地球のための1%、パタゴニアらしさの1%(4)~ビジネスの手法を変える挑戦
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パタゴニア日本支社長 辻井 隆行氏
社員への浸透、「高すぎた」の意味するもの
――人間の組織ですから、もうゴールに届きましたということではない。
辻井 人間はコンピューターではありませんし、ミスをする生き物ですから、100人のスタッフがいれば、僕も含めて100人それぞれが時には失敗をするし、いつも百点満点にいくわけがない。クライミングでも何度も挑戦してようやく頂上に到達できたという話はまったく珍しくありません。創業者のイヴォンは、そういうところには寛容で、取り組む姿勢が正しければ、一回のミスは仕方がない。でも取り組む姿勢が間違っていたり、ミスを繰り返したりするのは駄目です。もし姿勢が間違っていたときには、自分で気付くことができれば一番良いですが、お互いがお互いをモニターすることも大切です。バリューに照らして、「それっていいんですか」、「こんなやり方もあるんじゃないですか」と声を掛け合える風土を醸成できたらいいですね。
アメリカのデザインチームは、素材やコストの問題を常に議論しています。たとえば、コストは安いけれどリサイクル率が50%のポリエステルと、若干高いけれど100%のものと、どちらで作るかとなると、基本的には100%のもので作りたいのは当たり前です。しかし、コストがものすごく高くなると悩みますよね。10万円のジャケットを作って、誰も買わなくてゴミになったら本末転倒です。そういうことを考えながら、どの選択肢が一番良いのかを検討する訳ですが、そのときもミッションやコアバリューが判断基準になっています。
――パタゴニアの場合は、99%を鍛えた、その上があるわけですね。
辻井 そこを目指していけたら良いなと考えています。
なぜビジネスでやるのか、持続可能な企業同盟
――創業者のイヴォン・シュイナードの『社員をサーフィンに行かせよう』が日本で出版されたときの世間の注目は、サーフィンに行くのが自由な会社があるよという点がクローズアップされましたが、イヴォンさんの考えは、今お聞きしたように、非常に深い。その本のなかで、イヴォンさんがビジネスで行き詰ったときに、“環境に取り組むなら、会社を売って財団をつくってその基金で支援した方が一番いい、それなのになぜビジネスに携わるのかよく考えてごらん”とアドバイスを受けたエピソードがありました。パタゴニアというのは、そうやってつくられてきた会社だというのが伝わってきます。
辻井 イヴォンの一貫した考え方として、考え方の相違に注目するよりも、共通点を探して、一緒に解決策を探すというスタイルがあるように感じます。直接そういう言葉を交わした訳ではありませんが、パタゴニアがとっているアクションを見ると間違いないと思います。たとえば、数年前にパタゴニアが中心的な役割を果たして「サスティナブル・アパレル・コーリション」というアパレル企業同盟を作りました。立ち上げで協同したのはウォルマートです。
当時のウォルマートというのは、大量消費大量廃棄の象徴のような企業で、考えの異なる人とは関わらないというスタイルの人だったら、たぶん一緒に何かを立ち上げようとは思わなかったはずです。イヴォンのなかでもいろいろな葛藤があったのかも知れませんが、最終的には手を組んで、良い変化をもたらすためにできることは何かを考えましょうという話になった。今では、SACには約100の会社が加わっていて、H&MやGAPといった企業も名を連ねています。そうした企業が、パタゴニアとまったく同じフィロソフィで、まったく同じオペレーションをしているかというと、そんなことはない。
でも、共通点があるのであれば、お互いの強みを共有すべきだというのが彼の考え方です。資本主義は間違っているから自分たちはそこから抜け出して、その外側で環境基金などを作って、壊されていく環境を守る活動をしようというのは、彼にとって本質的な解決にはつながらないのだと思います。英語でバンドエイディングなどと言いますが、怪我をして血が出たら、それを止めるためにはバンドエイドを貼ることも必要ですが、ケガをしないようにすることも考えなければいけない。環境保護の活動では、目前の切羽詰まった環境破壊を止めるという活動に重点が置かれがちです。しかし、環境破壊の大きな原因の一つはビジネスそのものなので、ビジネスにかかわることで、ビジネスの手法を変えることで本質的な変化をもたらすことができると思います。
これまで私たち人間は、利益を最大化するためには、多少のことは仕方がない、法律は守るけれど、それ以上のことはしないというスタンスで経済発展を優先して来ました。しかし、法律というのは、後から不備に気付いて改正されることも多い。有害物質の川への排水問題でも、法律の基準内の希釈度で排水を続けた結果、地域に被害をもたらすといった例は良く耳にします。だから私たちはリスクがある場合は、現行法の基準にかかわらず、予防原則にのっとって行動することが大切だと考えます。ビジネスを続けるか悩んでいた当時のイヴォンを直接知っているわけではありませんが、ビジネスの世界にとどまったのは、関わってこそ解決につながるという考え方があったからだと思っています。僕自身も、いろいろな企業の方と話すようになって、それが大事だなと実感するようになりました。線を引いて、あの人は違う人だとか間違っているといった途端に、物事の解決に向けた大きなルートが1つ閉ざされるような気がしています。
(つづく)
【山本 弘之】<プロフィール>
辻井 隆行(つじい・たかゆき)
1968年生まれ。早稲田大学卒業、実業団サッカー部所属。引退後、早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シーカヤックインストラクターを経て、1999年、パタゴニアにパートタイムスタッフとして働き、2000年に正社員。2009年から日本支社長。関連記事
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