韓国人に大きなショックを与えた戒厳令(後)
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なぜ戒厳令を宣言したのか
2022年5月に就任したユン大統領は政治経験がなく、野党との交渉も下手で、政治の運営に苦労していた。今年4月の国会議員選挙では与党が惨敗を喫し、ユン大統領は野党からの追及によって追い込まれていた。
ユン大統領は今年、夫人が関係したいくつかのスキャンダルに見舞われた。夫人が高級ブランドの「ディオール」のバッグを受け取ったとされる疑惑や、株価操作に関わったとされる疑惑である。今回戒厳令を宣言した最も有力な説は、7日に行われる予定の特別検査法の再議決を防ぐのが目的ではなかろうかと言われている。ユン大統領自身は北朝鮮の脅威や「反国家勢力」から韓国を守り、自由な憲法秩序を守るために戒厳令を宣言したと説明しているが、戒厳令宣言の本当の理由は、外部からの脅威ではなく、本人が政治的に追い詰められているから、それを打開するためであることが明らかになった。
それにしても、国会に軍人を動員して物理的な力に訴えるような前近代的な方法をとったことに国民は激怒している。大統領に同調する国民はほとんどおらず、「いくら理解しようとしても理解できない」と言っている。今回の措置で大統領への信頼は地に落ち、弾劾の道を本人が開いたようなものだ。なお、任期の半分を過ぎたユン大統領の支持率は16%となっている。
経済・外交に大きなダメージを与えた戒厳令
今回の戒厳令で韓国経済は大きなダメージを受けており、今後どのように回復していくかが課題である。債権市場では市場が動揺すると、金利が上昇する。信用が低下すると、もっと利子を上げないと、債権者がお金を出してくれないからだ。
国債の金利が上がると、社債の金利も上がる。社債の金利が上がると、企業の場合、資金調達コストが上昇することになるので、経営を圧迫する。それに、今回のように為替レートが変動し、ウォン安にふれると、ドルで借りた借金の金額が膨らみ、銀行は貸し渋りに走りやすくなる。その結果、韓国企業は流動性危機に陥る恐れがある。さらに、韓国の政治が不安定になると、外国人投資家は韓国の株式市場や債権市場から資金を流出させる。ユン大統領による軽率な判断が国を危機に陥れている。今回の戒厳令騒動が民主国家としての韓国の信用を落としたことは間違いない。
今後の行方は
韓国では「ユン大統領を逮捕しろ」という怒りの声が噴出しており、大統領夫妻の去就が注目されている。今回の戒厳令宣言でユン大統領が、国を亡ぼすことになるかもしれないという危機感が高まっており、「一日でも早く大統領職を辞めさせることが最善の道」であると思う。
ユン大統領は、弾劾を突破する方法として戒厳令宣言を選択したわけだが、結果的には弾劾という「パンドラの箱」を本人が開いたかたちとなった。しかし、与党は政治的な理由で今でも弾劾に反対しており、ユン大統領が辞めるまでは不安定な政治が続きそうだ。
(了)
【青木義彦】
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