2025年01月03日( 金 )

中国の情報戦略の要は“孫子の兵法”(後)

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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

イメージ    サウジアラビアが先鞭をつけました。「石油を売っても代金はドルではなく、裏付けのある金とか、資源との交換というかたちでないとダメ。あるいはビットコインのような転換が容易にできるような仮想通貨でないと受け取れません」と言い始めたのです。これはアメリカにとっては寝耳に水の出来事でした。

 しかも、通貨をめぐる暗闘は激化するばかりです。ノストラダムス曰く「偽の金銀がはびこる。そのため価値のなくなったお金は湖や火のなかに投げ入れられる」。要するに、アメリカの経済が失速し、加速するインフレも制御不能となり、米ドルの一強体制が崩壊するというのです。すでにその予兆は随所に見られます。「金融のグレートリセット」が起きつつあると言っても過言ではありません。

 中国やロシアなどBRICS(ブリックス)の国々は、ドルからの離脱という方向を目指しています。これは明らかに、ドルに対する不信の表れです。アメリカの天下が終わりに近づいていることを感じ取っているに違いありません。正に、『孫子の兵法』が教える「戦わず勝つ」という路線です。

 残念ながら、日本は相変わらずアメリカ一辺倒のまま。アメリカの「核の傘」で守ってもらっているとの理由で、アメリカのドルをしっかり買い支え、アメリカの赤字国債も世界で一番たくさん保有しています。これで日本は安泰なのでしょうか。アメリカはどんどん地盤沈下し、多くの国がアメリカから距離を置き始めているのに、日本だけが「NATOのアジア版をつくる」とか、アメリカ向けのリップサービスを続けている有り様です。

 別の視点でいえば、これから数年のうちにエネルギー危機、食料危機が必ず起きるでしょう。それを防ぐためにどうすべきか。エネルギー危機を回避するために一番いいのは、自然再生エネルギーに舵を切ることだと思われます。また、食料危機ということであれば、加工した人工肉を生産するなど、新たな手法で食料不足を回避していくことも検討に値するでしょう。

 100歳まで現役で活躍したヘンリー・キッシンジャー博士が言っていたことが思い出されます。彼曰く「自分たちが狙った特定の相手国をコントロールしようと思えば、石油を握ることだ」。しかし、「世界中の人々を自分たちが自由にコントロールしようと思うなら、食料を抑えることだ」とも言っていました。アメリカはこの考えを、当時から国家戦略として位置づけており、その考えは今でも健在です。

 ノストラダムス曰く「ヨーロッパの西の彼方から、貧しい人々の間で生まれ育った若い男が強大な軍隊を率いて、世界を一変させる」。言い換えれば、「アメリカ以外の地から新しいリーダーが生まれて世界を救う」との予言です。

 中国の指導者や軍部は『孫子の兵法』を学習すると同時に、ノストラダムスの予言を都合よく解釈し、「世界の新しいリーダーが生まれるのは中国だ」と主張しています。2500年の歴史を踏まえ、世界を魅了し続ける『孫子の兵法』と中国の台頭を示唆していると解釈できるノストラダムスの予言を組み合わせ、世界制覇に向けての国際世論形成に邁進しようとしているのが今日の中国です。

 トランプ氏は何とか習近平氏を丸め込もうとしているようですが、中国からは反発を呼んでいます。その腹いせのように、安倍元総理の昭恵夫人をフロリダの私邸に招き、夕食会を催したトランプ氏。日本への熱いメッセージを込めた「トランプ砲」ですが、はたして「昭恵夫人効果」はどこまであったのか、今後の展開が気になるところです。

(了)

浜田和幸(はまだ・かずゆき)
    国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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