2025年01月14日( 火 )

労働者を守るためのカスハラ対策

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岡本弁護士
岡本弁護士

    本誌vol.67(2023年12月末発刊)で「カスタマーハラスメント(カスハラ)」についてご紹介し、カスハラと正当なクレームの違いなどについて解説しました。

 その後、24年10月には東京都が全国で初めてカスハラ防止条例を制定し、25年4月から施行予定です。罰則はありませんが、カスハラの禁止を謳っています。他の自治体でも同様の条例制定の動きがあり、24年12月に三重県桑名市が市議会に提出した条例案では、市がカスハラ行為者に対し、警告し、それでもカスハラを繰り返した場合、市のホームページなどで氏名を公表するという制裁措置も規定されています。

 このように近時、カスハラに対して厳しい目が向けられており、カスハラ被害を受けている事業者には、毅然とした対応をとるための環境が整備されつつあるといえるでしょう。

 他方で、事業者は、雇用する労働者が安全に労働に従事できる環境を確保する義務を負っていますので、カスハラによって雇用する労働者の就業環境を害されることのないよう対策を講じなかった場合には、事業者が被害を受けた労働者から責任を追及される可能があります。

 小学校の教諭が、児童宅を訪問した際に、飼い犬に噛まれて怪我をしたにもかかわらず、児童の保護者から理不尽な言動を受けたことに対し、校長が教諭の言動(保護者に対し「賠償」という言葉を使ったこと)を一方的に非難したほか、保護者の勢いに押され、その場を穏便に収めるために安易に教諭に対して保護者に謝罪するよう求めたことで、教諭はその後、精神疾患になったという事案がありました。このケースでは、小学校を設置する公共団体に対し、教諭への損害賠償を命じた裁判例もあります。

 それでは、事業者として、どのような対策を取れば良いのでしょうか。東京地裁の裁判例で、スーパーの従業員が客による暴言等のトラブルにあったとして、会社の安全配慮違反で生じた損害の賠償を求めた事案があります。この案件では、事業者が、①入社時にテキストを配布して、苦情を申し出る客への初期対応を指導していたこと、②店舗マネージャー不在時には「サポートデスク」や近隣店舗のマネージャーなどに連絡をできる態勢にあり、店員が接客においてトラブルが生じた場合の相談体制が整えられていたこと、③店舗マネージャー等の緊急連絡先や近隣店舗の連絡先が掲示されており、トラブルに対して正社員に相談して、指導を受けたり対応を求めたりする体制が整えられていたこと、④各店舗のレジカウンターには、非常事態に備えて通報用の緊急ボタンが設置されており、その存在は従業員に周知されていこと、⑤深夜の従業員を1名ではなく必ず2名以上の体制とし、1人が接客をしながらほかの1人が相談および通報などをして接客トラブルに対応することができるようにしていたことなどから、事業者の安全配慮義務違反はないとしました。

 この裁判例の内容以外にも、事業者としては、次のような取り組みをする必要があります。

 (1)相談・適切な対応のために必要な体制の整備
 (2)被害者への配慮のための取り組み(メンタルヘルス不調への相談対応、1人で対応させない等の取り組み)
 (3)被害防止のための取り組み(マニュアルの作成、研修の実施、業種・業態等の状況に応じた取り組み)

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