【新春トップインタビュー】積極的M&Aでグループを拡大 シナジーで売上高1兆円に王手をかける
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ヤマエグループホールディングス(株)
代表取締役社長COO 大森礼仁 氏総合流通業のヤマエグループは、「食」と「住」を軸に、M&Aを駆使して全国にグループを拡大し、売上高1兆円の実現も目前に迫っている。拡大を続ける戦略の骨子を、代表取締役社長COO大森礼仁氏に聞いた。
多様なグループ企業で幅広く流通を展開する
──グループとして事業を多角化されていますが、多角化における貴社グループの強みについて教えてください。
大森礼仁氏(以下、大森) 当社は、九州を基盤とする「食」と「住」の中間流通業ヤマエ久野(株)を母体とし、2021年10月に設立された持株会社です。「食」と「住」に関するあらゆる場面をプロデュースする「流通のトータルサポーター」として、M&Aを活用して事業領域とエリアの拡大を図った結果、24年10月末時点でグループ会社数73社、従業員数1万6,500人に達しました。
当社グループの知名度は九州では高いものの、九州の人口は減少傾向にあるため、さらなる成長を求めて九州以外のエリアへも拡大を続けています。現在、グループ内には、全国で菓子卸事業を展開するコンフェックスグループ、首都圏を中心とする業務用酒類卸・みのりホールディングス(株)、木材プレカット加工のハイビック(株)、(株)ワイテック、そして国内宅配ピザ業界大手の日本ピザハットなど、特色のある企業が存在しています。
当社グループは、中間流通業であるヤマエ久野を中核としてそれらの特色ある企業が連携することで、流通の川上から川下まで幅広く事業を展開しながら、私たちの暮らしに欠かすことのできない「食」と「住」を軸に、安定した事業を継続できることを強みとしています。
グループシナジーを引き出す持続型のM&A戦略
──近年、M&Aされた企業のなかには、小売の企業も含まれます。貴社の戦略として、小売をグループに取り込むことなど検討されているのでしょうか。
大森 グループの基幹会社であるヤマエ久野は中間流通業であり、これまで多くの小売店さまとのお取引により現在に至っており、当社が卸として小売を取り込むことについては検討していません。小売である日本ピザハットをグループに迎えたのは、現在お取引のある小売店さまと競合しないことと、一般にはほとんど知られていない当社グループの知名度向上により、良い人材が入ってくるといった効果も見込めると判断したためです。
また、現在、加工食品メーカーなどの取引先や、農産物・水産物の生産者と手を組み、付加価値の高い独自商品の開発も進めています。今後も固定した考えをもたず、幅広いジャンルの事業に挑戦していくつもりです。
──今後のグループ拡大の方向性や、M&Aにおける基本的な考え方を教えてください。
大森 流通過程で関わりシナジーを発揮できる会社をグループに迎えています。たとえばピザハットは生地を製造するには小麦粉が必要です。今後はグループから原料を仕入れることでシナジーを生む可能性もあります。ただし強引に商流を変えるようなことはせず、支障が出ないと判断した範囲で切り替えていきます。これはほかのグループにもいえることです。
また、救済型のM&Aは行わず、持続型のM&Aを基本的な方針としています。もし当社グループに迎えるにふさわしいビジネスモデルを確立していながらも、事業承継の問題を抱えている企業がある場合には、サポートをして次世代につなぐM&Aを行っています。
M&Aに際しては、グループに迎え入れた後も各企業の強みや特色を否定せず、各社従来の方針のもと経営してもらうことを旨としています。また当グループに加わったメリットを感じてもらえるよう営業面でのシナジーをつくり上げ、内部統制のために必要なサポートを管理部門で行っています。
──あらゆる業界において人手不足が事業継続の中心課題となりつつあります。人材戦略について聞かせてください。
大森 当グループは「人」を最も重要な経営資源と位置づけ、従業員エンゲージメントの向上に取り組んでいます。全従業員が快適に働き続けることができる環境や、成長・活躍する場をつくります。
現在、サステナビリティ戦略の1つのマテリアリティとして「人的資本の価値向上」を掲げ、3つの項目を検討し、持続的に働きながら成長・活躍できる環境づくりへの取り組みを行っています。
1つ目はダイバーシティの推進です。性別、国籍、人種、年齢、宗教等のあらゆる差別を禁止し、人権を尊重することで多様な価値観を取り込み、誰もが活躍する企業を目指しています。
2つ目は人材育成の強化です。グループ採用や人材交流により活性化させるとともに、適材適所の配置により従業員の能力を開発しています。
また、研修内容を改善・充実させ、多様な時代に対応できる人材を育てる仕組みを運用しています。とくにグループ(業種)の垣根を越えた研修を立案し合同研修として実施しています。
3つ目は健康経営です。誰もが心身ともに健康で、安心して働ける労働環境の構築を進めています
待遇改善にも力を入れており、優秀な人材の確保や社員のモチベーション向上により、業績アップにつながるという考え方で取り組んでいます。
売上高1兆円へ 中計目標を上方修正
──グループの拡大にともなってグループ連結の業績も急成長を遂げています。グループとして売上高1兆円への到達が期待されるところですが、いつごろの実現を見込まれますか。
大森 24年度の我が国経済は、 3年以上におよんだコロナ禍が収束したことでインバウンドが復活し、街では外国人観光客の姿を多く見かけるようになりました。長らく苦境にあえいだ外食需要が急回復し、お祭りやスポーツ・音楽などのイベントも再開され、日本経済は活況を呈しています。一方で、物価やエネルギー価格の上昇、円安の進行など、予断を許さない状況もあり、取り巻く環境は引き続き激動のさなかにあります。
そのようななか、当社は23年5月に中期経営計画「Progress Go’25(プログレス ゴー トゥ ファイブ)」を公表しました。また、24年1月には公募増資を実行し、今後の成長に向けた財務体質の強化を図るなど、環境の変化に対応しつつ「Progress Go’25」のネーミングにある「進化」、そして「現場力」を合言葉に、グループ役職員一丸となって取り組んできました。
その結果、「Progress Go’25」で掲げた25年度の財務指標である「売上高7,200億円、経常利益180億円」を24年5月、中計最終年度の財務指標を「売上高1兆円、経常利益220億円」に上方修正しました。 いずれも高い目標になりますが、中計の各戦略を着実に実行することで達成を目指していきます。
──売上高の拡大のみならず、経常利益率も上昇する中計目標となっています。高い利益率を確保するための施策としてどのようなものがありますか。
大森 DX推進をグループ全体で進めています。当グループは、24年5月に経済産業省が定める「DX認定事業者」に認定されたほか、次期基幹システム「TSUNAGU」 (25年度稼働予定) の構築が着実に進んでいます。「TSUNAGU」は最新鋭のシステム基盤であり、グループ間のシステム連携や各種デジタルサービス利用などを実現します。そして物流センターへの自動倉庫・自動搬送機・アームロボットなどの自動化・省力化機器 の導入を積極化するとともに、人財面においても、グループ全体でデジタル人財育成の強化に取り組み、ソフト・ハード両面で新しいビジネスモデルの構築を目指します。
【寺村朋輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:網田日出人ほか1名
所在地:福岡市博多区博多駅東2-13-34
設 立:2021年10月
資本金:92億2,463万5,492円
売上高:(24/3)7,127億1,700万円
<プロフィール>
大森礼仁(おおもり・ひろと)
ヤマエグループホールディングス(株)代表取締役COO。1979年4月ヤマエ久野(株)入社。同社にて2005年鮮冷部長、09年執行役員鮮冷部長、10年取締役鮮冷部長、14年常務取締役、16年取締役専務執行役員、17年代表取締役副社長、18年代表取締役社長COO。21年ヤマエGHD取締役副社長を経て23年から現職。売上高1兆円を狙う九州の企業
──コスモス薬品、トライアルホールディングス、TOTOヤマエグループのほかにも、九州を拠点にグループ連結で売上高1兆円を目指す企業、(株)コスモス薬品、(株)トライアルホールディングス、TOTO(株)はそれぞれの強みを生かしながら成長を続けている。
コスモス薬品──今期1兆円到達目標
(株)コスモス薬品(本社:福岡市博多区、横山英昭代表)はドラッグストア業界でトップクラスの規模を誇り、九州を基盤に全国展開を進めている。同社は「低価格」「地域密着」「豊富な商品ラインナップ」を三本柱として、地方を中心に大量出店を行い、固定客の獲得とスケールメリットを最大化する戦略で業績を拡大してきた。
同社の2024年5月期の連結決算は、売上高9,649億円(前期比16.6%増)、営業利益315億円(同4.6%増)で、医薬品や食品を中心とした商品ラインナップの強化と、消費者の節約志向に応える低価格戦略が業績を押し上げた。とくに食品カテゴリーの売上は前期比20.4%増と大きく伸長している。新規出店戦略では、年間139店舗を新規開設し、店舗数は1,490店舗に達した。
今期、25年5月期決算で売上高1兆370億円(同7.5%増)、営業利益316億円(同0.3%増)を予想する。九州や四国でのドミナント出店を進めると同時に、関東・中部・関西といった新規市場での店舗拡大を計画しており、さらなるシェア拡大を図る。
トライアルホールディングス──リテールITの黒字化なるか
(株)トライアルホールディングス(本社:福岡市東区、亀田晃一代表)は、低価格戦略を軸とするディスカウントストア事業で急成長を遂げた。同社の強みは、独自のIT技術を駆使した業務効率化にある。AIやIoTを活用した物流や店舗運営の効率化により、低価格商品を安定的に提供できる仕組みを構築する。
同社の24年6月期の連結決算は、売上高7,179億円(同9.9%増)、営業利益191億円(同37.2%増)で、日用品や食品カテゴリーの強化が既存店売上の伸びを支えた。
今期25年6月期決算では、売上高8,088億円(同12.7%増)、営業利益229億円(同20.0%増)を予想する。ただしSkip Cart(レジカート)の導入などを進めるリテールAI事業は現状赤字であり、今後、業務効率の向上により先行投資の回収が軌道に乗るかがカギとなる。TOTO──中国事業の退潮鮮明
TOTO(株)(本社:北九州市小倉北区、清田徳明代表)は衛生陶器や水回り製品で国内外の市場をリードするが、近年は、節水技術や環境配慮型製品の開発に注力し、高付加価値商品の提供で差別化を図る。
国内で培った高度な技術力を基に海外市場、とりわけアジアや北米市場での存在感を拡大している。ただし、同社の海外事業を躍進させた中国事業は、不動産不況にともなう現地市況の悪化や同国内ブランドの台頭などにより退潮が鮮明になっている。
24年3月期の連結決算は、売上高7,022億円(同0.2%増)、営業利益は427億円(同12.9%減)で増収減益となった。25年3月期の見通しでは、売上高7,300億円(同3.9%増)、営業利益480億円(同12.2%増)を計画しており増収増益を目指す。
【寺村朋輝】
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