30周年を迎え、また超えて(8)「考えられない倒産」が続出
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情報収集の“極み”を知る
企業調査は依頼された案件を調査レポートとして仕上げれば終了する。仕入れ先、同業者を回り、徹底的に調査しても4社前後と接点ができるだけである。加えて取引銀行を2行回るくらいで済む。よほどの経営危機の場合は、徹底的に調べることもあった。その後、調査のための聞き取りで知り合った相手先に3回情報を提供すれば見込み客になる確率が高かった。電話を有効に活用しながら、新規開拓につなげていたものである。
ところが、情報取材は深く、広範囲に取材活動をしなければならない。破綻情報の一番の役割は、どの会社がいくら焦げ付いているかをピックアップすることだ。情報活動の花形は「事前情報」(東京経済時代は特別情報、当社の場合はSICと呼ばれている)である。お客さんから最大級の感謝をしてもらえる「事前情報」とは、既報半年後に倒産する例であった。債権を回収する手段を講じる時間があったからである。回収できたらクライアントは本当に感謝してくれたものだ。1983年あたりから「危ない会社の見分け方」の社内講師として呼ばれ始めた。光栄なことである。
金融緩和のつけで異様な融手倒産が続出
83年夏の多忙さは異常であった。シリーズ(5)「30周年を迎え、また超えて(5)『情報屋の幻想』を活かす」で、山口銀行・浜崎裕治氏との御縁について紹介した。「超金融緩和」を背景に金融機関の各支店は「割引枠拡大」融資の開拓に奔走していたのである。
82年7月から8月にかけて、こうした割引枠を増強する金融機関の姿勢を逆手に取った融通手形倒産が連続した。おそらく連鎖倒産企業は25社に達したと記憶している。たとえば、陽光電機・南海電設・サケムラの3社があったとする。単純に説明するために3社にした。
3社内で手形を融通しあう。もともと、この融通手形は町金融業者(市中の金融業者)に持ち込んで換金されていたのである。ところが割引換金が銀行間でなされていたことが判明した。それも驚くことなかれ、同じ銀行の各支店で割引されていたのである。銀行の実名を出しても良いが、ここは仮称で説明しよう。(仮称)A行だ。融手グループの主体企業は博多駅を挟んで事務所を構えていた。具体的かつ平易に展開していこう。
陽光電機(Y)が南海電設(N)とサケムラ(S)に82年7月31日、額面500万円の手形を振り出す。逆にNとSの両社がYへ同金額の手形を渡す。期日は8月1日である。この融通手形資金繰りは支障なく約1年半なされていたようである。誰が最初に躓いたか忘れたが、たとえば主導役Yが7月31日に資金の手当てができなかった場合、必然的に連鎖倒産が発生する。ここから異様で信じられない事実が露呈するようになる。
福岡銀行、西日本銀行(当時)、福岡シティ銀行(当時)の3行とも博多駅前支店、博多駅東支店を構えていた(福岡シティ銀行は本店が博多にあったため、駅前に支店があったかどうか記憶が定かではない)。(仮称)A行博多駅支店で取引のあったNが、Yの振出手形500万円を割り引いた。逆にA行博多駅東支店で取引があったYが、Nの振出手形500万円を割り引いていたことが判明した。「まさか銀行たるものが、こんな簡単な手口に欺かれるとは、まさしく仰天である」と驚いた。
その当時、浜崎氏は大分支店に転勤していたと思う。コメントを求めたところ「いやぁ、融通手形にはやられていたから論評は難しいが、やはり超金融緩和のなせる業よ!審査の鑑定能力も鈍ってしまっていた。どこの金融機関も原点に戻るであろう」と語った。この融通手形詐欺事件以降、手形割引銘柄への厳しい審査と手形自身での資金繰りのウエイトが下がったため発生しなくなった。
町金融業者の倒産が相次ぐ
町金融業者との付き合いは、情報マンとして貴重であったし、情報源でもあった。倒産寸前の企業は町金融業者に駆け込んだり、融通手形を持ち込んだりするので、とても重要な情報源だったのだ。
83年当時、町金融業者からの問い合わせが1日、100件あった。だからこそ午前、午後の当直制を敷いていた。この町金融業者を大きく分類すると(1)手形割引貸付、(2)直貸しとなるが、(1)と(2)を組み合わせて企業貸付を営んでいた。
その「町金融業者はリッチ」という概念が粉砕された一連の出来事というか、倒産が84年夏に発生したのだ。美龍商事を筆頭に名のある業者が倒産して消えていった。「超金融緩和時代」の長期化で、「おいしいビジネス」が少なくなり、焦げつきが相次いだ結果、企業が衰退して行き詰まったのである。84年を境に福岡だけでなく、全国的に企業向け町金融業者が消えていった。歴史の転換点の1つであったといえよう(サラ金などの個人向け業者に規制が掛けられるのはもう少し後年になる)。
(つづく)
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