森林が支える「当たり前」の恩恵(前)
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福岡県議会議員 桐明和久 氏
森林は、水源の涵養(かんよう)をはじめとするさまざまな恩恵を私たちに与えてきた。ところが、森林管理の不全に加え、異常気象などにより、森林の恩恵は損なわれつつあり、森林のある地域はもちろん、そうではない地域にも悪影響、とくに安全を脅かすケースも見られるようになった。そうした事態を回避し、森林の恩恵を次の世代に引き継ぐにはどうすればよいのか──。八女市・八女郡選挙区選出で、自由民主党福岡県議団の農政懇話会会長を務め、林産業の状況にも詳しい福岡県議会議員 桐明和久氏に、あるべき方向性を聞いた。
地域に根付く林産業
──林産業の現状について、どのように見ておられますか。
桐明 私は八女市の出身ですが、40~50年前は市内に土場(木材や土木資材の集積場)を持つ製材所が数多く存在していました。住宅建築向けに木材が大量に使われていましたし、電柱として木材が大量に使われていた時代であり、また、当時は木材価格が今よりもずっと高額であったことから、地元の資産家たちは山林を購入すれば、子どもや孫の代まで安泰と考えていました。ところが、経済の発展とともに電柱はコンクリート製が主となりましたし、住宅建築においても住宅メーカーの工法も変わり、海外から木材を輸入してプレカットすることが主流となり、国産木材、とくに地元産の木材の使用が少なくなったことから、八女市内で土場がある本格的な製材所は数少なくなり、林業と木材加工業は低迷期が続いています。
一方で、八女市は面積の約65%を森林が占めています。大分県と熊本県の県境にもあることから、歴史的に林業や木材加工業が盛んだったわけで、これらの林産業は今でも地域を支える重要な産業であり続けています。八女地域は森林から多大な恩恵を受けてきた地域なのです。2024年4月には、八女地域で産出された杉の木を屋内外に多用した八女市役所が完成し、稼働を始めましたが、それは八女市と林産業の結びつきの強さを表すものといえます。
──その森林の現状については、いかがでしょう。
桐明 森林は二酸化炭素を吸収して地球温暖化を防ぎ、地球環境を保全する役割や、生き物の住処(すみか)になり、生態系を守る生物多様性の保全の役割、また、水を蓄え水害を防ぐ役割、そして土壌の流出や土砂崩れを防ぐ土砂災害防止や土壌を保全するといった、多くの役割を担っています。ただ、その人々の「当たり前の生活」を支える役割や機能は、主伐・植樹・間伐などを長期にわたって循環して行う適正な管理により維持されてきたものです。残念ながら、コスト面の折り合いがつかなくなったことで、森林の管理ができなくなったところもあります。また、効率性を重視することから、大型機械によって1つの山を一気に伐採してしまうことが一般的にもなっています。そもそも管理されない山林もあります。その結果、大規模な水害が発生するケースが増えてきました。
一方、異常気象が頻発するようになり、その結果、森林がはたす機能や役割が国民や県民に少しずつ認知されるようにもなってきました。たとえば、近年では有明海漁協や矢部川漁協の皆さんが、川の恩恵を受けているということで、上流部に自分たちの山林をそれぞれ保有して、組合員に山林保全の大切さを意識させる事例も見られるようになってきました。もちろん林業関係者も努力しています。八女地域の森林組合では、森林整備の取り組みは一人親方にも依頼し、実施されています。
九州北部豪雨が契機
──桐明議員は県議会において農政懇話会の会長を務め、農林水産委員会にも所属されています。それはどのような経緯からなのでしょうか。
桐明 農政懇話会は、県の農林水産業の関係者の皆さまより要望を受ける自民党県議団の窓口のような組織です。懇話会の会長に就任してから2年になります。また、県議会の常任委員会の農林水産委員は、議員当選以降、14年務めています。私が水源涵養や土砂災害防止などについて強く認識したのは、12年7月に発生した九州北部豪雨がきっかけでした。県議会議員に当選した翌年でしたが、被害が大きかった黒木、矢部、星野に足を運んだところ、八女市の事業者だけでは仮復旧へ十分対応できない状況でした。そこで、被害が少なかった八女郡広川町や筑後市などの周辺地域の事業者に応援を要請し、県や自治体との橋渡しをする取り組みを行いました。
私の前職は八女市に本社がある土木工事会社の代表でしたから、周辺地域の事業者とのネットワークがあり、協力を仰ぎやすかったのです。被災地には孤立した地域があり、自衛隊のヘリコプターで食料や燃料などを輸送するような切迫した状況でしたが、そのような連携ができたことから、あくまで仮復旧でしたが比較的早く対応することができました。
八女市は県内で北九州市に次ぐ面積がありますが、人口は約6万人でそれぞれの集落が点在しています。そうした地元が置かれる状況はもちろんですが、九州北部豪雨において農林水産業関係者との関わりが強まったことが、これまでの農政を中心とした政治活動の原点となりました。また、記憶に新しいところでは、23年7月にも、うきは市や久留米市、朝倉市などで大規模な水害が発生し、その被害は下流域にもおよびました。自然災害には完璧な対応はできませんが、対策はできるはずであり、その重要な対策の1つが森林環境の保全であると考えています。
(つづく)
【田中直輝】
<プロフィール>
桐明和久(きりあけ・かずひさ)
1958年10月、八女市柳島生まれ。熊本工業大学土木工学科卒後、81年に(株)桐明組に入社。88年に同社代表取締役に就任。2011年の福岡県議会議員選挙で初当選し、現在は4期目で、自民党県議団副会長、農政懇話会会長を務める。農林水産委員会に所属。第72代福岡県議会議長(22年6月21日~23年4月29日)。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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