2024年12月22日( 日 )

『脊振の自然に魅せられて』「ナツエビネに会えて」(前)

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 ナツエビネは夏場、山間部で涼しげに咲く。その姿は凛としているが、寂しさも感じる。エビネ類は盗掘が多い植物で脊振山系では激減している。群生はあまり見られず、開花時期はお盆前後である。

 今年の夏は猛暑が続いたため、筆者は熱中症を気にしてエアコンの効いた部屋にこもっており、脊振の草花を気にしつつ日々が過ぎていった。

 お盆の時期、ナツエビネのことが気になり始めた。ナツエビネの情報を地図アプリ「ヤマップ」で検索すると、場所こそ明示されていないが、ナツエビネの投稿写真をいくつか目にした。

 8月21日(水)、ナツエビネ観賞に脊振の自然を愛する会のいつもの仲間を誘う。場所については筆者が1週間前に下見をしていた。

 ワンゲルの1年後輩の男性2名、会員の女性2名の計4名から参加するとの返事があった。初めてで場所が分からない者もいるため集合場所を手書きし、暑さも加味して早朝8時に集合する旨の案内を出した。ここは昨年、女性H(以後H)が案内してくれていた場所で、今回も参加していた。

 定刻に全員がそろった。広域林道の駐車スペースに車3台を停め、沢ぞいの荒れた登山道を進む。登山道の左右は植林の手入れがされておらず、自然倒木も多く、引き返したくなるくらい荒れている。

 筆者も10年前、案内板はあるものの、進むにつれて荒れていく登山道に嫌気がさし、途中で引き返したことがある。この登山道は倒木で鬱蒼としている。
 沢沿いの小さな登山道を10分進むと、Hがナツエビネを見つけた。筆者が下見をしたときには見つけられなかったナツエビネであった。この時期は盛りであり、30㎝ほどの2つの茎にきれいな花をつけていた。

 結婚式で新郎新婦の撮影をするように、茎のなかに落ちていた杉の小枝を慎重に取ってきれいにしてあげたところ、花は美しい姿になった。仲間たちは感動しながら次々にカメラやスマホで撮影した。

 さらに沢道の上部へと進み、筆者が見つけていたナツエビネが咲く場所へと案内する。炭焼きの窯の跡が目印である。エビネ類は炭焼き跡でよく見かける。炭焼きの人たちが、癒しのために移植したのかもしれない。

 沢を渡るとナツエビネが私たちを待っていた。昨年は株がたくさんあったのに、今年は1株だけであった。今年は気温が高いので他の場所でも少ないようだ。植物も気温に敏感なのである。この場所のナツエビネは盛りを過ぎていたものの、仲間たちは満足していた。

ナツエビネ
ナツエビネ

 20m上方に比較的大きな滝が流れている。ナツエビネと滝の涼しさで夏の風情を感じる。足元には滝から流れ込む小さな沢が音を立てて勢いよく流れていた。沢沿いの登山道を進むと、鬱蒼とした樹木で山が薄暗くなってきた。

 するとHが「ここにあるよ」と声をかけてきた。昨年咲いていた場所を覚えていたのだ。Hが指差す場所に近づくと、灌木の根本に小さなナツエビネが2株咲いていた。1週間前にきたときに目を凝らして見て回っていたのだが、見落としていたようだ。

 筆者が花の方へと踵を返したとき、「バタッ」という音がした。振り向くと後輩Sが石につまずいて倒れていた。そして彼のザックのポケットからペットボトルが転げ落ちていた。

 Sが右足のズボンの裾をめくったところ、脛がすでに腫れ上がっていた。筆者は常時携帯している救急セットを取り出し、Sの脛に湿布薬を貼り、布製の携帯簡易テーピングでぐるぐる巻きにした。この布製のテーピングは長さ2mで伸縮性もあり、とても便利だ。Sは2年前にも沢を渡る際、岩から脚を滑らせて右脛を強打し、右脛全体がポッコリと腫れ上がっていた。山開きの下見の登山道整備で、副代表とSと筆者の3人で金山へ向かっていた時であった。その時は「これ以上登るのは無理だ」と判断し、筆者がサポートして1時間かけて山を下った。そして、今回もまたやってしまったのである。

 仲間たちは加齢とともに踏ん張りが効かなくなってきたようである。ワンゲルの後輩たちは77歳の喜寿を迎えているが、今回は何とか歩けるようである。

 「隣の沢道にナツエビネがあるので行ってみないか」と皆に声をかけたところ、全員が賛同した。ここから三瀬峠~金山の縦走路へ上がり、別の谷へと下るのである。ここから縦走路への道は国土地理院の2万5,000分の1の地図に表示されているが、いまは歩く者もなく、山は荒れているはずだ。国土地理院の地図『脊振山』をザックから出し、アナログのシルバーコンパスで方位を確認した。

 地図上の北と磁針方位(磁石の針がさす北)は緯度によってズレがある。これは国土地理院の地図に小さく表示されてある。脊振山の磁針方位は6度30分。磁石で北をたしかめ、磁針方位に地図を合わせて目的地の方向を決める。あとは磁石を北にし、目的の矢印方向へと進めばよい。これがシルバーコンパスの便利なところである。

 筆者はコンパスと地図アプリのヤマップを併用している。ヤマップを併用することでGPSが現在地を示し、歩いた軌跡が記録されるため、たいへん便利である。

(つづく)

2024年8月30日
脊振の自然を愛する会
代表 池田友行

(後)

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