2025年01月09日( 木 )

2025年「世界資本主義再構築」と日本の好位置(1)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は1月1日発刊の第371号「2025年「世界資本主義再構築」と日本の好位置」を紹介する。

(1)なぜ、強い米国が必要かつ必然なのか

歴史的転換を推進する2つの力

 10年後を考えると、世界のシステム・経済主体が、今のままで存続し続けることはないだろう。今の世界を突き動かす2つの力が、すべてを押し流していくと考えられる。その第一は専制国家を排除した世界秩序の構築、第二はAI革命の不可逆的進展による国際分業と各国の経済・産業構造の変容、である。

専制国家排除の国際秩序、いずれ見えてくる

 第一の力について。どこかの時点で、専制国家を排除した世界秩序構築が加速化するだろう。中国、ロシア、北朝鮮、イランなどの専制国家は袋小路を進んでいる。アサドシリアの滅亡に続き、ロシア・中国の経済的衰弱は避けられない。他方で米国では資本主義の蘇生が進展し、米国のプレゼンスは経済的にも政治・軍事的にも高まらざるを得ない。資本主義的世界秩序は米国主導で再構築が進められるだろう。トランプ氏の利己的にも見える「強いアメリカ再構築」に他国が従順にならざるを得ないのは、それ以外の選択肢がないからである。トランプ外交を米国の孤立主義、ナショナリズム回帰と見ることは間違っている。強いアメリカの復活は、世界秩序再構築の必須の条件である。

空前のAI革命、米経済優位を一段と強める

世界資本主義 イメージ    第二の基本的力について。空前のAI革命は国際分業(各国の相互依存関係)の再構築、および各国経済・産業構造の大転換を必然的に引き起こすだろう。技術革命のスピードは驚異的である。我々はムーアの法則(半導体では18カ月で2倍という集積度(=生産性)の向上が40年にわたって続いている事)が、現代経済の枠組みを根底から変えてしまっていることを痛感している。しかし今進行中のAIの基本構造であるニューロネットワークは、ムーアの法則以上のペースでの指数関数的生産性の向上(=損失の低下)を引き起こしている、と言われている。これをスケーリング則と言い、AIが応用されるすべての分野において、それと類似の劇的な変化を引き起こすことが想定される。ほぼ1,000億個に上るニューロン(脳細胞)が1ニューロンあたり1万個のシナプスでつながることにより、人類の知能は飛躍的に高まった。AIデバイスは演算素子がヒトの脳に類似したネットワークで連携されることにより形成され、並列処理と高速化を可能にした。半導体と異なり、AI実装はあらゆる人間の頭脳労働の場面で実装可能なので、生産性上昇は広範囲な分野で実現していきそうである。それは自動的に供給力を高め潜在成長率を引き上げていく。

NVDIAの株価急騰バブルではない、なぜか

 このAIハイテク技術の多くは米国独占であり、他国は米国からの一極供給に依存することになる。この不可欠な基本技術と供給力を米国に依存し続けている以上(=米国は独占的に最先端ハイテクを供給している以上)、国際分業体制を後退させるわけにはいかない。トランプ氏の反グローバリズムという選挙レトリックを真に受けてはならないだろう。

 AI技術が希少財であり代替供給者がいないとすれば、AI技術品・サービスの相対価格が高まる。一見バブルに見えるNVIDIAとM7の株価上昇は、知的生産物の価格上昇を反映しており、根拠なき楽観とはいえない。AI革命は米を圧倒的に有利にするだろう。また先進国での労働は頭脳労働中心なのでAIの応用分野が多岐にわたり、広範な生産性向上が期待できる。他方労働力が潤沢な新興国は、筋肉労働中心でAIの活用分野は狭い。そもそも新興国の多くは余剰労働力を抱えているので、生産性向上が雇用を奪うことで社会不安を引き起こす可能性もある。つまりAI実装のモチベーションは低く、生産性の伸びは先進国に比し低いままに止まる可能性が高い。今勢いのあるように見えるBRICSに集う新興諸国は全体として経済プレゼンスを下げていくだろう。

(つづく)

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