2024年10月26日( 土 )

政治改革から逃げ続ける政治家たちの実態~国民の怒りが頂点に達した今が改革の好機~(前)

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日本大学
危機管理学部/大学院危機管理学研究科
教授 西田亮介 氏

日本大学 危機管理学部/大学院危機管理学研究科 教授 西田亮介 氏

 政治改革は世論の後押しが不可欠だ。さらにいうなら、世論の後押しなくして、政治とカネの問題に取り組む政治家は与野党問わず、極めて稀。それどころか隙あらば、改革の手綱を緩めようとする。残念ながらそれが日本政治の教訓だ。数年前に問題になった、国会議員らに月100万円支給されている旧文通費の使途透明化はどうなったか。「法改正」は実施されたが、「調査研究広報滞在費」と名称変更され、なぜか文書通信よりも使途が拡大され、事実上の現状追認状態である。日割り支給こそ実現したが、例外的で政治家たちにとっては痛くも痒くもない「改正」だ。かくして使途透明化だけは未実現のままである。自民党が強い反対を示したことが大きいが、野党も批判や改革を続けているとは言い難い状況だ。そしてもう1つ挙げるとすれば、国民の関心が政治とカネの問題に向き続けることもまた稀。これらを踏まえると、各社の世論調査で政治改革への関心が示され続ける現状は政治改革の千載一遇の好機というほかないのである。そして、これを逃すと「次」がいつになるかはさっぱりわからない。そのことを心に刻みながら、国民は政治選択を行うべきだ。
※本稿は、24年8月末脱稿の『夏期特集号』の転載記事です。

上っ面の派閥解散宣言 一国の首相の口の軽々しさ

 8月14日、岸田総理は自民党総裁選不出馬を宣言した会見で、政治とカネの問題について次のように言及した。

 政治とカネの問題をめぐっては、派閥解消、政倫審(政治倫理審査会)出席、パーティー券購入の公開上限引下げなどの判断について、御批判も頂きましたが、国民の信頼あってこその政治であり、政治改革を前に進めるとの強い思いを持って、国民の方を向いて、重い決断をさせていただきました(首相官邸「岸田内閣総理大臣記者会見」より引用)。

 だが、実際はどうか。

 自民党の派閥は本稿執筆時点(8月末)においては、いまだに解散していない。岸田派すらそうだ(9月に政治資金規正法上の政治団体を取り下げ)。本年1月に岸田総理は自身の派閥「宏池会」の解散を発表し衝撃を与えたが、その後正式な派閥解散手続きは行われておらず、精算作業に入っているという事務所もなんだかんだとまだ存続している。麻生派は継続を主張しているし、その他の派閥も総務省への政治団体としての届け出を取り下げたのかすら明らかではない。

 この点ではメディアの課題も大きい。「派閥解散」と報じながら、現在も多くのメディアが「◯◯派」という名称を使っている。

 もちろん、衆議院と参議院合わせて370名ちかい所帯の自民党という大集団において、歴史的な経緯を踏まえても小集団がなければ意思決定は困難だろう。その意味において何らかの小集団は必要だ。しかし、一国の総理であり公党の顔である総裁が「苦し紛れ」とはいえ派閥解散に言及した以上、それは実施すべきではないか。ところが実際は、実現してもいない「派閥解消」をさも成果のように語る厚顔無恥さである。

 政治倫理審査会はどうか。岸田総理こそ出席したが、そもそも疑惑の自民党議員は出席すらしなかった。

議員の保身の仕組み 政倫審は改革が必要

 昨年発覚した自民党派閥の裏金作りに関与した衆参議員ら73人は、国会の政治倫理審査会で弁明することなく、通常国会は6月23日に閉会した。そもそも両院に置かれている政治倫理審査会という仕組みそれ自身に、歴史的な大きな欠陥があるからだ。政治倫理審査会はロッキード事件の一審で田中角栄元総理に有罪判決が出たことをきっかけとしてガス抜き的に設置された。

 そのため、出席に関して国会議員の自主性が最重要視されていることや、国会への証人喚問と異なり発言内容に対して偽証罪が適用されないこと(なお国会への証人喚問は自民党が拒否したため実現していない)、そして原則非公開とされていることなど、真実解明よりも議員の身分を守ることを優先しているとしか思えない仕組みが多数あり、実際にこれらが裏金疑惑の究明においても阻害要因となったことは明らかだ。

 筆者はこの間、参議院の政治改革特別委員会に招聘され、他の有識者とともに意見陳述と質疑応答を3時間にわたって行った。その際にも、この政治倫理審査会改革を提言し、その他の機会にもいくつかの政党との意見交換で言及してきた。だが前向きな回答を行った政党はなく、先の岸田総理会見では言及すらない。議員らにとって有利な仕組みを手放したくないとしか思えない。

政治資金規正法改正も過去の疑惑はうやむやに

 そもそも論でいえば、先の通常国会で政治資金規正法が改正されたが、この改正はあくまで将来の不正の抑止であって、数多明らかになった過去の疑惑に関する説明責任をはたしたり、促すことにはつながらないのである。

 この法改正を通じて、課題は残されているが、将来の不正は相対的にとはいえ現在と比べれば抑止力が働くと考えられる。議員本人が原則として政治資金を確認しなければならなくなったからだ。原則とはいえ、これまでと同じような「秘書や会計責任者の責任」という常套句が通じる敷居はずっと高くなる。それでも、たとえば政治倫理審査会を欠席した73人の疑惑解明をこれ以上深めることはできないのである。そのことがあまりに看過されている。

 疑惑解明には、この問題を許さないという世論の後押しが必要であり、また、メディアの批判に晒される議員ら自らが自身を律しようとするか、あるいは所属政党である自民党による調査や自主的な取り組みが欠かせない。しかし、初動はお手盛りで解決済みとされ、その後、今のところそのような取り組みはなされていない。なんと自民党は2月の時点で調査報告を公開している。

 広瀬めぐみ参議院議員の秘書給与還流からの議員辞職や、堀井学衆議院議員の不適切香典配布事件からの議員辞職など、その後も自民党所属議員らの疑惑が続いているにもかかわらず、前述の調査の再調査をしたり、不正防止に関する顕著な組織的な取り組みは行っていないのである。

改革から逃げる総裁選 お茶を濁す候補者たち

 自民党総裁選立候補者たちにとっては、政治改革も、政治とカネも大変ややこしい問題である。というのも、かつて100名近い趨勢を誇る筆頭派閥だった安倍派が疑惑の震源地だったからだ。その影響は大きく、この自民党総裁選挙に安倍派からは候補者擁立すら叶わなかった。かくして、もっぱら無派閥やほかの派閥から候補者乱立状態となったわけだが、投票を行う以上、安倍派の意向を無碍にできないのは明らかだからだ。政治とカネの問題に対して、遡及するなど厳しく当たることに言及すれば安倍派の機嫌を損ねることは明らかだが、かといって放置すれば国民から疑惑の目を向けられることもまた明らかなのである。

 この板挟みのなかで、本稿執筆時点における疑惑についての総裁候補者たちの言明は芳しいものとはいえない。

(つづく)


<プロフィール>
西田亮介
(にしだ・りょうすけ)
日本大学危機管理学部・大学院危機管理学研究科教授。博士(政策・メディア)。1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教、(独)中小機構リサーチャー、立命館大特別招聘准教授、東京工業大学准教授などを経て現職。専門は社会学。『メディアと自民党』『マーケティング化する民主主義』『無業社会』など著書多数。そのほか、総務省有識者会議、行政、コメンテーターなどでメディアの実務に広く携わる。

(後)

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