地球のための1%、パタゴニアらしさの1%(5)~ビジネスの手法を変える挑戦
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石木ダム建設反対運動を支援
――日本で、「サスティナブル・アパレル・コーリション」というアパレル企業同盟のような共同、同盟が進みそうですか。
辻井 本社の素材調達のチームがやっていることですが、そもそも私たちが使っている素材の中で、化学繊維の多くを日本の企業から買っています。たとえば、帝人さんからはポリエステルの多くを仕入れていますしリサイクルの取り組みなどのプロジェクトに共同で取り組んでいます。
――パタゴニアは、「地球のための1%」として、毎年売上の1%を、自然環境保護・回復のために寄付しています。それだけでなく、長崎県と佐世保市が川棚町川原(こうばる)に建設しようとしている石木ダムに反対する地元住民らの運動を全面的に支援しています。なぜ石木ダムなのですか。パタゴニア直営店にある石木ダム反対を支援するコーナー
辻井 私たちが洋服を作る際には、環境負荷を減らすことと人権に配慮することの2点に留意していますが、石木ダムの問題には、環境と人権という二つの要素が含まれていて、自分たちが日ごろから大切にしていることとの親和性が高いことがあげられます。それに、日本の未来を考えると、税金の使い方について、それが未来世代にとって適切なのかどうかをしっかり考えて決めていく必要があると思っています。石木ダムの工事では関連事業費を入れると540億円近いお金が使われるわけですから、そのお金の使い方が本当に未来の世代にとって、もちろん今の人も大事なので近未来も含めて、良い使い方なのかどうかがしっかりと議論されて、市民の方たちが主体的にそこに関わってくるというプロセスが生まれることが大事だと思っています。市民民主主義という言葉がありますけど、民主主義の良いところは皆で選んだ代表者が物事を進めていくことにではなく、プロセスの透明性にこそあるはずです。
日本には他にも公共工事という名の下で自然が破壊されようとしている場所が数多くあり、必ずしも公益性が高いかどうかが客観的に評価されている訳ではありません。何が一番正しい選択肢なのかが深く議論されていない例も少なくありません。しかし、人権という観点からすると、行政代執行という極めて非人道的な方法によって、そこに住む方々の家や農地が強制的に収用されて出来たダム事業は一つもありません。
パタゴニアは、グローバル全体の売上は7億ドルを超えましたが、日本支社単体で見れば中小企業の規模ですから、人にしても時間にしてもエネルギーにしても、ある程度1つのところに集中させて、具体的な成果を生むことが大切だと考えて、日本支社で初めて独自に取り組むソーシャルアクションとして、この石木ダム建設計画を選びました。
――世界中で、支社が取り組んでいるわけですか。
辻井 そうですね。南米では今、非常に大きな公共工事が盛んに進められていて、たとえばチリではプンタデロボスというサーフポイントがあるピチレムという町の海岸線を守る活動を全面的に支援しています。ヨーロッパでも原生自然を守ることに注力していたり、各リージョンが具体的な事例を決めて活動しています。ソーシャルインパクトを日本でも
――日本支社が特別なわけではないんですね。
辻井 はい。アメリカでは、主に現存する不要なダムを撤去することに力を入れています。例えば、スネークリバーという川の下流部に4つのダムがありますが、それらを取り去ることに賛成する方々の署名を集めてホワイトハウスにオバマ政権を訪れて、直接陳情するといった活動も行っています。今、ちょうどウエブサイトにスネークリバー修復の動画を掲載していて、アメリカ本社が組織をあげて取り組んでいます。
――きょうのお話の最後に、パタゴニアらしさを保ちながら、「サーフィンに行かせよう」の次にあるもの、次にあるものなのか、パタゴニアはパタゴニアだから、次があるわけじゃないよ、かもしれませんが、今後のパタゴニアは。石木ダム反対のオリジナルTシャツ
辻井 日本支社のビジネスについて言えば、まだまだ大きなソーシャルインパクトは出せていないと思っています。私たちが日本でビジネスを展開することで、既存の流れが変わったり、未来世代に対して良い変化がもたらせるような存在になりたいと思っています。そのためには、ビジネスという世界できちんと成果を出していくことが大事だと考えています。どれだけ環境課題に取り組んだとしても、ビジネスとして成功していなかったり、後退していたら、他社の関心を引き寄せることもできません。それが伴ってくると、「パタゴニアは、あんなことをやっているのに、どうして利益がついてくるんだろう」と、「1%の違い」の部分に関心を持ってもらえるかも知れません。利益きちんと追求しながら、自分たちのバリューに照らして正しい振る舞いを続けることで、他社も巻き込むことに成功して、ようやく、日本支社としての役割を果たすことが出来ると考えています。そのために、いわゆる成功している他の企業がきちんと行っているビジネス的な取り組みの精度をしっかりと上げていくことが大切だと思っています。
――ひじょうに楽しみです。
辻井 僕もすごく楽しみです。まずは、この先の5年くらいを見据えて、全力で取り組んでいくつもりです。(了)
【山本 弘之】
<プロフィール>辻井 隆行(つじい・たかゆき)
1968年生まれ。早稲田大学卒業、実業団サッカー部所属。引退後、早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シーカヤックインストラクターを経て、1999年、パタゴニアにパートタイムスタッフとして働き、2000年に正社員。2009年から日本支社長。
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