トランプ次期大統領との運命共同体を模索する孫正義氏の命運(後)
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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸孫氏が2つ目のビジョン・ファンドを立ち上げようとしたとき、投資家らは反対したものです。自己資金によるビジョン・ファンド2は、市場のピーク時に資金を積み上げた後、37%下落しました。
最大の痛手となったのは、ソフトバンクがビジョン・ファンドなどを通じて160億ドル以上を出資した後、破産申請したオフィススペーススタートアップのウィーワークです。
孫氏のウィーワークへの関与は8年前に始まり、同社の共同創設者であるアダム・ニューマン氏の案内でマンハッタンのオフィスを約15分間見学し、その直後に孫氏は同社に40億ドル以上を投資することに同意しました。即断即決と言えば、聞こえは良いでしょうが、十分な調査がなされたとは言い難い状況で、そのしっぺ返しに会ったと言われても否定できません。
そもそもそんな短い会社訪問と瞬時の投資の決断に至った背景は何だったのでしょうか。実は、当時、孫氏は次期大統領に会い、500億ドルの投資計画を発表するためにトランプタワーに向かう途中だったのです。トランプ氏との約束に遅れるわけにはいかないというので、焦っていたと言われていました。
孫氏は長年にわたりハイテク業界で大きな発言力をもっており、手元資金の不足によってめったに思いとどまることはないようです。彼は借金によって助けられたことが何度もあるからです。
ヤフーの日本部門と中国の電子商取引大手アリババへの出資金の回復に助けられ、彼は再建したわけです。彼は多額の借金を使ってボーダフォンの日本部門を買収し、同社が日本に初めてiPhone を導入できるようにしました。実に巧妙な投資戦略です。
米国メディアによると、資金はビジョン・ファンド、資本プロジェクト、半導体メーカーのアーム・ホールディングスなど、ソフトバンクが管理するさまざまな資金源から調達される可能性があるとのこと。はたして、その通りにいくのでしょうか。
孫氏はAIの可能性を強く主張しており、OpenAIの株式を取得し、半導体チップスタートアップのグラフコアを買収するなど、この分野への投資を拡大してきました。
去る10月、孫氏は超人工知能の時代が到来することへの信念を改めて表明し、それには数千億ドルの投資が必要になると述べました。
孫氏は「次の大きな行動に移せるように資金を貯めている」と述べていましたが、詳細については明らかにしませんでした。
孫氏のソフトバンクは、過去8年間に2つの大規模な「ビジョン・ファンド」を運営し、自社資金とハイテク大手数社の資金に加え、サウジアラビアの公的投資基金からの数10億ドルを調達し、一連のハイテク企業に注ぎ込んできました。
そうした資金は孫氏がトランプ大統領の1期目に掲げた500億ドルの公約を達成するのに役立ったことは間違いありませんが、雇用目標には達しませんでした。
また、NVIDIAのジェンセン・ファン氏は、孫氏が自社の巨額の株式を所有しながら、NVIDIAをテクノロジー界のトップに押し上げた人工知能のブームに乗り遅れたことを批判しました。ソフトバンクは19年にエヌビディア株4.9%を40億ドルで売却したのですが、その株の価値は現在1,550億ドル以上となっています。このことからも、孫氏の先を見通す眼力には注意信号が点滅しているとの指摘も無視できません。
ウィーワークがソフトバンクの最近の失敗作のなかで最も注目を集めているからです。ロイター通信によると、孫氏の会社は不動産事業に約160億ドルを注ぎ込み、その価値をつり上げ、新興企業のスターダムへの押し上げに貢献したことはたしかです。
しかし、ウィーワークの炎上は今では伝説となっています。同社は株式公開により価値が数十億ドル下落し、最終的に23年に破産を宣告されたからです。
幸い、ソフトバンクはこのところ状況を好転させ、四半期連続で利益を上げています。英国の半導体チップメーカーであるアームは孫氏の会社にとって利益を生み出す傑出した子会社です。トランプ大統領の二期目における孫氏の米国へのコミットメントは、こうした最近の明るい成果のなかで行われました。
しかし、その1,000億ドルが本当に調達できるのか、そしてもしそうなった場合、その現金が存続可能な企業に流れるのか、それとも成功の見込みが不明な新興企業の別のグループに流れるのかはまだ分かりません。
若干感情的になった感も見受けられる孫正義氏は投資家に対し、ソフトバンクがAIとロボット工学のリーダーになりそうなので、再び「守りのモード」から移行するだろうと語っています。
要は「攻撃モード」に舵を切ったようにも見えますが、同社の有名なビジョン・ファンドはトランプ氏への1,000億ドルの約束についてはいまだ沈黙を保ったままです。この先、米国を偉大にすると宣言するトランプ氏とともに孫氏はソフトバンクを再び大成功に導くことができるのでしょうか。
(了)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連記事
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