2025年「世界資本主義再構築」と日本の好位置(3)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は1月1日発刊の第371号「2025年「世界資本主義再構築」と日本の好位置」を紹介する。(2)トランプが米国資本主義を蘇生させる
格差分断の下で資本主義強化を支持する米国世論
格差・分断という現実はほかの国では容易に反資本主義・反市場経済、社会主義礼賛につながるが、米国ではむしろ市場と資本主義を強化する路線に収斂したことは、注目に値する。AI革命は劇的な生産性の向上により企業部門(とくにマグニフィセント7などの巨大ハイテク企業)に著しい超過利潤=過剰貯蓄を与える一方、労働者への分配が滞り格差を拡大させるという問題を引き起こした。
この企業部門に蓄積されている超過利潤をいかに経済システムに還流させ、成長(=新規需要と雇用創造)につなげるかが、米国経済が直面する最重要の課題である。図表1に見るように、企業の内部資金(純利益+減価償却費)は、1960年代から1990年代まで、GDPの10~12%で推移していた。それが、最近では14~16%で推移するようになっている。他方企業の設備投資は長期にわたってGDP比10%程度で推移しており、企業部門の資金余剰が顕著になっている。この企業余剰をどう再分配し新規需要と雇用につなげるのか。
潤沢な企業利益の還流、政府がやるか市場に任せるか
その経路としては、(1)政府による企業・富裕者増税と社会的弱者に対する財政支援、(2)株式・資本市場を通した企業の利益還元、(3)強制的賃金引き上げ、労働分配率引き上げ、の3つが考えられ、(1)、(3)は政府による介入、(2)は市場経済を通した再配分と整理できる。先の米国大統領選挙での明確な論点は、ハリス・民主党の「大きな政府・弱者優遇論による増税路線」と、トランプ・共和党の「小さな政府・アントレプレーナー支援論に基づく減税路線」の対立であり、まさにこの核心をめぐっての国民選択を問うものであった。そしてトランプ・共和党の勝利により米国の方向性は定まった。
AI技術の実装に先行する
トランプ氏はイーロン・マスク氏を政府効率化省DOGE(Department of Government Efficiency)トップに指名した。DOGEは組織も建物もないが、マスク氏は既存の行政組織OMB(行政管理予算局)を采配することで、行政の効率化と予算削減を行う、と報道されている。マスク氏は2022年にツイッターを買収し、従業員を8割削減するという大ナタをふるった。またロケット打ち上げ企業スペースXはロケット打ち上げコストを8割削減し、契約を勝ち取った。それらは労働強化ではなく業務の効率化と新技術の活用によって実現した。マスク氏は同様のことは、行政機構においても可能である、と考えているのであろう。
AIの進歩は驚異的であり、我々が最新の技術を装備すれば、信じがたい効率化が可能になる。それを阻んでいるのは旧来の既得権益と慣習である。既得権益には、人権、マイノリティ保護、などリベラルの衣を着ている主体も含まれている。DEI(多様性・均等性・包摂性)という口実そのものも、経済発展の阻害要因になっているという認識である。
現状においてすら、規制が少なく、労働と資本が流動的で最もイノベティブな米国が、一段と効率化するなら、それは競争相手にとって恐るべきことである。トランプ氏とマスク氏がこれほどまでに規制緩和と既得権益の打破にこだわる背景には、十分な技術的・経済的正当性がある、と言ってよいであろう。
既得権排除、徹底した規制緩和、究極の自由主義
トランプ氏、マスク氏が共有する徹底した反権威主義、自立自尊の開拓者精神は米国の歴史上たびたび登場し、経済社会の舵をきってきた、と言われている。1820年代のA・ジャクソン大統領、1980年のR・レーガン大統領などはその代表例であろう。彼らはリアリストであり、力の信奉者でもあった(森本あんり『反知性主義』2015新潮選書)。
このように整理すると、トランプ・マスク氏の経済革命は左右両極が非難する新自由主義どころが、もっと激しい究極の自由主義(=リバタリアニズム)であり、大きな思想革命をともなっていることに気づかされる。それは市場と資本主義に対する強い信頼に起因している。AI革命はコストの透明性を大きく高め、市場機能を効率化した。いわば「神の見えざる手」を著しく強化した。それがトランプ・マスク流の究極のリバタリアニズムを正当化している。
(つづく)
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