【クローズアップ】海外の公共セクター、市場への進出を目指す企業を高い専門性でサポート
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(株)かいはつマネジメント・コンサルティング
企業の海外進出を支援するコンサルティング会社は少なくないが、JICA((独)国際協力機構)コンサルタントとして、JICAの行う新興国の公共セクターを対象に実施する官民連携事業に力を入れるなど、幅広い場面で事業を展開するのが(株)かいはつマネジメント・コンサルティングだ。同社および同社から支援を受けスリランカに進出した(株)安部日鋼工業の事例も取り上げつつ、新興国の生活インフラ整備事業への進出について紹介する。
世界70カ国以上で支援実績
(株)かいはつマネジメント・コンサルティング(以下、KMC)は、企業の海外進出を支援するコンサルティング会社だ。スリランカとベトナムに現地拠点を構え、ラオス、インドネシア、マレーシア、ミャンマーに現地パートナーを有するほか、広範な地域で活動しており、世界70カ国以上での活動の実績を有する。地域が経済的および社会的にバランスよく発展し、地域住民が幸福を実感できる社会の実現を支援することをミッションとし、現地のニーズに応じた柔軟な支援を提供するとともに、日本企業と地域社会の双方に利益をもたらすソリューションを提供している。
同社は創業以来、政府のODA案件に関っており新興国の公共セクター向けのプロジェクトを企画・支援してきた。またこの十数年ほどはJICAの行う官民連携事業にも関わっており、とくに「中小企業・SDGsビジネス支援事業」経済開発分野ではJICAコンサルタントとして2022年から3年連続で採択されている。同社には省庁、JICAの専門家や青年海外協力隊員、民間のコンサル企業での勤務など、海外での留学・勤務経験をもつコンサルタントが多く、新興国での人的ネットワークが武器になっている。
同社国際ビジネス支援部コンサルタントの脇田絵美氏は、この官民連携による企業の海外進出支援にとくに力を入れていると話す。パートナーは現地政府、地方の自治体、企業となるが、たとえば日本企業が現地政府のキーパーソンとの交渉を望むもののコネクションがない場合、KMCがアプローチの道筋を提案するなどして、現地政府との交渉を進められるようサポートを提供する。JICAも同様に現地政府との強いコネクションを有するが、KMCはJICAと連携しつつ、民間コンサルとしての独自のネットワークと情報網を活かして現地の民間の企業・コンサルなどとの交渉の手助けをするという。
同時に日本企業による直接の海外市場開拓も支援している。近年は直接支援の案件も増え、ほぼ半々という。アジア、アフリカに進出してみたいと調査を希望する顧客が増えており、規模も支援内容もさまざまだ。現地の代理店を見つけたい企業には候補企業をリストアップし、新規事業を始めたい企業には企画から現地調査、立ち上げまで伴走してサポートする。国・地域の検討をつけにくい企業には国・地域選びから手伝っている。
「ソフト系」コンサル
開発コンサルティングには、道路やダムなどのインフラ整備を得意とするいわば「ハード系」の企業があり、KMCは主に「ソフト系」の開発コンサルティングに強みをもつ一方で、インフラ整備を行う企業も顧客としている。ソフト系には保健、教育、農業技術などさまざまな分野が含まれるが、KMCはとくに以下の分野で強みをもつ。
農業・農村開発:地域住民の生計向上を目指した農業技術や農業機械化支援。
栄養改善:地域住民の低栄養や過栄養といった栄養不良状態の改善。
現地産業の育成:地域特産品や加工品の開発や現地企業の経営能力強化を通じた経済活性化。
金融サービスへのアクセス向上:地域住民が利用しやすい金融モデルの導入支援。ほか、環境、エネルギー関連、自動車関連、機械関連、化粧品などの案件も手がけている。
同社がベトナムに拠点を構えていることもあるが、最も引き合いが増えている国・地域はベトナムという。分野としては、食品、化粧品、農業、医療系で、歯科医からの問い合わせもあるという。ベトナムは成長が速く、価格が高めの日本製品を購入できるアッパー層が出てきているほか、インドネシアも問い合わせを受ける分野の傾向が似ているという。
母子手帳アプリの事例
KMCが支援し、セネガルで母子手帳のアプリ化、システム化に向けた調査を行った案件を紹介する。紙の母子手帳は洪水など自然災害で紛失してしまうことがあるほか、女性が妊娠を隠す文化があり、持つことに抵抗を感じる妊婦がいるという。同国での妊産婦死亡率と乳幼児死亡率が日本と比較して高いことをきっかけに、こうしたニーズを発見したという。そこで母子手帳の機能をもつスマートフォンアプリの導入可能性に関する調査を実施した。
これは健康分野、母子保健という分野であり、保健省との交渉・調整が必要となる。民間企業が容易にビジネスを進められる分野ではない。国によるが、セネガルでは同省の姿勢が厳しく、交渉は非常に難航したという。しかし、担当者と打ち解けた後には協力を得られ、家族のように接してくれるようになったという。
アプリでは、たとえば乳児の発育の成長曲線が見られるほか、妊娠何週目の時点でどのような栄養が母体に必要か、予防接種を子どもに受けさせる時期はいつか、などの情報を調べたり、通知を受けたりできる機能が備わっている。事前に現地で市民や医療関係者にヒアリングをしたときも、便利そうだと期待する声が多数聞かれたという。
プロジェクトの当初の目的は、妊娠中に必要な情報を簡単に入手できるようにして意識啓発をしていき、検診を定期的に受けてもらって乳児死亡率を将来的に下げるというものだ。数年単位では達成できないような長期的なゴールではあるが、それを最終目標として調査を行った。
JICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」には、そもそも現地政府の許認可を得ないと進められない公的な性質の事業が多い。そのため、提案企業としてもJICAの支援を得ながらビジネスを進めていきたいと考える企業が多いようだ。
スピード感と柔軟性
海外事業で成功するポイントについて、脇田氏は「スピード感」と「柔軟性」を挙げる。新興国では市場環境や政府の政策が短期間で変化し、長期スパンで事業を続けていたらその国の経済状況もニーズも変わることが往々にしてあるからだ。KMCの支援事例として紹介する(株)安部日鋼工業が進出したスリランカでは、22年に債務不履行に陥り当時の大統領が国外に逃亡するという事態も発生した。新興国では3カ月や半年単位で進捗を見直しながらプロジェクトを進めることが重要だと強調する。場合によっては撤退を決断せざるを得ないこともあるが、短いスパンで区切って市場のベストなタイミングを逃すことなく企業がビジネスにつなげられるように、KMCとしてもスピーディーなサポートを行えると自負している。
柔軟性に関しては、日本向けの製品だと現地ではオーバースペックということもあり得るので、現地のニーズに応じて製品のカスタマイズや調整を行うことが重要と語る。脇田氏は、「たとえば2、3代前の製品、いわば廉価版が現地の今のニーズに合っているという状況がある。企業としてはその製品の技術に高い誇りをもっており、2、3代前の製品を出すのに抵抗を感じるかもしれないが、少しスペックを下げてみるとか、カスタマイズをしてみるなど、現地のニーズを的確に捉えて柔軟に対応することが求められる」と話す。
また、企業がJICA事業を活用するうえでのポイントについて脇田氏は、補助金、助成金の事業ではなく委託事業として実施されること、進出先の人が抱える課題を理解し、自社の製品・サービスで如何に解決できるかを考えていくことがとても重要と指摘する。KMCは開発コンサルタントとして相談に乗るなど伴走支援をしている。
新興国への進出に関心のある企業は、気軽に問い合わせをしてほしいという。初期段階から企画立案、現地調査、事業立ち上げまで、一気通貫のサポートを提供する。費用は企業ごとに案件の性質や国・地域が異なることからオーダーメイドとなる。顧客が現地で事業を自律的かつ持続的に行える体制が整うまで支援を行う。現地への進出形態としては、現地法人の設立もしくは現地の企業との代理店契約の締結というケースが多いが、顧客が望めば進出後もサポートする。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:岡部寛
所在地:東京都渋谷区恵比寿1-3-1
設 立:2001年5月
資本金:6,000万円
売上高:(24/4)9億1,535万円スリランカに上水道のPCタンクを提案
KMCとJICAのパイプが武器に(株)安部日鋼工業
KMCの支援を受け海外への進出を図った企業の実例を以下に紹介したい。
(株)安部日鋼工業(以下、ABE)は安価で耐久性に優れた水道用プレストレストコンクリート製配水池(PCタンク)を開発し、かつ日本で初めて設計施工した建設会社で、タンクのほか、橋梁、鉄道のまくらぎ、建築などさまざまな領域でPC構造物の設計施工などを手がける。九州では福岡に九州支店を構え、多くの施工実績があるほか、大牟田の工場では、橋梁主桁などPCにかかわるさまざまな製品をはじめ、JR九州など鉄道会社向けに鉄道のまくらぎを製造している。
同社は外務省の委託を受けて2013年9月~14年2月に、スリランカで「途上国における経済的な水道整備に資するPCタンク普及のための案件化調査」、続けてJICAの支援のもと、14年12月~19年6月に「経済的な水道整備に資するPCタンクの普及・実証事業」を実施した。
それ以前に、中部地区の水関連企業と自治体(名古屋市)が水ビジネスをスリランカで展開する構想があった。当時は実施に至らなかったが、その際に上水道の普及率が低く、スリランカ政府も問題視しており、ニーズがあると気づいたことがきっかけだ。当初は元から親しかったコンサル会社との進出を意図し、JICAの支援スキーム(中小企業・SDGsビジネス支援事業)に申請したものの選定されず、そこで海外での開発を専門とするコンサル企業を探し、KMCのことを知ったという。JICAの支援スキームの申請・報告書類について、慣れていない企業にとっては独特に感じられる要素があるようだが、ABEは専門とするKMCの支援を得て、無事に選定された。
JICAの支援について、ABE事業本部海外事業部部長・出川寛和氏は第1に新興国における存在感とパイプを挙げている。上水道は民間ではなく政府所管の事業であるが、JICAの支援により現地の政府機関との円滑なコミュニケーションが可能になったと話す。第2に調査にかかる費用やコンサル料など資金面のサポートを得られることも大きかったという。
スリランカにはKMCも拠点を置いている。出川氏は、KMCは水道局など政府機関とのコネクションを有しているだけでなく、現地日本企業を含めた幅広いネットワークを築いているほか、首都コロンボに限らず地方を含めた現地事情に精通していると評価し、その支援がなければスムーズに事業を進められなかっただろうと振り返る。技術工務本部容器技術部長・伊藤朋紀氏によるとKMCからは実際の建設工事を行う普及実証事業において、現地スタッフが通訳を含め、現地の建設コンサルタントなどとの打ち合わせや書類作成の面などで支援を受けたという。
ABEは普及・実証事業終了後もKMCとコーディネーター契約を結んでおり、スリランカでは外資の事務所登記や銀行開設などのハードルが高いことから、KMCの拠点の一室を借りるかたちで駐在員事務所を置いている。あいにく、同国ではコロナ禍と債務不履行によりABEも事業を進められずにいたが、最近少しずつ再開の兆しが見られ、来年4月ごろには先が見通せるようになると見込む。
上水道は生命、安全に関わることから政府としても優先度は高いと見込んでいる。下水処理施設でも日本で実績を有する同社は、現在伊藤氏が中心となってスリランカで下水処理のニーズ確認調査を行っており、施設の老朽化が上水道の水源の汚染につながっているとして、下水処理の重要性も認識している。また、現地で同社のPCの品質を示せたことで、MRTや鉄道のまくらぎなどの工事案件の受注も見込めるとして、スリランカでの事業化に備えている。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:井手口哲朗
所在地:岐阜市六条大溝3-13-3
設 立:1965年9月
資本金:3億150万円
売上高:(24/6)284億834万円【茅野雅弘】
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