2024年11月24日( 日 )

従来型チェーンストア理論崩壊と小売流通の近未来(前)

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 長者番付でお馴染みのアメリカの有力経済紙『フォーブス』が毎年、世界中の企業のなかから選ぶ「働きがいのある企業100社」ランキングがある。日本企業で100位以内に入る企業は稀だ。とくにランクインが難しいといわれる小売業でかつて19年連続ランクインした企業がある。その企業がいま、まさに風前の灯火だ。収納具の専門店コンテナストアだ。片付けコンサルタント「こんまり」こと近藤麻理恵とのコラボで話題にもなった同社は、1978年の創業以来、短期間で業績を急伸させ、19年連続でフォーブスの働きがいのある会社としてランクインし、ホワイト企業のレジェンドになりかけた。しかし、コロナの影響や競合激化などで、この5年でその売上を半減させ、回復の兆しが見えず、40ドルを越えた株価は今や1ドルに低下した。同じように成長し、倒産した企業にベッド・バス&ビヨンドがある。かつて、両社には我が国から見学者が押し寄せた。

 同じく日本の大手小売業が手本にした1937年創業のスーパーマーケットのアルバートソンはM&Aで24ブランドをもつ2,700店余りの小売業に成長したが、スーパーマーケット最大手のクローガーが食指を伸ばす。FTC(連邦取引委員会)が認めれば、両社合わせた年商は30兆円だ。こちらは変身と巨大化で生き残りを図る。

セブンも買われる? クシュタールの提案

 世界中、中小も含めて、都市部は業態に関係なく、今やリアルの新規出店の余地は限られる。そんななか、本家サウスランドやスピードウェイなど北米同業を買収したセブン&アイが、今は逆に買収提案を受けた。上場している以上、どんな企業も買収の対象になる。そこには経営哲学も業績も関係ない。まさに食うか食われるかの世界だ。

 セブン&アイが運営するコンビニ事業「セブン-イレブン」の国内店舗数は2万1,500店舗余り(2024年7月末時点)。そのうちの1,000店舗余りの閉鎖、移転が今後計画されている。国内コンビニは売上、利益とも前年割れだ。もちろん、これはセブン-イレブンだけの話ではない。他も状況は変わらない。売上こそ微増とはいえ、全国の店舗数は5万6,000店余り(24年1月末時点)。店舗数はこの4年間は減少傾向で、コンビニの国内店舗数が飽和状態を迎えたことを物語っている。

 日本にコンビニが登場したのは1969年のマミー豊中店(現在は解散)といわれる。本格コンビニのセブン-イレブンの1号店は74年の豊洲店。それから約50年かけてコンビニは日本中を埋め尽くした。そんな中、セブン-イレブンは売上、利益とも海外事業が国内コンビニ事業を大きく上回る。さらに30年度までに世界30カ国に事業を拡大する計画だ。

 そのセブン-イレブンを運営するセブン&アイに、カナダ本拠のアリマンタシォン・クシュタール(以下、クシュタール)が買収提案を投げかけた。円安に加えて4兆6,000億円という低い時価総額がターゲットになった主因だろう。

 さらに、フランチャイズ方式による国内コンビニの売上対比の利益率が26%と極めて高いこともクシュタールにとっては大きな魅力だ。こんなコンビニは世界に類がない。売上に比べて、極めて利益の薄い祖業のスーパーストアセグメントを切り離し、収益力の改善を図れば企業価値がさらに高まる。7~8兆円での買収提案なら株価は1.5倍。株主にとって悪い話ではない。提案後の時価総額が一挙に1兆円も増加したのがそれを物語る。

イメージ    それだけではない。クシュタールから見たセブン-イレブンの魅力はまだある。セブン&アイの年間売上高約12兆円と日本型コンビニのきめ細かな商品づくりおよび調達ノウハウだ。北米戦略と競争力ツールを合わせると、アメリカ事業と日本型コンビニの総菜系商品の競争力は貴重な戦力だ。SNSに溢れるインバウンド客の高い日本コンビニ評価がそれを物語る。それらを考えると、多少のリスクはあってもセブン&アイに食指を動かさない理由はない。

 ニトリや良品計画、ユニクロなど欧米に進出した小売はそれなりの経営労苦を味わっている。難なく現地に溶け込んだセブン-イレブンの強さは貴重だ。欧米企業から見たそんなアジア企業の隆盛は心情的にも愉快なものではないはずだ。おそらく、これもセブンを狙う1つの理由になる。セブン&アイが取るべき対策は立場を変えて同じ手を相手に投げかけることだろう。攻撃こそ最大の防御だ。

チェーンストアからオンライン販売へ

 小売店の売上はその業態に関係なく、立地で決まると言っても過言ではない。その差は極端なケースでは2倍前後にもなる。たとえば、「コンビニ最強」セブン-イレブンを例にとっても、場所によって日商100万円を超える店がある一方、それが40万円に満たないケースも少なくない。その差は立地だ。ではなぜ立地のハンディを無視して店を出すのか。各小売業態が怒涛の出店を始めて約50年、今や人口密度の高い都市部に中・大型店舗に必要な空き地など残されていない。その周辺部も似たようなものだ。それでも成長に出店は欠かせないから、無理を承知で店を出す。

 競合がない時代は“野越え、山越えて”でもお客は来てくれるが、店があふれ、道路、交通事情が改善するとそうはいかない。無理な出店の結果、生まれるのが不採算店舗だ。

 より多くの金太郎あめ型の店舗をつくり、より多くを仕入れ、コストと効率で利益を拡大し続けることで、競争に勝つ。いわゆるチェーンストア理論だ。しかし、商圏、市場ともに限りがある。それを超えたところで立地の限界がやって来る。

 人口減、少子高齢化が進行する今、ほとんどの業態がその飽和を迎える。チェーンストア理論の崩壊だ。その結果、生まれるのは「同質化という平凡」だ。全国展開する大手チェーンストア系のスーパーマーケットがその典型だが、そんな売場にお客は魅力を感じない。当然、わざわざ行くほどの店ではないから、立地が悪ければ、すぐに不採算化する。その解決策は同業の買収、海外の新市場開拓、商圏が無限のオンライン販売への参入だ。

 しかし、そこもいまや豊潤の海ではない。世界中の商業者を巻き込むレッドオーシャンだ。ほぼ専業のアマゾンや世界最大の小売企業ウォルマート、国内最大手のイオン、果てはセブン-イレブンまで今やオンライン宅配に世界中のメーカー、小売がこぞって取り組む。しかし、調達、ストック、配送に莫大なコストがともなうオンラインにはさまざまなリスクが潜む。うまく行かないと、致命的な傷を負う。最後は規模とノウハウの勝負だ。

(つづく)

【神戸彲】

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