2024年12月16日( 月 )

【企業研究】福岡の発展とともに200年 土地評価額だけで推計1,000億円超に~ライバル比較(4)

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紙与グループ

 天神・博多地区は、九州のビジネスをリードするエリアだが、地場資本として多くのオフィスビルを所有し、確かな存在感を放っているのが紙与グループだ。約200年の歴史を福岡市の発展ともに堅実に歩んできた同グループは、今では土地評価額だけで推計1,000億円超の資産規模にまで成長している。

渡辺通の由来となった渡邉與八郎氏

博多電気軌道の在りし日の様子(紙与産業のホームページより)
博多電気軌道の在りし日の様子
(紙与産業のホームページより)

    紙与グループは、中核企業の紙与産業(株)、紙与不動産(株)、渡辺地所(株)、(株)サンライト、そしてこれらを統括する紙与ホールディングス(株)で構成される企業体だ。そのルーツは、渡邉與助氏が1825年に興した呉服商「紙与」。その三代目にあたる渡邉與八郎氏は、1911年に博多電気軌道(株)(西日本鉄道(株)の源流となった1社)の設置に尽力した。福岡市の天神地区の幹線道路といえば、南西を昭和通り、明治通り、国体道路の3本があり、それらを南北に貫いているのが「渡辺通り」だが、その名称の由来となったのが與八郎氏なのである。同氏は、京都帝国大学の分科大学(福岡医科大学/現・九州大学医学部)の誘致活動のため、大学用地の取得にも重要な役割をはたすなど、教育や人材育成にも貢献した人物でもある。

 同社の沿革については、1920年に(株)紙与商店が設立され、27年に(株)紙与呉服店、52年に紙与産業(株)へと商号変更。54年にビルの第1号となる渡辺ビルが竣工し、その後、紙与不動産などの子会社を設立して、2017年に持株会社・紙与ホールディングス(株)が設立され現在に至っている。ビルの開発と管理業、駐車場事業を展開。與八郎氏の玄孫(孫の孫)である與之氏が紙与産業の社長などに就き、グループを率いている。

15ビルを所有・管理

 紙与グループでは、24年11月時点で15のビル【表1】、3カ所の駐車場【表2】を所有、あるいは共同所有、管理に関与している。そのほとんどが福岡市のビジネスの中心地である天神・博多地区に集中しており、しかも渡辺通りなど中心部に立地している。現在、最も古いビルは中央区渡辺通4丁目にあり、50年前に竣工した「紙与天神ビル」だが、時代を経るにつれ徐々に数を増やしてきた。

紙与博多中央ビル
紙与博多中央ビル

    とくに、18年には3棟のオフィスビルを建設、稼働させている。このうち、「JS博多渡辺ビル」は再生可能エネルギーを除いて、基準一次エネルギー消費量から50%以上の一次エネルギー消費量削減に適合した建築物に与えられる「ZEB Ready認証」を取得。「紙与博多中央ビル」は、国内トップクラスの卓越した環境・社会への配慮がなされた建物として、「DBJ Green Building 認証」を取得した、建物の省エネ性能のほか、IT・通信対応、BCP(事業継続計画)などにも配慮が行き届いた、現在のビジネスシーンに求められる最新鋭の仕様によるオフィスビルとなっている。

東京にも「進出」

 「住友不動産ふくおか半蔵門ビル」は、紙与グループ唯一の福岡県外、東京都内にあるビルだ。福岡県が所有し、ホテルなどとして運営されていた「福岡会館」が施設老朽化により15年3月末に閉館。紙与グループと住友不動産(株)、(株)西日本新聞社が跡地利用の優先交渉権を獲得し再開発された。福岡県東京事務所などのほか、1階には福岡県産の食材などによる料理を提供する「麹町なだ万・福岡別邸」が入居している。なお、所有権の持分比率は住友不動産が94%、渡辺地所が5%、西日本新聞社が1%となっている。土地は福岡県の所有で、3社は17年から70年の借地契約を県と結んでいる。

グループ会社が入居している「紙与渡辺ビル」
グループ会社が入居している「紙与渡辺ビル」

    このほか代表的なオフィスビルをいくつか見ると、「紙与渡辺ビル」は天神ビル本館、九州最大の売場面積を誇るユニクロ天神が入っているミーナ天神ビル、天神フタタビルといった天神の中心地、渡辺通りと昭和通りの交差点の角地に立地。紙与ホールディングスや紙与産業など、本社機能が入るグループの中枢を担うオフィスビルだ。天神・博多地区に集中する紙与グループのオフィスビルだが、唯一それ以外にあるのが早良区西新の「紙与西新ビル」で、1階にディスカウントショップ「ドン・キホーテ」が入居している。15のビルのうち最大の延床面積を誇る「西日本渡辺ビル」は(株)西日本新聞、(株)西日本新聞ビルディングとの共同ビル。入居する大丸福岡天神店に加え、ベルギー製のグラサルボードを使用した想紅(おもいくれない)色の外壁は、重厚で存在感のある意匠で、天神地区のランドマークの1つとなっている。

この10年で20億円規模の増収

 15あるビルは渡辺通りや国体道路、明治通りといった福岡市内の主要幹線道路沿い、あるいはそれに準ずる立地であり、そのため稼働率は非常に高いと推察される。24年12月現在の各ビルの稼働状況を調べてみると、15ビル中、空室があったのは6カ所のみで、しかも空室はビルのなかの1フロア、もしくはフロアの部分的な空間だ。

 このような状況をうけたグループ各社の24年3月期の業績は、紙与産業が売上高21億6,400万円(当期利益3億9,900万円)、紙与不動産が同28億1,000万円(同10億5,300万円)、渡辺地所が11億3,000万円(同2億2,800万円)、サンライトが同5億4,000万円(同1億9,000万円)となっている。

 4社合計の総売上高は約66億円で、同じく総売上高が約46億6,000万円だった15年3月期と比べると、この10年で約20億円の事業規模拡大したことになる。24年3月期の4社合計の当期利益率は27.2%と高い水準であり、得られた利益で状況に合わせた開発を行いながら、しかも業態をビル事業と駐車場事業に絞り込み、堅実に事業を展開し成長を継続してきたことがうかがい知れる。なお、15ビルのうち、同グループが土地を所有する13ビルの土地価格を24年の周辺地価を参考に試算すると1,000億円超となっていた。

 もちろん、この金額にはビルの価値は入っていないし、市内の一等地にはこのほかにもグループが所有する土地がある。それらを合わせると2,000億円規模にも迫ることも想像される。

紙与産業が保有する渡辺通5丁目の土地
紙与産業が保有する渡辺通5丁目の土地

    たとえば、所有する土地の1つが中央区渡辺通5丁目、大丸福岡店がある西日本渡辺ビルの国体道路を挟んで反対側にあるもので、現在は駐車場となっている。市営地下鉄・七隈線の入り口がすぐ側にあるなど、利便性が非常に高い立地であり、この土地に新たなビルを建設することも将来的にはあるのではないだろうか。

 このように、天神・博多エリアを中心にビル事業を展開する紙与グループだが、課題があるとするなら建替期を迎えた老朽オフィスビルが散見されることだ。1974年竣工の「紙与天神ビル」など70年代から80年代に竣工したビルが4棟あり、その建替やメンテナンスは、建設費の上昇などの影響もあって、近い将来、経営上のリスクになる可能性もある。

継承される地域密着戦略

 ただ、福岡の地場不動産グループとして、天神・博多地区を中心とする地域密着戦略に基づく堅実な経営姿勢を貫き、地域貢献をはたすことは今後も変わりがなさそうだ。それを表すのが25年3月期からスタートする奨学金事業。グループでは24年9月に(一財)「渡辺与八郎記念財団」(渡邉與之代表理事)を設立し、與八郎氏が120年前に行っていた学資援助を復活し、福岡の人材育成に貢献することにしている。財団が指定する19の大学に通う日本国籍の学生が対象で返済は不要。給付は月額7万円となっている。「福岡の発展とともに」は、與八郎氏以来の紙与グループの理念だが、それが次世代にも引き継がれようとしていることがうかがえ、健全な企業運営が行おうとする姿勢がうかがえる。

【田中直輝】


<COMPANY INFORMATION>
紙与産業(株)

代 表:渡邉與之ほか1人
所在地:福岡市中央区天神1-12-14
設 立:1920年3月
資本金:5,000万円
売上高:(24/3)21億6,400万円

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