石破首相のマレーシア、インドネシア訪問と今後の日米関係(前)
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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸石破首相は新年そうそう、アセアンの議長国のマレーシアと世界4位の人口を誇り、BRICSにも加盟したばかりのインドネシアを駆け足で訪問しました。当初は年明けに韓国を訪問する予定でしたが、韓国政界の混乱で断念を余儀なくされたわけです。また、アメリカのトランプ次期大統領への訪問も模索していましたが、2月以降になる可能性が高くなり、苦肉の策としてアジア諸国を選択しました。
マレーシアではアンワル首相と、インドネシアではプラボウォ大統領と会談し、日本との連携の下、アジアの安定と繁栄に尽力することで合意。国内の政権基盤が危うい石破首相にとっては、対アジア外交で弾みをつけ、その後の訪米への道筋につなげたい意向です。
マレーシアでは救助艇を含む警戒監視用機材の供与や海上保安機関の連携など、安全保障協力の強化、半導体などの供給網の強靭化、レアアースの開発や脱炭素など経済協力の推進でも合意。「政府安全保障能力強化支援」を通じて防衛装備品の無償提供も加速。日本は液化天然ガス(LNG)の安定供給を要請しました。すでにマレーシアでは日本企業が参加し、二酸化炭素を排出せずに水素を生産するプラントの建設計画が進んでいます。日本が持つ知見や技術をアセアンの温暖化対策に生かす試みに他なりません。
また、東・南シナ海や中東の情勢認識を共有し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性でも一致。マレーシアは安保面で中国と摩擦を抱える一方、中露主導のBRICSに加盟申請するなど、経済面で中国への接近を強めています。そのため、日本はマレーシアの対中傾斜に歯止めをかけたいと考えており、重要物資の供給網確保で協力し、日本が提唱する「アジア・ゼロミッション共同体」を通じてマレーシアやアセアン諸国の取り込みを目指しているわけです。石破首相はマレーシアが本年、アセアンの議長国であるため、アセアン諸国との連携を強めることで、この枠組みにアメリカを呼び込みたいとも考えています。
インドネシアで石破首相は同国の行政官の育成を支援する考えを表明しました。延べ7,200人を対象とし、日本の企業や自治体で受け入れる方向です。いまだ汚職や腐敗が後を絶たないための対策に他なりません。加えて、外務・防衛閣僚会議の年内開催や艦艇の共同開発に向けての防衛当局間の協議を進めることでも合意。石破氏はインドネシアのOECD加盟を支援するとも約束しました。
日本は長年、政府開発援助(ODA)を通じてアセアン各国を支援してきましたが、近年は人材の供給源としてアセアンに依存する度合いが高まってきました。なかでも深刻な介護職員不足への対応策として、インドネシアにおいては日本で働く介護要員の教育プログラムに着手しています。
インドネシアのプラボウォ大統領は公約として「学校給食の無償化」を掲げています。そのため、石破首相は「インドネシアの子どもたちに栄養価の高い給食を提供するため、国家栄養庁関係者に対して給食運用にかかわる研修や日本からの専門家の派遣を行う」と表明。しかし、この政策には日本円で4兆円を超える財源が必要とされています。日本では小学校や中学校で給食の無償化を実施している自治体は30%にとどまっている現状を鑑み、「まずは自国優先とすべき」と日本国内での反発も出ています。国内基盤の弱い石破政権にとっては危うい綱渡り外交になりかねません。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連記事
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