2024年11月23日( 土 )

米国実質金利上昇は、株高・ドル高要因だ(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は9月16日発刊の第363号「米国実質金利上昇は、株高・ドル高要因だ~利下げ期待はtoo much~」を紹介する。

中立金利は劇的上昇場面に入った

 しかし、リーマン・ショック後の低金利環境が大きく変わっていることは、今や明らかである。まずネット・スマホの普及に続いてAI革命が進行し、さらにコロナパンデミックを大過なく乗り切り、その後のインフレも着実に沈静化して、人々の楽観度は強まっている。

 楽観度の高まりは、第一に大幅な利上げにもかかわらず、AI関連投資など設備投資意欲が旺盛であること、第二に株式投資意欲が高まり、株式リスクプレミアムが急低下したこと(=バリエーションが大きく高まった)こと(図表4参照)、第三に2017年のトランプ減税、コロナ対策のAmerican Rescue Plan Act(1.9兆ドル、2021年)、Chip-S法、IRAによる産業政策などにより、財政支出が恒常的に対GDP比5%を超えるなど、財政赤字を所与とする経済が定着したこと(図表5参照)等、構造的とも思える環境変化によって支えられている。

図表4 大きく低下した米国株式のリスクプレミアム

図表5 米国失業率財政赤字の推移

 このように米国の自然利子率(=実質の中立金利)は大きく上昇していると見るならば、FRBの利下げは限定的となり、金利は長期にわたり高止まりする可能性が高い。ここからの円高の余地は小さいと考えられる。1995年7月のテキーラ危機後の利下げが株高とタームプレミアム縮小という好投資環境が現出したが、現在と類似している。

高実質金利の原因がファンダメンタルズの好調さだとすれば、それは株高ドル高要因だ

 米国経済のソフトランディングを疑うべき事情は何も起きていない。まず2%インフレに向けた足取りはたしか。また8月の失業率4.2%は依然完全雇用に近く、基本的に堅調との見方は覆らない。

 何かの理由により投資家や消費者、雇用主等の経済主体の心理が急悪化しない限りリセッションは考えにくい。心理悪化要因としては、株安、および日本の利上げが引き起こす金融不安(ブラックマンデー型)の2つが市場で想定されたが、どちらも深刻なものではなかった。アトランタ連銀による3QGDPナウは2.5%と堅調である。注視されるクレジット・リスクプレミアムは8月初めに上昇したものの、その水準は過去の危機時と比べて低く、金融市場のストレスはまったく高まっていない。株式市場のVIX(ボラテリティ・インデックス)や代表的な短期弱気指標であるプット・コールレシオが8月初めに急伸したが、それらは大きく鎮静化した。これらファンダメンタルズに根拠をもたない市場の嵐は、過度のレバレッジ解消にともなう癇癪ととらえられる。すでに過剰レバレッジの調整は急進展しており、市場の不透明感は改善に向かう可能性が高いと考えられる。

 大統領選挙という不透明要因はあるが、ハリス、トランプどちらになっても、米国の中立金利が大きく跳ね上がっているという基本線は変わらない。米国の2年債利回り3.58%、10年債利回り3.66%は100bpの利下げを織り込んだ水準。米国の市場金利はすでに循環的ボトム圏にあると考えられる。とすれば日米金利差から想定されている140円を超えての円高進行も考えにくいとみられる。

(了)

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