2024年11月15日( 金 )

トランプ大統領の2025年、バブルへGO(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は11月13日発刊の第368号「トランプ大統領の2025年、バブルへGO~米国資本主義は進化し続けている~」を紹介する。

(1)トランプ氏勝利の意味するもの

 トランプ氏が率いる共和党は大統領、上下両院を抑えるトリプルレッドを確保した模様である。2016年に泡沫候補として登場したトランプ氏が、大半のメディアと専門家の予想を覆してクリントン氏を僅差で破ったことは驚きであった。その8年後に一段と毀誉褒貶が強まったトランプ氏が圧勝したことは、何を物語っているのだろうか。

 これを思想上の対立における保守の勝利とのみ見るのではなく、米国資本主義の進化の一過程と見る視点も必要なのではないか。

 2024年ノーベル経済学賞は、歴史と制度分析を経済学の領域に取り込んだことにより、ダロン・アセモグルMIT教授など3名が受賞した。アセモグル教授は、「私的財産保護、機会平等、自由な市場経済など、政治経済の仕組みを持つ国こそがイノベーションを生み、繁栄を実現できる。権威主義的な政治制度は創造的破壊の芽を摘むため、長期的な成長には結びつかない。法の支配が貧弱な社会、国民を搾取する制度は支配者に特権を与え、人々を隷属させ続ける。一見改革に見える変化が起きたとしても、支配者が入れ替わるだけで停滞が続く」と主張している。そのためにこそ、機会均等を維持する規制緩和と既得権排除が必須であるという意見である。

 氏の所説に従えば、米国固有のDNAとたゆまぬ改革により米国資本主義というエコシステムが進化してきたのである。規制緩和を進め既得権益化を排除するというトランプ氏やマスク氏の主張は、米国の資本主義の源流にある「反知性主義(=反権威主義というほうが分かりやすい)」(森本あんり氏)の再登場という側面があるとも見える。トランプ氏やイーロン・マスク氏が尊敬する第7代大統領ジャクソン(1829-1837)は、開拓者精神と自立精神に満ちた反知性(=権威)主義の体現者である。トランプ氏、マスク氏が共有するスローガン「多数意見は、勇気ある1人がつくる」はジャクソン大統領の名言でもある。

 そのような脈絡から考えれば、トランプ氏の政策が功を奏する可能性も検討すべきであろう。氏が勝利宣言で述べた「米国の黄金時代が到来する」という言葉を、大言壮語と片付けることはできない。

(2)1995年との類似性、高金利とアニマルスピリット

 選挙で圧倒的信任を獲得し強力な実行力を得たトランプ大統領は、規制緩和と既得権排除でAI等の新産業革命の土壌を耕すかもしれない。そのような期待が高まれば、2025年は大きな上げ潮(アップスウィング)の年になる。過去を振り返ると今日と類似しているのが1995年である。大幅な利上げの後、最初に利下げがなされたのが1995年であった。1995年から1996年12月の根拠なき熱狂(グリーンスパン議長)を経て、2000年のITバブルに向かう局面と現在とは、多くの点で類似している。SP500指数は最初の利下げが実施された1995年7月から1年間で13%、2年間で70%、3年間で99%という大幅な値上りになった。当時と現在とは、(1)利上げ終了後に高い実質金利が維持されたこと、(2)長期金利も抑制されイールドカーブフラット化が長期化したこと、(3)ドル高が続いたこと、(4)技術革新(当時はインターネット革命、今はAI革命)の進行が旺盛な投資をけん引したこと、などが類似している。

図表1 SP500,米国長短金利と金利差の推移

 それにしてもなぜ、大幅な利上げと高実質金利の継続の下で、好況が続いたのであろうか。それは経済の基礎体温(=地力)が高まっていたからであろう。FF金利を高く維持しないと、資産価格上昇とインフレが大きく高進してしまう、という環境だったと考えられる。つまり利上げの目的は、過熱を防ぐための予防的利上げだったのである。

 この事情は自然利子率(実質中立金利)の急激な変化を通して観測できる。インフレを抑制しつつ最大雇用を実現できる成長率が潜在成長率である。この潜在成長率を実現できる最適レートを自然利子率と言い、FRBはそれを目指して金利水準を誘導していく。人々が過度に強気になり資産バブルと景気過熱の恐れが高まれば、FF金利を大きく引き上げてブレーキをかける必要が出てくる。過去を振り返ると自然利子率つまり中央銀行が目指すべき金利は大きく変動してきたことが分かる。それはNY連銀の試算による潜在成長率と自然利子率の推移を振り返ると明瞭である(図表2)。1995年以降、2000年のドットコムバブル崩壊まで両者は大きく上昇を続けたのである。当時の米国は、1980年代のリストラが終わり、IT革命が進行し、冷戦終了後の平和の配当を享受しつつ、唯一のスーパーパワーとして世界に君臨していた。

図表2 米国自然利子率と潜在成長率推移(NY Fed試算)

(つづく)

関連キーワード

関連記事