中であったが、法螺貝を持っていたので、吹いてもらった。吹き口を2回、軽く手で叩き、吹き始めると「ブオー」と法螺貝の音が滝全体に響きわたった。筆者たちに安全祈願をしてくれているようであった。
目の前の坊主ケ滝は飛沫を浴びながら見学できる。落差15m、早良区を代表する美しい滝である。流れ落ちる水は緑の岩に囲まれ、10m四方の滝壺は激しい水流で白く円を描いている。ここで滝行をしている人を時々見かける。滝の側に15体ほどの石仏が並び、小さな行者小屋も建っている。
筆者は、大雪の日に撮影にきたことがある。滝の周りの雪景色は見事であった。山一面に柔らかく降り積もった雪は日本庭園のようで、岩にふんわりと降り積もった雪は雪地蔵のようであった。
「気をつけて行きましょう」と仲間へ声をかけ、行者小屋のすぐ裏手の山道へ向かった。急な登りのため、左右に滑落防止のための簡単なロープがはってある。10分も歩くと目印のない入渓ポイントに着いた。
坊主ケ滝上部の入渓ポイントから樹木をかき分けて入ると、坊主ケ滝へ流れ落ちる渓谷が現れた。「入るよ」と仲間に声をかけ、先導する。渓流の流れは膝下ぐらい、勢いのある水流へフェルト靴を入れると、たちまち渓流から飛び散る水が体を濡らした。
水の冷たさがほてる体に心地よい。後続を確認しながら上流へと進む。手袋をした手で安全な岩をつかみ、足の置き場を確認し、上流を目指す。これを何回も繰り返す。渓谷の岩や水流、水の深さも刻々と変わる。それを判断しながら先へと進むのである。
進むこと10分で最初の大きな滝が現れた。下には10m四方の大きな滝壺(釜と呼びます)だ。今回、初めて動画用小型カメラ「ゴープロ」をヘルメットに装着した。ただ、頭上にあり、モニター画面を確認できないので、「多分、この角度でOKだろう」とカメラの角度を勘でセットした。
足の届かない深さの滝壺に入る。ザックに500mlの空きペットボトル2本を入れてきた。このペットボトルがうき袋の代わりになるのである。泳ぎの得意でない筆者は、脊振の自然を愛する会副代表で山の先輩Tから教えてもらったこのペットボトルの活用法を実践している。
滝壺に入ると足が届かない。ザックを背にして平泳ぎで向こう岸の岩場に進む。ザックのなかはビニール袋で防水対策をしている。
(つづく)
脊振の自然を愛する会
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