2025年01月12日( 日 )

2025年「世界資本主義再構築」と日本の好位置(5)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は1月1日発刊の第371号「2025年「世界資本主義再構築」と日本の好位置」を紹介する。

(4)2025年日本復活のKey Ward、
産業ルネサンスとBarbarian at the Gate

遅れていたJカーブ効果の発現、
実質賃金上昇により内需の拡大循環始まる

 2025年に繰り延べられていた円安によるJカーブ効果のプラス面が発現することは確実である。日本の工業基盤が衰弱してしまって円安による生産回復に時間がかかったこと、インフレによる実質所得減のリカバリーに時間がかかったことなどから、円安のプラス効果発現までのタイムラグがずいぶん長くなったが、ここからは期待できる。

 2025年も2年連続の5%賃上げが続き、実質賃金は2%を超えるプラスに浮上していくだろう。国民民主党の頑張りによる恒久減税の寄与も期待でき実質消費は1~2%のプラスに浮上するだろう。すでに円安のメリットはインフレによる名目成長率の急伸、海外所得の増加となって企業収益と税収増加に結び付いている。この企業利益と税収増加を家計に還流させるうえで、石破自民党の少数与党化は、恒久減税を主張する国民民主党に譲歩せざるを得ず、むしろプラスになっている。来年の参院選を睨めば、恒久減税が目玉政策として飛び出すかもしれず、それは株価の好材料である。

産業ルネサンス・・・米国の対中封じ込め、日米半導体協力で流れが変わった

 2025年はTSMCの熊本工場の稼働が始まり、日本の産業拠点としての根源的強さが再評価される元年となるだろう。日本の産業基盤の素晴らしさに驚愕したTSMC創業者のモリス・チャン氏に見られるように、日本の生産拠点としての圧倒的強さを思い知らせる事柄が、これから続出するだろう。世界の最先端半導体を一手に供給しているTSMCはそのすべてを台湾で生産しているが、それは需要者にとって大きな地政学的リスクである。TSMCは台湾以外の重要供給拠点として日本に注力していくだろう。熊本(JASM)1、2期に続き、第三期の最先端工場建設が検討されている。北海道千歳のラピタスや海外半導体企業の研究所創設など、日本において過去30年間で初めて、設備投資が引き起こす好循環が起きている。

 これらの半導体プロジェクトはすべて米中対立の下で、米国が経済安全保障上、日本に協力を求めたことが起点となったものであり、失敗するという結論はない。つまり成功するまで国は資金を出し続けるのである。国による巨額の半導体支援を批判し小馬鹿にする論者が少なくないが、そのような人々は経済安全保障の深刻さを理解していない。

 図表3はハーバード大学が作成している「世界の経済複雑性ランキング」(ECI)であるが、日本が一貫して世界のナンバーワンであることに、注目すべきである。このランキングは、世界各国の輸出データに基づき、(1)輸出品の複雑性と多様性、および(2)偏在性(独占度)を評価し、順位付けしたものである。複雑性が高いほど高付加価値産業を有し、産業の多様化が進み、世界市場での独占度が高いことを示している(カリフォルニア大学サンディエゴ校ウリケ・シェーデ教授著『シン・日本の経営~悲観バイアスを排す~』日経BPで紹介されている)。

 スマートフォンを例にとると、スマートフォン完成品の組み立ては規模は大きいが工程そのものは単純である。他方材料や部品、製造機械はそれぞれが固有の工程と技術的ブラックボックスをもっている。この複雑性ランキングでは、固有の工程数とブラックボックス部分が大きい方がランクが高くなる。日本はスマホの生産シェアは低いが、スマホの最終完成品に至る必要技術を世界で一番多く備えているといえる。その基礎力は、日本に生産回帰を進めるうえで大きな力になる。

 国際的ビジネスマンにとっては、(突出した異能はいないが)日本の労働力の均質性、レベルの高さ、労働に対する誠実性が抜きんでていることは、常識である。今さらではあるがそれがOECDによる成人力調査によって明らかにされた。2023年の調査によると日本人の成人力は、調査3項目のうち読解力、数的思考力でフィンランドに次ぎ第2位、問題解決能力でフィンランドとともに第1位、と発表された(図表5)。これらのビジネス拠点としての日本の優位性は、同時に半導体工場の建設が進む米国やドイツなどとの比較において、際立っていくだろう。

 日本が先端産業の世界的製造拠点として復活することは明らかである。日本の産業ルネッサンスはすぐそこにきている。

(つづく)

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