経済協力の再開で日韓関係は新たなステージへ~米中対立を見据えた日韓の協力強化が重要~(後)
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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏2022年の韓国・ユン政権発足以降、日本と韓国はかつてない雪解けムードのなかにある。また、円安の影響もあり、とくに福岡には多くの韓国人観光客が訪れている。ともに製造業を主な産業とし、経済面ではライバル関係と見なされる両国だが、実は両国の強みは国民の気質や文化面の相違とあいまって大きく違う。強みの異なる両国の協力は、米中対立のなかでお互いの発展のために重要な意義をもつだろう。
※本稿は、24年8月末脱稿の『夏期特集号』の転載記事です。半導体関連の協力が現実味
日本は半導体産業を復活させるため、日本政府の主導下で官民が協力して半導体産業の復活を目指している。半導体産業はすべての産業の競争力を左右する戦略産業だ。よって半導体を外部に依存するのは、国の安全性が脅かされる要因になると各国政府は判断し、とくに米国、中国、ヨーロッパを中心に半導体製造の自国誘致に力を入れている。
世界の最先端半導体の9割くらいを製造している台湾のTSMCがもし中国の手に入ることになったら、世界の産業は大混乱に陥ることになるだろう。それを防止するため、米国は米国国内だけでなく、日本などにも製造拠点をつくって、そのような事態に備えようとしている。
日本はもともと半導体強国であった。しかし、米国が日本をけん制し、日本の半導体産業は結果的に競争力を失い、その隙を狙って、韓国や台湾が半導体産業に参入し、現在のような状況となった。韓国は輸出の20%程を半導体が占め、メモリ半導体では世界シェアの7割くらいを占めているが、ロジック半導体においては存在感が薄く、世界シェアの3%しか占めていない。
日本は半導体製造ではシェアを落としたものの、依然として素材や製造装置においては、世界的なシェアを維持している。今後半導体の世界では微細工程が限界に達しつつあって、パッケージング技術で、その限界を突破しようとしている。日本はパッケージング技術が強いので、韓国の微細可能技術と日本のパッケージング技術を融合すれば、すばらしい半導体が誕生することになる。
また、半導体は設計能力も大事であるが、この分野は米国企業と中国企業は強い反面、日本企業と韓国企業は弱い。日本と韓国が協力すべき分野だろう。良いアイデアに資金を出し、半導体設計企業をもっと育てる必要がある。素材も製造装置も製造能力ももっているので、あとは設計能力を伸ばして行くことが大事である。両国が戦略的にこのような分野で協力するのは望ましいことだろう。
中小企業の協力や両国のM&Aも活発に
日本も韓国も製造業が国を支えている。中国が世界の工場となっている現在も、日本や韓国では製造業が雇用を生み、国の発展に貢献してきた。しかし、中国の台頭で、両国の製造業は中国の低価格品と競争せざるを得なくなり、大変な状況である。
とくに日本が高齢化が進み、後継者のいない中小企業が多くなっている。優れた技術をもっているが、後継者がいなくて、廃業するか企業を売却しようとする企業も増えている。そのような企業を韓国企業が買収しようとしているという話をたまに聞くようになった。それに、製造業も人材不足や競争力維持のため、デジタルシフトをすることが求められているが、製造業のデジタル化のパートナとして韓国のIT企業との協力が望ましいかもしれない。
韓国のエンジニアが日本企業に就職したりするケースも増えているなか、今後個人レベルではなく、企業レベルでの協力が増えて行くに違いない。韓国では起業をしようとする人も多いなか、韓国の有望な中小企業が日本にきて、投資誘致の活動をする機会なども増えている。もちろん、韓国だけでなく、人件費の安いベトナムなどに拠点を設け、リーダーは韓国人にし、ソフトウエアの開発を進める日本企業も増加している。自国内に安住せず、積極的に国境を越えた事業展開をする時代だろう。
日韓関係は新たなステージへ
来年は日韓国交正常化60周年になる年だ。前の政権では日韓関係は冷え込んでいて、両国の関係は悪化の一途をたどっていたが、ユン大統領の時代になって日韓関係は雪解けムードとなっている。とくに米国と中国が覇権争いをしているなか、世界情勢も急変していて、サプライチェーン崩壊などに両国が力を合わせる必要性が高まっている。
昨年7月には4年間続いていた輸出規制も撤廃され、日韓関係が回復しつつある。また、2015年以降中止となっていた日韓通貨スワップも昨年12月には協定が締結された。日韓の首脳会談も再開し、経済交流も再び盛んに行われている。
国民感情もよくなりつつある。韓国の独立系民間シンクタンク・東アジア研究院によると、「日韓関係がよくない」という回答は42%であることがわかった。日本が輸出規制のカードを切り出した19年の88.4%と比べると、半分に減ったことがわかる。
日韓関係を表現するときによく「近くて遠い国」という言葉が使われるが、今はお互いにとって何が良いのかを冷静に模索する時であろう。水素分野、車載電池、デジタルトランスフォーメーション(DX)など、両国が協力すれば成果が出る分野は多いと思う。韓国人のスピード感に、日本人の慎重さときめ細かさが融合すると、とても良い結果も生まれることになるだろう。
AIの発達でますます言葉の壁もなくなることが予想されるので、今後は近くて良い国になることを望んでやまない。東南アジアなどに行こうとすると、飛行に6時間以上で帰りの便は深夜が多く本当に疲れるが、日本は時差もなく、近いし、2時間以下で気軽に行ける国なので、負担がない。今後両国の関係がどの時代よりも発展して交流が深まることを願う。
(了)
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