オフィス・マンションが集積する「薬院エリア」(後)
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高い居住ニーズを満たす 相次ぐマンション開発
冒頭に紹介したように「住みここち」「住みやすさ」に定評のある薬院エリアは、居住区として福岡市内でも屈指の人気を誇っている。
福岡市の住民基本台帳に基づく公称町別の人口および世帯数を見ると、薬院エリア(薬院1~4丁目、平尾1丁目、大宮1丁目、白金1丁目、高砂1丁目、渡辺通2丁目)は24年10月末で人口2万6,073人、1万7,244世帯となっている。遡ること、10年前の14年10月末時点では人口2万1,715人、1万3,860世帯。さらに10年前の04年10月末時点では人口1万7,980人、1万781世帯となっており、人口および世帯数とも10年ごとに約1.2倍ずつの伸びを見せている。
こうした数字データが表す高い居住ニーズを満たすべく、薬院エリアでは旺盛なマンション開発および供給が続いている。
渡辺通2丁目では、積水ハウス(株)が分譲マンション「グランドメゾン福岡 The Central Luxe」の開発を進めている。同地は、21年1月末をもって営業を終了した老舗シティホテル「タカクラホテル福岡」の跡地で、積水ハウスが21年4月に取得していたもの。建物はRC造(一部S造)・地上18階建で、総戸数123戸(非分譲住戸80戸含む)。設計・監理は(株)IAO竹田設計、施工は前田建設(株)が担当し、竣工は25年6月を予定している。なお、積水ハウスではこれまでに、「グランドメゾン浄水ガーデンシティ フォレストゲートⅢ」(薬院4丁目、159戸、18年12月竣工)や「グランドメゾン浄水ガーデンシティ セントラルフォレストⅠ」(薬院4丁目、196戸、22年1月竣工)、「グランドメゾン薬院ザ・タワーレジデンス」(薬院3丁目、81戸、22年6月竣工)など、ハイクオリティマンションとして名高い「グランドメゾン」シリーズを数多く供給してきており、薬院エリアの居住区としてのブランド向上に一役買っている。
薬院3丁目では、(株)福岡地行が分譲マンション「アクロス薬院グレイステージ」の開発を進めている。建物はRC造・地上8階建、総戸数21戸で、設計・監理は一級建築士事務所A&C(株)、施工は(株)福島工務店が担当し、25年9月の竣工を予定している。
平尾1丁目では、(株)LANDICが分譲マンション「デュ・レジア薬院ザ・シティ(仮称)」の開発を進めている。建物はRC造・地上14階建、総戸数39戸で、設計・監理は(株)おおたに設計が、施工はアスミオ.(株)が担当し、26年8月の竣工を予定している。LANDICもこれまで近隣で、「デュ・レジア薬院テラス」(高砂2丁目、78戸、21年10月竣工)や「デュ・レジア薬院スタンス」(薬院3丁目、70戸、23年2月竣工)など旺盛な供給を行ってきており、薬院エリアのポテンシャルを高く評価している模様だ。
高砂1丁目では、(株)アライアンスが分譲マンション「ミスモ薬院ネクスト」の開発を進めている。建物はRC造・地上14階建、総戸数38戸で、設計・監理は(株)アーキスタイル一級建築士事務所が、施工は広成建設(株)が担当し、26年4月下旬の竣工を予定している。アライアンスも、これまで薬院エリアで「CLUB THE.薬院ステーションタワー」(白金1丁目、78戸、20年5月竣工)や「エイリックスタイル薬院南グランウィズ」(高砂2丁目、38戸、21年3月竣工)などの複数のマンション供給を行っている。
さらに薬院2丁目では、福岡地所(株)が賃貸マンション「CLUB NEXUS 薬院(仮)」の開発を進めている。同物件は、福岡地所が新たに立ち上げた賃貸レジデンス「CLUB NEXUS」ブランドの2棟目で、RC造・地上13階建、住戸数65戸で、ほかに一部診療所が入る予定。設計を(株)IAO竹田設計が、施工を有澤建設(株)が担当するほか、デザイン監修をデンマークに拠点を置くデザイン事務所「Aspekt Office(アスペクトオフィス)」が担当し、26年2月末の竣工を予定している。
あと、マンションではないが、薬院2丁目では「(仮称)福岡中央病院建替計画」の開発も進んでいる。これは、現在の福岡中央病院の隣接地において新病院を建設し、医療機能の向上を図るためのもので、新病院の延べ床面積は現在の約2倍となる計画。25年12月の完成を予定している。
一方、こうした多数の開発案件が進行している傍らで、動きが事実上ストップしている開発もある。それが、渡辺通2丁目で予定されている旭化成不動産レジデンス(株)による「アトラス薬院タワーレジデンス」だ。同物件は、もともと同地に建っていた分譲マンション「パール福岡」を、マンション建替法が定める「マンション敷地売却制度」の活用によって建て替えるもので、建物はRC造・地上19階建で、総戸数130戸のほか、店舗3戸も入る計画。当初は22年春にも着工し、24年9月に完成予定となっていた。だが、すでにパール福岡の解体は完了しているものの、その後、24年11月末時点でも着工した様子は見られない。現地の仮囲いに物件名などは堂々と記されているが、旭化成の都市型マンション「ATLAS」ブランドサイトの物件一覧には記載されておらず、まだ販売もされていない模様だ。今後、同物件がいつ動き出すか、その行方は気になるところだ。
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以前の福岡市の都市計画マスタープランでは、薬院エリア周辺の将来像を「商業施設などに中高層住宅が共存し、利便性を生かした都市居住がたのしめるまち」としており、14年5月の改訂後には、薬院エリアを含めた「渡辺通ゾーン」として、「居住地区との調和を図りながら、地下鉄七隈線の利便性を生かした新たなビジネス機能の集積を図る」構想が掲げられている。その薬院エリアは、23年3月に七隈線が博多駅まで延伸したことで、従前より高かった交通結節点としての利便性がさらに向上。それとともに、マンションやオフィスビルの開発が以前にも増して旺盛に進行しており、将来的にさらなる活気の創出が期待される。今後も都心の多彩な利便性を享受可能でありながらも、生活利便性にも優れた街として、「薬院」ブランドの人気は揺るぎないものとなっていくだろう。
(了)
【坂田憲治】
猥雑と洗練が混在する福岡屈指の繁華街・薬院
福岡市内屈指の繁華街である薬院とその周辺エリア。古くからの盛り場があることで猥雑な印象がある一方、洗練されたショップや飲食店なども多数存在することから、独特の雰囲気を醸し出しているまちである。周辺エリアは大きく見ると、城南線(市道博多駅草ヵ江線)の北と南で様相が異なる。北側は交通の要衝である天神や、居酒屋やラブホテルなどがある今泉と隣接しており、どこか猥雑な雰囲気。南側はマンションやオフィスからなるエリアだが、個性的なカフェやレストラン、ブティックなどが点在する落ち着いた大人のまちといった雰囲気だ。
まずは北側を見ると、ここには市民の“酒飲みの聖地”の1つとして位置づけられている「三角市場」がある。1950年から70年以上存在するもので、狭い建物のなかに居酒屋やレストラン、バーなど20軒ほどの店舗が密集し、連日、多くの飲んべえたちが集っている。歴史ある地区だけに、薬院発祥のメニューもある。とりかわ(鶏皮をぐるぐる巻きにした串)は、薬院1丁目にある「とりかわ 粋恭」が発祥。市内にとりかわを出す店が増えたためかつてほどではないが、行列ができる人気店だ。なお、北側でも2丁目はマンションを中心とする住宅地で、市立警固小学校や筑紫女学園中学校・高校が近隣にあることから、比較的落ち着いた雰囲気となっている。
南側の薬院3丁目、4丁目に目を移すと、城南線に面する場所を除いて、マンションやオフィスからなる閑静なエリアだ。しかし、所々にセンスの良い外観のカフェや美容院、あるいはブティックが見受けられ、訪れる人たちの注目を集めている。たとえば、その代表的な事例が、4丁目にある「フランス菓子16区」で、ダックワース発祥の店として広く知られている。このほか、隣接する白金地区は住宅街であるが、高級な料理店も点在する。近年は北側・南側ともカジュアルにお酒や料理を楽しめる「立ち飲み店」が数多く営業するなど、とくに夜になると大人の雰囲気が一層濃くなるのが、今の薬院周辺エリアの特徴の1つだ。
【田中直輝】
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