2024年11月23日( 土 )

誰が自民党総裁になっても変わらないこと 日本政界を覆う閉塞感の本質(後)

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ジャーナリスト 鮫島浩 氏

 自民党の裏金事件はこの30年の政治改革がまやかしだったことを露呈した。岸田首相が退陣しても根本的な問題は何も解決していない。日本はこの30年、人口が減り、経済大国から転落し、衰退国家となった。日本政界は有効な手立てを講じてこなかったのだ。この国を覆う閉塞感の根本原因は、日本政界の「3つの限界」にあると筆者は考えている。自民党総裁選、立憲民主党代表選を経て解散総選挙が迫る今、「3つの限界」を乗り越える道筋が政治争点となることを切に願う。
※本稿は、24年8月末脱稿の『夏期特集号』の転載記事です。

都知事選で露呈した30年目の政界再編の機運

都知事選 イメージ    それが可視化されたのが7月の東京都知事選だった。自公与党が現職の小池知事をステルス支援したのに対抗し、立憲は党の顔である蓮舫氏を擁立した。しかし蓮舫氏は128万票にとどまり、小池知事(291万票)にダブルスコア以上引き離され、前安芸高田市長で人気ユーチューバーの石丸伸二氏(165万票)にも追い抜かれ、3位に沈んだ。

 都知事選の投票率は前回より5ポイント上昇して60%を超えた。出口調査によると、無党派層の支持を集めたのは石丸氏で、小池知事が続いた。蓮舫氏は2年前の参院選東京選挙区で自らが獲得した67万票と、共産の山添拓氏の68万票を合わせた得票にも達しなかった。立憲と共産のコア支持層を固めただけで、それ以外にはほとんど浸透しなかったのである。

 立憲は惨敗だった。4連勝の勢いは止まり、政権交代の機運はしぼんだ。政権批判の受け皿となったのは、政党色を消した石丸氏だった。与野党を含めた既存政党全体への不信感が、政治手腕が未知数の石丸氏への期待感として噴き出したのである。二大政党政治が機能不全に陥っていることが露見した。

 ネット上では石丸氏が政界を引退した橋下氏や前明石市長・泉房穂氏と新党を結成することへの期待が広がった。石丸氏は都知事選後のテレビ出演で相手を冷笑する態度で批判を浴びたが、既存政党と一線を画す新たなリーダーの出現を求める国民世論のマグマは決して衰えていない。

 次の総選挙でも、政権批判票は立憲に流れずに新興勢力へ向かうか、新興勢力が出現しなければ投票率が下がって与党が逃げ切るか、どちらかであろう。自民党の裏金事件と都知事選の石丸フィーバーは、日本社会に二大政党政治が根付かなかった限界を映し出した。

 現在の政治情勢は、二大政党政治が機能して民主党政権が誕生した09年総選挙ではなく、自民党の政治腐敗が極まり、社会党への期待も高まらず、日本新党や新党さきがけが次々に旗揚げして政界再編が起きた1993年総選挙の前夜に近いといえる。

対米追従が政権存続の要 自民党の政権構想

 2つ目は「米国依存」の限界だ。

 岸田首相はバイデン政権に追従し、ウクライナに1兆円支援を表明して隣国ロシアを敵に回した。米製ミサイル・トマホーク400基を2,000億円で購入し、ウクライナからの撤収を掲げるトランプ前大統領に押し込まれていたバイデン氏を財政面でも支え続けた。内閣支持率が低迷し、自民党内から退陣論が噴出しても、総裁再選への道を探り続けたのは、バイデン政権の後ろ盾があったからだ。

 そのバイデン氏が大統領選からの撤退を表明し、岸田首相は窮地に立った。代わりに勢いづいたのは、麻生氏と茂木敏充幹事長だ。岸田首相が4月にバイデン氏から国賓待遇で招待された直後、麻生氏はニューヨークへ飛んでトランプ氏と会談した。トランプ優勢を受けて諸外国が「もしトラ」に備えるなか、日本の政治家で真っ先にトランプ氏に接近したのが麻生氏だった。

 麻生氏と連携する茂木氏もトランプ政権時代に経済再生担当相として日米貿易交渉を担い、トランプ氏の覚えめでたいといわれている。トランプ氏が銃撃事件を危機一髪で切り抜けた後、茂木氏は「現状の米国の雰囲気は『ほぼトラ』から『確トラ』に近くなってきている」と分析し、「仮にトランプ大統領が再び生まれても日米2国間の問題ならうまく対応できる。Win-Winの合意にもっていくことは十分できる」と自信をのぞかせた。

 岸田首相がバイデン氏頼みなら、麻生氏と茂木氏はトランプ氏頼み。米大統領候補との親密さをアピールして総裁選を有利に運ぼうとしていること自体が、自民党政治の「米国依存」の限界を映し出しているといえる。

 トランプ氏が逃げ切っても、バイデン氏を受け継いだ民主党のハリス副大統領が逆転勝利しても、自民党政権が米国の新政権の動向をみながら外交安保政策や経済金融政策を決めていくのは間違いない。総裁選で誰が勝利しても同じことだ。総裁選や総選挙で外交防衛政策をどんなに討論しても、結局は米国の新政権の意向であっけなくひっくり返るのだ。

合意形成力が弱体化した日本の民主政治の危うさ

 3つ目は「民主主義」の限界だ。

 都知事選で二大政党不信を引き寄せた石丸氏は安芸高田市長時代に市議会と敵対し、市政は混乱した。

 維新を立ち上げた橋下氏は大阪府議選や大阪市議選に維新候補を多数擁立して自民党と激突し、議会の過半数を制することで行政を動かそうとした。明石市で先進的な子育て支援を実現した泉氏は、市議会と激突しつつも時に折り合いながら政策実現を進めた。これに対し、石丸氏には「議会の合意を得る」という姿勢がまったく見えなかったのである。

 石丸氏は居眠り市議を「恥を知れ、恥を!」と叱責する様子をYouTubeで拡散させて人気を得る一方、「市議会に提案するまでが市長の仕事。そこで否決されたら仕方がない」と公言し、市議会の多数派を形成する努力をハナから放棄した。仮に都知事に当選しても自公与党が牛耳る都議会を動かす努力を率先して行うことはなかっただろう。都知事選でも都議会対策を具体的に語ることはなく、「東京を動かそう!」「選挙を楽しんで!」という抽象的なキャッチフレーズだけで大躍進した。都民は政策実現のリアリティは問わず、期待感だけで石丸氏を2位に押し上げたのである。

 政治とは合意形成プロセスである。選挙で勝ち抜いた為政者は、自らの支持者だけではなく、みんなの代表だ。だからこそ、世論に耳を傾け、議会と交渉し、少数意見にも配慮しながら、丁寧に合意形成を進めていく。そのような努力をおおっぴらに否定した石丸氏の躍進は、日本社会に「選挙とは何か」「政治とは何か」「合意形成をどう進めるべきか」という民主主義の土台となる共通認識が欠落していることを浮き彫りにした。

 迷走するこの国の政治が「民主主義の限界」にどう立ち向かうのか。

 9月の自民党総裁選、立憲民主党代表選を経て、それぞれが新体制を発足させた後、この秋にも解散総選挙が行われる機運が高まる。だが「3つの限界」を乗り越える解決策がそこで示される気配はない。

 日本の政治はしばらく閉塞感に覆われ続けるだろう。既存政党の一掃を掲げる新勢力が台頭する可能性もある。人口が減少し、経済力も沈み、自信を喪失して内向きになった衰退国家・日本は、極めて危うい現状にある。今こそ政治が的確な針路を指し示さなければならない。

(了)


<プロフィール>
鮫島浩
(さめじま・ひろし)
政治ジャーナリスト。京大法学部を卒業して1994年に朝日新聞入社。政治部や特別報道部のデスクを歴任して2021年に独立し『SAMEJIMA TIMES』創刊。YouTubeやウェブサイトで政治解説を連日発信している。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)。
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