中国発“一帯一路”計画の可能性と課題-日本の関与の在り方
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、9月6日付の記事を紹介する。パリでは「平和の祭典」と呼ばれるオリンピック、パラリンピックが開催されました。しかし、平和な世界は絵に描いた餅のように、世界各地で戦争や自然災害が相次いでいます。アメリカもロシアもかつての冷戦時代とは大違いで、国際的な影響力を失ってしまいました。いずれも多額の負債を抱え、政治的にも経済的にも苦境に陥っています。自民党の総裁選挙も賑やかですが、日本も例外ではないはずの国家財政の破綻問題は論戦の対象にはなっていません。
一方、中国は内外に向けて、発展途上国からアメリカに肉薄する経済大国に変貌したことを宣言。不動産バブルの崩壊が問題視はされていますが、習近平体制は揺るぎを見せていません。地方政府の財政悪化や若年層の失業も深刻さを増すばかりですが、強権的な指導力をテコに問題の表面化を抑え込んでいるようです。
世界最大の電気自動車「テスラ」の創業者イーロン・マスク氏曰く「中国は世界経済を支える存在だ。とくにインフラ整備には格段の投資を行い、大きな成果を上げている。早晩、アメリカを抜き、世界最強の経済・技術大国になるだろう」。
そんな中、中国が過去10年に渡り推進してきたのが「一帯一路」計画に他なりません。世界の経済圏を一体化するという遠大な目標に基づくプロジェクトです。アメリカも似たようなインフラ投資計画を推進しようとしていますが、明確な未来ビジョンも資金的な裏付けも希薄であるため、前途多難と言わざるを得ません。
アメリカなどからは「覇権主義」とか「軍事的脅威」との批判的な見方も出ていますが、それは中国の近現代史をあまりにも無視した見方に過ぎません。日本においても、中国の近代史に対する客観的な理解や「債務の罠」と批判されることもある「一帯一路」事業のプラス面も公正に分析する必要があるはずです。
このところロシアと中国の関係強化が目立っています。両国とも「アメリカ主導の世界」から拡大BRICSが中心となった「新たな世界秩序」を目指すという意気込みを露わにするようになってきました。なかでも中国が主導し、「価値の裏付けのないドル」から「金(ゴールド)の裏付けのあるデジタル通貨」への移行を推進するとの提案は注目に値するもの。現在、世界の中央銀行でも個人投資家の間でも、最も大量に金を保有しているのは中国です。
オリンピックでもパラリンピックでもすべての競技参加者は金メダルを得ようと必死の戦いを演じます。経済の世界でも金の価値は高まる一方です。BRICS加盟国だけで過去10年間に3,000tの金を確保しました。中国がナンバー1ですが、多くの国々がその後を追っています。実は、ロシアは金の輸出大国でもあり、最大の輸出先は中国なのです。
欧米諸国がロシアを敵視したとしても、中国と連携し、金の裏付けを背景に「脱ドル化」を進めることで、天下を取れると胸算用しているのがプーチン大統領と思われます。日本はこうした中国の一帯一路計画の舞台裏で静かに進行する「脱欧米化」の動きに、もっと情報収集のアンテナを向ける必要があるはずです。そのうえで、アメリカとも中国、ロシアともバランスのとれた独自の平和外交を展開するのが日本の役割ではないでしょうか。
外交安保はゼロサムゲームが前提ですが、経済交流はWin-Winの関係が前提になります。日本のメディアは中国から撤退する日本企業の動きを盛んに報道していますが、積極的な動きを見せる日本企業については一切報じようとしません。たとえば、トヨタは上海市にレクサスEV工場を建設し、ホンダや日産は広州市にEV研究開発センターを建設中です。また、イオンは武漢市にアジア最大のショッピングモールをオープンしました。
さらに、地方レベルでの日中間の往来は活発化しています。中国共産党の中央対外連絡部の劉部長も来日し、岸田首相と会談したばかりです。他にも遼寧省、江蘇省、天津市の書記らが相次いで来日。日本からも国貿促の経済ミッションに加え、岩手県、滋賀県、奈良県、沖縄県の知事が訪中し、地方レベルでの経済協力に弾みを付けています。中国にとって日本の技術や経験は欠かせないためです。当然、日本にとっても15億人近い中国市場は欠かせません。冷静かつ公平な視点で日中のWin-Win関係を促進する必要があります。
著者:浜田和幸
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