2025年01月15日( 水 )

2025年の年男(1)孫正義 (5)「人生50年計画」すべて実現

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買収、買収、また買収に向かって全力疾走

 孫正義が19歳のときにつくった「人生50年計画」とは

  • 20代で業界に名乗りを上げる。
  • 30代で軍資金を貯める。
  • 40代でひと勝負して、何か大きな事業に打って出る。
  • 50代でそれをある程度完成させる。
  • 60代は次の経営陣にバトンタッチし、300年以上続く企業になる。

 「人生50年計画」達成に向けて全力疾走する。

ネット検索会社、米ヤフーへの投資で
金鉱を掘り当てた

 大病を乗り越え、孫は30代になった。1990年にソフトバンクに社名変更、孫は日本に帰化した。軍資金を手に入れるために94年7月、株式店頭公開した。株式市場から得た資金を使って、インターネット先進国の米国で大型のM&A(合併・買収)に乗り出した。37歳の時である。

 30代は、1,000億円、2,000億円の勝負の時期にあたる。世界最大のパソコン関連の展示会「コムデックス」を運営するインターフェイス・グループから同展示会部門を800億円で、パソコン関連の出版社ジフ・デービス・パブリッシングを1,800億円で買収するという二度目の大勝負に出た。

 インターネットの新しい時代を航海するには、地図とコンパスが必要だ。米国で探し当てた最初のお宝は、95年に創業したばかりで社員6名のネット検索会社、米ヤフーだった。孫は米国ヤフーに出資した。米ヤフーが実現するであろうインターネットビジネスの輝かしい未来を孫は信じ、青田買いしたのである。
この投資で孫は金鉱を掘り当てた。米ヤフーの成功がソフトバンクのスプリングボード(飛躍板)となった。

 39歳でヤフー日本法人、ヤフー(ジャパン)を設立。米国ヤフーに115億円追加出資して筆頭株主にもなる。

世界3位の携帯電話グループ会社になる

 40代は1兆円、2兆円の規模の勝負だ。ブロードバンド事業に勝負を賭けた。日本をブロードバンド先進国にするためだ。

 40代のもう1つの大勝負が、モバイル(携帯電話)事業である。2006年4月にボーダフォン日本法人を2兆円で買収した。国内史上最大の買収だった。49歳のときだ。

 13年、米第3位の携帯電話会社スプリント・ネクステルを1兆8,000億円で買収。世界第3位の携帯電話グループが誕生した。このとき、56歳である。

 「手あたり次第のM&A」との批判があることを、孫は承知していた。何度も危機に陥ったが、そのたびに凌ぎきってきた。そして、通信業界の押しも押されもしない巨人になった。

ITバブルが弾け、再起不能といわれたが生き残る

ソフトバンク本社 イメージ    孫の危機はいくつもあるが、前半生の危機を1つ、2つ書いておこう。株式の店頭公開をはたし、知らず知らずのうちに、自信過剰になった。M&Aを重ねた結果、「無茶な投資」とアナリストや経済記者から叩かれ、銀行からも見放された。株価は暴落。倒産の危機に瀕した。

 だが、この時も神風が吹いた。世界中にインターネット旋風が吹き荒れ、米国ヤフーの株価がソフトバンクに3兆円の含み益を生むまでにはね上がった。

 00年2月15日、ソフトバンクの株価は19万8,000円の史上最高値をつけ、時価総額は21兆円を超え、トヨタ自動車を抜いて、当時の日本一になった。

 しかし、その後、ITバブルが弾け、ソフトバンクの株価は大暴落。時価総額日本一は三日天下に終わった。

 「再起不能」と何度か言われたが、孫はどっこい生きている。つくづく強運の持ち主なのである。

 50代は事業を完成させ、60代は次の経営陣にバトンタッチするというのが人生のシナリオだが、そんな気配は微塵もない。新しい「志」を追い続ける。孫の後半生については、後日、章を改めて論述する。

孫正義とは世界を股にかける「大山師」なり

 いまでは「青雲の志」というと、若い人は白けてしまいそうだが、「青雲の志」を持ち続けているのが孫の最大の魅力である。「志高く」。これは孫の人生の銘だ。夢と志は違う。夢は漠然とした個人の願望だが、志は願望を叶えようとする気概である。厳しい未来への挑戦である。

 孫は、経営者としては次々にアイデアを打ち出し、それを大胆に実行する起業家だが、彼の頭脳と熱情を突き動かしているのは「青雲の志」である。その志が、孫を世界に飛翔させていった。

 怪物として大成した人物には、小さい時にとてつもなく貧しかったか、大病を患ったかの共通項がある。孫は、どちらも経験している。

 とはいえ誇大妄想のようなことを平然と口走りながら、虚言とは思わせない孫の人柄は、天下を欺く大ほら吹きにもなりかねない危うさがある。

 怪物は昔風の言い方をすれば、山師である。山師とは、鉱脈を発見し、鉱石の採掘を行う鉱山主をいう。転じて、投機的事業で大儲けを狙う投機師を山師と称した。孫は、それもとびきりの「大山師」なのだ。

(了)

【森村和男】

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