誰が自民党総裁になっても変わらないこと 日本政界を覆う閉塞感の本質(前)
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ジャーナリスト 鮫島浩 氏
自民党の裏金事件はこの30年の政治改革がまやかしだったことを露呈した。岸田首相が退陣しても根本的な問題は何も解決していない。日本はこの30年、人口が減り、経済大国から転落し、衰退国家となった。日本政界は有効な手立てを講じてこなかったのだ。この国を覆う閉塞感の根本原因は、日本政界の「3つの限界」にあると筆者は考えている。自民党総裁選、立憲民主党代表選を経て解散総選挙が迫る今、「3つの限界」を乗り越える道筋が政治争点となることを切に願う。
※本稿は、24年8月末脱稿の『夏期特集号』の転載記事です。総裁選を経ても変わらない
日本政界を覆う閉塞感の原因2024年は日米の政局が連動して動く。9月に自民党総裁選があり、11月に米大統領選がある。日米でどのような政権が誕生するかで向こう数年の日本の進路は大きく変わる。政治記者なら誰しもわかることだ。
けれども、9月末発刊予定の特集号の原稿を8月20日締切で書き上げるのは至難の業だ。締切直前に岸田文雄首相が総裁選不出馬を表明したものの、後継レースに誰が出馬するかさえもわかっていないのに、発刊時点ではすでに勝敗は決しているのだから。
データ・マックス社も無理難題を求めてくると困惑したが、よくよく考えてみるとなかなか面白い記事になるかもしれないと思い直した。新たな政権が誕生し「何が変わるか」に政治記者は注目しがちだが、どんな政権が誕生しても「変わらないこと」に着目して分析する記事は極めて稀だ。
折角の機会をいただいたのだから、今回は「総裁選が終わっても変わらないこと」をテーマに日本政界を覆う閉塞感を生み出している根本原因の「3つの限界」について考察してみたい。
政治の「失われた30年」は
二大政党の希求から始まった1つ目は「二大政党政治」の限界だ。
自民党の派閥裏金事件が発覚し、内閣支持率は急落した。世論調査では「自公政権の継続」を求める声を「政権交代」を求める声が上回り、自民党が政権復帰した12年末以来、初めて政権交代の機運が高まった。
野党第一党の立憲民主党は支持率が低迷し、日本維新の会に野党第一党の座を奪われつつあった。ところが裏金事件で自民党が失速したため一転して勢いづき、4月の衆院3補選と5月の静岡県知事選で4連勝。党内は浮かれ、次の総選挙で政権交代は十分可能という強気が広がったのだ。
政権与党が政治腐敗や経済失政で自滅し、国民世論から見放されたとき、野党第一党が「もう1つの選択肢」として政権批判の受け皿となり、総選挙で勝利して政権を奪う。これこそ二大政党政治が想定した政権交代のメカニズムだ。二大政党が常に政権を競い合うことで緊張感を生み出し、政治腐敗を防ぐことに主眼がある。
与野党一騎打ちの小選挙区制の導入を柱とする1990年代の政治改革は、二大政党政治をつくり出すことに最大の理念があった。各党候補が入り乱れるなかから最も好きな人を選ぶ中選挙区制を廃し、「現政権に満足しているなら与党に、不満なら野党に」という二者択一を有権者に強要して、総選挙を「政権選択の選挙」に衣替えしたのだ。
民主党没落後に確立した自民党の選挙必勝パターン
1996年総選挙で小選挙区制が導入された後、野党は民主党に収れんされていった。総選挙は「自民党総裁と民主党代表のどちらを首相にするか」という、首相を選ぶ選挙と位置付けられた。その結果、2009年総選挙では国民的不人気の麻生太郎首相(自民党総裁)が率いる与党が大敗し、民主党の鳩山由紀夫代表が率いる野党が圧勝して民主党政権が誕生した。二大政党政治が想定した政権交代がまさに実現したのである。
ところが、民主党政権はマニフェストを重視し消費税増税に反対する小沢一郎氏や鳩山氏と、財務省と連携し消費税増税を進める菅直人氏や野田佳彦氏の内紛に明け暮れ、3年余で瓦解し、安倍晋三氏が率いる自民党が12年総選挙で政権復帰した。安倍氏が「悪夢の民主党政権」と喧伝したことで負のイメージが日本社会に浸透し、民主党は党名を捨てて「民進党」となった。さらには17年総選挙で小池百合子・東京都知事が旗揚げした「希望の党」へ大半が合流したものの、惨敗し、かつての民主党は四分五裂した。
安倍政権はさらに野党分断工作を推し進めた。大阪府知事の橋下徹氏が旗揚げした日本維新の会を側面支援し、政権批判票を分散させることに成功した。自民党の支援を受けて維新は躍進し、野党第一党の奪取を目標に掲げた。自公与党は野党同士を競わせて政権批判票を分散させ、組織票を固めて逃げ切る必勝パターンを確立し、相次ぐスキャンダルへの批判をかわして政権を維持してきた。
二大政党が競い合うことで緊張感を高め、政治腐敗を防ぐことを目指す二大政党政治は、民主党の分裂と自民党の野党分断工作で機能不全に陥った。「自民党は万年与党、立憲民主党は万年野党」というイメージが定着し、自民党は野党転落を恐れることなく、安心して党内闘争に明け暮れるようになったのだ。
立憲が固執した二大政党選挙の票読み
そこで勃発したのが、自民党の派閥裏金事件だった。この10年、政権交代への危機感が薄れ、自民党内に驕りと慢心が広がった結果、政治資金規正法を愚弄する行為が横行していたのである。
自民党の支持率は急落した。野党第二党の維新も大阪万博への批判が高まり、世論の支持を急速に失った。政権批判票は行き場を失い、立憲民主党へなだれ込む気配が芽生えた。与党第一党の自滅で野党第一党が浮かび上がる二大政党政治のダイナミズムが復活しつつあった。衆院3補選と静岡県知事選の4連勝で立憲は勢いづいた。
しかし、この4連勝には落とし穴があった。二大政党政治が機能し、政権批判票が立憲になだれ込んだのであれば、投票率が大幅に上昇しなければおかしい。ところが4つの選挙はいずれも前回より投票率が下がったのである。裏金事件に反発した与党支持層や無党派層の多くは、立憲民主党に投票して自民党への怒りを示すのではなく、投票所へ足を運ばなかったのだ。
立憲と共産のコア支持層は高齢化している。ある意味で固い組織票だ。一方、若年現役世代を中心とする無党派層は立憲や共産を敬遠している。投票率が低下した結果、立憲や共産のコア支持層の投票割合が増した。政権批判票を幅広く吸収したのではなく、コア支持層の組織票を固めて逃げ切ったに過ぎなかった。
4連勝の勝因を立憲執行部は読み間違えた。自民党批判が高まり、維新が失速した結果、無党派層が立憲支持へ転じたと勘違いした。野党第一党が政権批判の受け皿となり、与党が自滅した場合は野党に政権が移るという二大政党政治にダイナミズムは完全には復活していなかったのである。
(つづく)
<プロフィール>
鮫島浩(さめじま・ひろし)
政治ジャーナリスト。京大法学部を卒業して1994年に朝日新聞入社。政治部や特別報道部のデスクを歴任して2021年に独立し『SAMEJIMA TIMES』創刊。YouTubeやウェブサイトで政治解説を連日発信している。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)。
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