家のなかに「怖い場所」、かわいい子には旅をさせよ(後)
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子どもに分別を
「安全・便利・快適」…欲望の赴くままそれらになびいていけば、どこまでも追いかけていくことになる。それらはすべて否定するものではないが、冷静に採択し、適度に距離を取っていく。そして、その副作用にも注意しなければならない。
街で歩いているとき、気づかないだろうか。昔ほど、人と目が合わなくなってきていることを。人は今、全力で“目を合わさないように”努めているようだ。すれ違って目が合うだけで、下手したら舌打ちされるのではないかと不安がよぎる。徹底的に、そして全力で目を合わさないようにするのは、自分の身を守るため。
できるだけ無用なトラブルを避けたいと、不寛容な社会が蔓延る陰湿な空気感から逃れたいと、見ず知らずの他人との接触を極力控える。目を合わすことを徹底して避けているのだ。こんな時代だから、社会でのマナー違反を厳しく咎める人もいなくなった。下手したらすぐ不審者だ、犯罪者だといって通報され、善意も悪意にすり替えられて、肩身の狭い思いをしなくてはならなくなる。若者はぶつかることを嫌い、遠くの方から石を投げてくる。大人は硬い皮膚で石をはじき返す、また過剰に構えて威嚇する。逆もまた然り。この両者のすれ違いが、本来そうではないはずの享楽を遠ざけているような気がする。誰がこんな社会にしたのだろう。私たちはもう一度、考え直さなくてはならない。
目が合えば、同じ世界に入るきっかけになる。同じ場にいることで、また同じ世界に引き込まれやすくなる。退化しつつある人づてのネットワークを取り戻すために、私たちはリハビリを始めなければならない。近所でよく出会う顔見知りの人と、笑って挨拶できるくらいの関係に回復させたい。あなたはどのように感じられているだろうか。
「魔女の部屋」
子どもが暮らしのなかから感じるさまざまな事象は、大人が良き方向へつくり替えることができる。「人が環境をつくり、環境がまた次の人をつくる」──いわば未来は変えることができるということだ。彼らがまだ小さいころ、少し道をそれたとき、大人はあきらめずに時間をとって考えてほしい。ペットと同じように“かわいい”だけではだめなことを知らなければならないし、当たり前と思っている一言が、大きなエールになることだってある。子どもへと、しっかりとした分別を授けられているだろうか。
我が子へのちょっとした冒険の手助けとして、“~我が家のアトラクション~”を提案してみたい。「針葉樹合板」は、繊維が粗く木目も大きくうねる表情が特徴の材料のこと。押入と名の付くコンパクトな収納空間に、木目の荒い質感で天井・壁を仕上げていく。要は「ねずみばあさん」のクシャクシャのしわを彷彿とさせるビジュアルで、薄暗い押入の内装を演出するわけだ。「押入部屋=魔女の部屋」なる物語を創って、『そんなことするとねずみばあさんがやってくるよ~』とリアルな体験空間を用意しておくと、子どもにとってはすこぶるよく効く薬となる。
最近ではその無骨な見た目が逆に人気となって、壁の仕上げ材などに使われることも多く見られるようになったが、一般的に木目が荒々しく、住宅の見えない下地や構造部分で使用されることが多い「針葉樹合板」。主に強度を補う役目を担っているため、表面の見た目は重視されず、割れやへこみ、傷などがある場合も表面の処理がされることはない(強度的には何ら支障ない)。比較的安価に手に入れられる。濃いめの染色(着色で染めること)を入れれば、木目の凹凸が強調され、より有機的な模様が浮かび上がってくるだろう。だから余計でも「ねずみばあさん」のオドロオドロシイ肌感に近づくというわけ。
そこに入れられると思うと、小さな子は多分大泣きして逆上するだろう。ただ一時の内省期間を経て泣きじゃくる我が子を救出し、全力で抱きしめて優しく諭す。この一連の動員が、子どもの心の成長に一定の気づきを与えてくれるだろう。一応断っておくが、子どもを泣かせたいわけではない。「可愛い子には旅をさせよ」の精神で臨むのが前提だ。ここだけの秘密の話にしてほしい。未来の世代にどんな感覚を引き継げるか…、あなたの分別が、あなたの子にちゃんと授けられていくことを願っているだけだ。
(了)
<プロフィール>
松岡秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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