「東京一極集中」を読み解く 東京と地方の建設的な未来はどこにあるか(前)
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(一社)東京23区研究所
所長 池田利道 氏総務省が7月に発表した2024年1月1日現在の『人口動態調査』によると、23年の1年間で人口が増えたのは、東京都(0.51%増)、沖縄県(0.01%増)、千葉県(0.00%増)の3都県だけ、日本人に限ると東京都だけとなった。ちなみに東京23区は、東京都全体を上回る0.77%増。コロナ禍のもとで21~22年に2年連続で日本人人口が減少し、「曲がり角に入ったか」といわれた東京一極集中は、再び元に戻る結果となった。
100年続く東京集中
「東京一極集中」と聞くと、多くの人は「良くないことだ」と決めつける。しかし、私たちは「東京一極集中」の構造的な実態をどれだけ理解しているのだろうか。構造を理解せず、東京の人口が増えているという現象だけに目を奪われているのでは、課題の把握も対応策の検討も、表面を撫でただけのものに終わってしまう。
5年ごとに実施される『国勢調査』によると、東京都、埼玉県、千葉県、神川県の1都3県(以下、「東京圏」という)の人口は、2015~20年の5年間に2.2%増加した。全国の人口が同期間に0.7%減っていることと比べると差は大きいといえなくもないが、5年間で2%増というのはそれほど大きな数字ではない。
たとえば、1985~90年は5.0%増(全国平均2.1%増)、65~70年は17.6%増(全国平均5.2%)増など、過去の東京圏の人口増加率は今よりずっと高かった。『国勢調査』は1920(大正9)年から始まるが、戦前の東京圏の人口増加率は13~15%で、全国平均の6~8%をやはり大きく上回っていた。
かつては近畿圏や中京圏での人口増加率も高かったため、「東京一極」とはいえないものの、東京への人口集中は戦時下の一時期を除き100年にわたって続いてきたのであり、それが我が国の発展を支えてきた1つの原動力を形成したことは否定できない。
東京集中から東京一極集中 さらに東京23区一点集中へ
今世紀に入り、こうした東京集中への評価は大きく変化する。その最大の要因は「地方」対「東京」の差の拡大である。『国勢調査』から2000~20年の人口増加率をエリア別に整理すると、東京圏の10.5%増に対し、東京圏を除く43道府県の合計(以下、「地方圏」という)は4.6%減。
ここで地方圏には近畿圏(大阪、京都、兵庫、奈良の4府県)、中京圏(愛知、岐阜、三重の3県)も含めているが、近畿圏は1.3%減と人口が減り、中京圏も2.6%増で増加率は東京圏を大きく下回っている。つまり、東京だけで人口が増えるという「東京1人勝ち」状態の発生である。ここに至って100年前から続いてきた「東京集中」は「東京一極集中」へと姿を変えることとなる。
変化は人口が集中する東京圏の内部においても生じた。都市のドーナツ化現象によって、東京圏の人口が増えるなかでその中心部にある東京23区の人口は、1965年をピークに減少を続けていた。いわば東京23区は、現在地方部が抱える人口減少という課題を体験してきた先輩である。
その東京23区の人口が90年代の後半以降増加に転じ、今世紀に入ると東京23区以外の東京圏(埼玉、千葉、神川の3県と東京都多摩地域。以下、「東京圏郊外部」という)の人口増加率を上回るようになる。数値で示すと、2000~20年の20年間で東京圏郊外部が7.5%増であるのに対し東京23区は19.7%増。しかも両者の差は、年々拡大を続けている。「東京一極集中」とは、実は「東京23区一点集中」と呼ぶ方がふさわしい。
波打って進む東京集中の動き
人口増減は、生まれてくる子どもの数から亡くなった人の数を引いた自然増減と、転入者数と転出者数の差によって求められる社会増減の2つの要素で構成される。このうち「東京一極集中」の要因となっているのは、いうまでもなく社会増減である。
東京23区での総人口移動数は、転入も転出も23区内での他の区への移動が最も多いが、東京23区外との移動に限ると、転入は東京圏近郊部からと地方圏からがほぼ同数、転出は東京圏郊外部のほうが大きい。従って、東京23区の人口動態の構造を正しく把握するためには、東京圏郊外部との関係と地方圏との関係を並列して検討していく必要がある。
しかし、以下本稿ではその趣旨に照らし、地方圏との関係に焦点を絞ることとする。
【図1】は東京23区の対地方圏との関係でみた転入超過数(「地方圏からの転入者数」-「地方圏への転出者数」)を超長期スパンで整理した結果である。大きく波を打っているが、ここには景気の動向が強く作用していると考えられる。
転入超過数が大きく減少した時期をピックアップすると、1970年代半ばのオイルショックを契機とした高度経済成長の終焉、90年代半ばのバブル経済の完全崩壊、2010年前後のリーマン・ショックと東日本大震災の発生、20年代初頭のコロナ禍と、いずれも景気低迷の暗い影が社会を覆った時期と重なっている。
景気が良くなるとより大きな「東京ドリーム」を手に入れようと人々は東京に集まり、景気が悪くなるとあえてリスクを冒すことを避けようと東京への集中が抑えられてきたということができるだろう。
(つづく)
<プロフィール>
池田利道(いけだ・としみち)
1952年生まれ。(一社)東京23区研究所所長。東京大学大学院都市工学科修士課程修了後、東京都政調査会研究員などを経て、(株)リダンプランニングを設立。東京23区を中心とするマーケットデータの収集・加工・分析を手がける。著書に、「23区格差」(中公新書ラクレ)、「23区大逆転」(NHK出版新書)、「なぜか惹かれる足立区」(ワニブックスPLUS新書)など。法人名
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