【トップインタビュー】医療費抑制の時代に挑む 地域を背負う民間病院の覚悟
(医)輝栄会 福岡輝栄会病院
理事長・院長 中村吉孝 氏
福岡市東区で60年超にわたり医療活動に携わってきた(医)輝栄会。600人を超える職員体制で地域の救急・急性期医療を支える中核としての経営戦略と今後の展望について、理事長・院長である中村吉孝氏に話を聞いた。
医療費抑制下で問われる
病院の機能選択
理事長・院長 中村吉孝 氏
──医療費削減や物価高騰など、業界全体が厳しい状況に晒されています。国の令和7年度補正予算の決定は、病院経営に具体的にどのような影響を与えるのでしょうか。
中村吉孝氏(以下、中村) 今回の補正予算は、厳しい経営環境に置かれている医療業界にとって一定の安心材料となる内容です。医療分野における賃上げや物価上昇対策として5,341億円が措置されました。
病院物価支援事業では、救急車受入件数や全身麻酔手術件数、分娩取扱数の実績に応じて、500万円から最大2億円が加算されます。実績を重ねてきた医療機関ほど評価される仕組みであり、とくに救急や手術など急性期医療を担ってきた病院にとっては朗報といえるでしょう。当院にとっても、経営基盤の安定に資する重要な支援策であり、すでに申請を終えています。
──そのようななか、6月からの診療報酬改定はプラスになる見通しです。
中村 確かに一見すると好材料に映ります。しかし、表面上の数字だけを見て判断すべきではありません。医療費抑制は国の至上命令であり、財源が限られるなか、すべての病院を一律に支援することはできません。
国は「病床数が過剰である」との判断のもと、病床再編と機能分化を加速させています。救急や手術など高度急性期機能を担う病院には重点配分する一方、療養病床や精神病床には厳しい査定が行われています。つまり、単なる改定ではなく、「どの機能を担うのか」という経営判断がより明確に問われているのです。
救急を軸に据える
民間病院の矜持
──リスクの高い救急や手術は、公的医療機関の割合が高い傾向があります。貴法人は民間経営として、その分野に注力しています。
中村 療養や介護を主軸に据え、安定重視の経営を選択する道もあります。しかし当院は、地域の急性期医療を担う責任を重く受け止め、救急を経営の軸に据える道を選びました。東区の中心に位置する当院が守りに入れば、地域の受け皿が失われてしまうからです。「ニーズがある限り逃げない」という姿勢こそが、私たちの原点です。
その一方で、救急だけに特化するのではなく、急性期から回復期、慢性期まで切れ目なく支える体制も整えています。16年7月には地域包括ケア病棟の運用を開始し、「トリニテ松崎館」「トリニテ千早館」という2つの高齢者複合施設も展開しています。救急を軸に据えながらも、患者を一貫して受け入れる体制を構築する。それが民間でありながら地域住民の生活基盤を支える存在であり続けるための当院のかたちであり、私たちの価値だと考えています。
──福岡県学校保健会から表彰を受けたと聞きました。
授与された表彰状
中村 香椎工業高校の校医を20年にわたり務めてきたことに対し、評価をいただきました。医療は病院内で完結するものではなく、地域社会のなかで機能するものだと改めて実感しています。
──地域の小中学校に長年関り続けているのも、その一環でしょうか。
中村 当院は中村小児科医院として開業して65年、福岡市東区に根を張り、地域コミュニティの一員として歩んできました。地域の子どもたちが健やかに育つことは、街の未来そのものです。教育現場への還元や地域活動への参画は単なる慈善活動ではありません。地域との絆こそが、私たちの経営基盤なのです。
地域のための連携と
財務基盤強化の両立
──行政との連携の実態を教えてください。
中村 昨年末の感染症流行は、今年と比べても大規模でした。夜間・休日の急病患者に対応する急患診療センターおよび各急患診療所が混雑し、通常体制では対応が難しい状況となりました。そのため年末年始は例年の体制に加え、一部日程で内科・小児科の当番を新設しました。当院は指定を受けた病院の1つとして名乗りを上げました。行政や周辺診療所と連携し、地域住民の健康を守るために可能な限り対応する。それが救急指定病院としての責務だと考えています。
──院長就任から現在まで、意識はどのように変遷しましたか。
中村 院長就任当初から、医師としての使命をはたすと同時に、組織を率いる経営者としての責任を意識してきました。実家が個人病院であった経験から、医療の質を維持するには組織基盤の安定が不可欠だと痛感していました。高機能医療を維持するための人材確保と設備投資は欠かせません。医療と経営は不可分の関係にあります。
──今後の展望を聞かせてください。
中村 最大の使命は「財務基盤のさらなる充実」です。次の理事長へバトンを渡す際、曇りのない健全な状態で組織を引き継ぐことが私の責任です。
国が推進する地域連携は、大病院への機能集約と、クリニック・中小病院との役割分担を求めています。輝栄会はそのハブ機能を強化し、「ここに輝栄会があって良かった」と地域住民に思っていただける存在であり続けたい。地域の皆さまからの信頼をよりたしかなものにしていけるよう、これからも活動していきます。
【岩本願】
<COMPANY INFORMATION>
理事長:中村吉孝
所在地:福岡市東区千早4-14-40
設 立:2007年4月
<プロフィール>
中村吉孝(なかむら・よしたか)
1960年生まれ。85年に福岡大学医学部を卒業後、同大学病院の第2外科に入局。その後、九州大学生体防御医学研究所や九州がんセンター、天理よろづ相談所病院などを経て、91年に中村病院(現・福岡輝栄会病院)に入職。93年に同院副院長に就任、95年から同院長。2007年に(医)輝栄会理事長に就任した。








