2025年01月28日( 火 )

【新春トップインタビュー】多彩な取り組みで目指す『元気な街、心豊かな暮らし』の実現

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大英産業(株)
代表取締役社長 一ノ瀬謙二 氏

大英産業(株) 代表取締役社長 一ノ瀬謙二 氏

 北九州地区を代表する総合不動産会社の大英産業(株)。北部九州や山口エリアを中心に自社マンションブランド「サンパーク」「サンレリウス」シリーズの供給を行うほか、戸建、リフォームなど多岐にわたり事業を展開している。不動産市況の見極めが困難な時代に突入した九州の住宅市場にあって、数々の取り組みを打ち出してきた同社の代表取締役社長・一ノ瀬謙二氏に話を聞いた。

機能から事業へ 挑戦できる環境づくり

 ──昨年11月に不動産の企画設計・建築・建築監理を担う、(株)DAIEIアーキテクツを設立されました。新会社に期待することを聞かせてください。

 一ノ瀬謙二氏(以下、一ノ瀬) 新会社DAIEIアーキテクツは当社の戸建建築の機能を担っていたチームを分社化したものです。今回の新会社設立も過去のグループ会社設立と同様に、当社の新規事業開発本部からの提案を受け発足したものです。当社の戸建住宅の年間建築戸数は400~600戸と繁閑の波があり、生産安定性に課題がありました。

 また、戸建建築チームは企画された物件を図面通りに建築する、社内機能としての側面が強かったこともあり、「機能」から「事業」への転換を図るべく、1つの会社として分けることにしました。一企業として仕事を請け負うことで、仕様・コスト・納期など、プロフェッショナルとしての意識の醸成を促進できればと考えています。従来の企画通りに仕事をこなす、という姿勢から脱却し、お客さまと直接向き合うことで「私たちはこんな建築もできます」といった一歩先の提案を行えるようになってほしいですね。

 もちろん、求められる能力は上がりますが、社員がやりがいをもって働ける、挑戦できる環境というものを私たちは用意していかなければならないと考えています。建築の幅を広げることで、将来的にはBtoCだけでなくBtoBの事業も成長できればと思っています。

さまざまな取り組みで地域課題に挑む

福岡市内でも多数の物件開発が控えている ※写真は【仮称】サンパーク香椎駅前建設地
福岡市内でも多数の物件開発が控えている
※写真は【仮称】サンパーク香椎駅前建設地

    ──退職者との関係性を維持する「アルムナイネットワーク」を構築し、現役社員との交流会を対面で開催されたようですが、どのような反響がありましたか。

 一ノ瀬 開催前は不安もありましたが、想像以上に楽しかったという声が多くあがりました。交流会では退職者がプレゼンを行う場を設けることで、現在の活躍や、新たにできるようになったこと、将来大英産業とこんな仕事ができたら素敵だな、といった内容を発表してもらいました。自己PRができ、退職後も会社が門扉を開いていることを実感して安心したと、退職者からの反響は良かったです。現役社員にとっても、人とのつながりかたを見直す機会になったと思います。

 ──人材不足は業界全体の課題ですが、退職者の方々から復職希望はありましたか。

 一ノ瀬 ありがたいことに複数件ありましたが、はじめから退職者の復職を期待して取り組むべきものではないと考えています。当社ではアルムナイネットワークはカムバック採用を目的とした人材確保戦略ではなく、「元気な街、心豊かな暮らし」という経営理念を実現するための手段であると捉えています。

 不動産事業は地域に根差した事業です。同じ地区の同業者は競合相手になります。しかし、地域課題を解決し、当社の経営理念を実現するためには競合を含めた外部とのつながりが不可欠なのです。そのつながりかたの1つとして、退職者の方々とのご縁をアルムナイネットワークというかたちで維持していきたいと考えています。

 ──御社は地域課題に関する取り組みにも積極的です。

 一ノ瀬 建築には木材が欠かせませんが、一方で昨今の脱炭素・森林の循環への考慮も必要になってきました。そのため、GXへの取り組みには力を入れています。とくに地元北九州の森林に関する課題には、異業種や市とも連携して取り組んでいます。樹木は樹齢60年を超えると光合成による炭素吸収量が低下します。北九州の森林は古いものが多いため、長寿の樹木を伐採し、若い樹木を新たに植え、森林の新陳代謝を促す必要があると言われています。

 そこで、2022年に北九州産の木材を伐採から利用まで一貫して行う体制の構築を目指し、ウイング(株)、(株)伊万里木材市場、北九州市森林組合、北九州市と当社の5者で「地域材の利用拡大に関する建築物木材利用推進協定」を締結しました。木材のトレーサビリティを確保した体制の構築は炭素貯蔵量の可視化につながり、今まで以上にカーボンニュートラルの実現に結びついていくものと期待しています。

 現在、当社では毎月平均で8~9棟の物件を北九州産の木材を使って建築していますが、地産地消の住まいづくりを進めて行きたいと考えています。すべてのサプライチェーンの温室効果ガスの排出量測定はまだ難しいですが、できることから着実に取り組んでいきたいと考えています。

 ──北九州市は国の成長戦略の一環で環境未来都市に選定されています。

 一ノ瀬 市はカーボンニュートラルの実現と地域産業のグリーン成長を目指すべく、産官学金連携の「北九州GX推進コンソーシアム」という組織をつくりました。さまざまな企業や大学が垣根を越えて活動中で、当社もゼロエネルギー住宅をはじめさまざまな住まいの提案を行っています。

 24年から徴収が始まった森林環境税の用途についても、名称通り地域の森林環境を良くするために使いませんか、といった啓発を行っています。「環境未来都市」が実りあるものになるように、街全体で取り組んでいかなければなりません。

 ──そのほか地域のために行っている活動についても聞かせてください。

 一ノ瀬 代表的なものは「出張こども大工」です。当社とグループ会社の大英工務店、そして障がい福祉サービス事業所の桑の実工房の3者で立ち上げた北九州SDGsクラブのプロジェクトです。建築の際に発生する住宅端材をアップサイクルした木工キットを携え、北九州市内の幼稚園や保育園でこどもを対象にした大工体験イベントを開催しています。こどもたちが目を輝かせながら、当社の職人たちと一緒に遊具などを制作する光景が広がる、大変微笑ましいイベントです。スタッフの一部には大学生が参画してくれていますので、学生さんとの貴重なつながりにもなっています。木工キットの制作では桑の実工房の入所者やシニア大工の方々の活躍の機会を創出していますし、当然仕事として依頼をしますから、地域の雇用創出にも一役かっています。

松吉建設(株)と協力し、糸島市の前原中央保育園で開催された「出張こども大工」の様子
松吉建設(株)と協力し、
糸島市の前原中央保育園で開催された
「出張こども大工」の様子

    また、幼稚園などに寄贈する遊具には協賛金を出していただいたオフィシャルパートナーのネームプレートを付けています。SDGsの取り組みに悩む企業の受け皿にもなっているのです。地域経済を循環させ、多くのパートナーと関係を結び、自社の利益も追求する。SDGsの本質は、「なにか善いこと」をしてアピールするものではなく、1つひとつの事業を通じて社会課題を解決しながら、社会全体で価値を創造していくことにあると確信しています。

見極めの困難な時代 反転攻勢の機会に備える

 ──「金利のある世界」へと戻り、住宅市場にも変化の兆しが見受けられます。

 一ノ瀬 金利に関しては本来の正常な状態に戻りつつあるという認識です。ただ、業界としても苦しい時期に突入していくことはたしかです。住宅市場は寡占化が進み、そのなかで淘汰される企業も出てくるでしょう。

 一方で、さまざまなデータの検証結果や、過去の傾向から考えると、福岡市や熊本県を中心に上昇した物件価格や木材などの資材価格は沈静化に向かうものと予想しています。ライバルが減り、建築物を建てやすくなった際、いかに早い段階で良い土地を仕入れ、販売へつなげるのか、ということが非常に重要です。今はそのための準備期間だと捉え、販管費などのコストを抑えながらも、DXの推進などを通じて1人あたりの生産性の向上に取り組んでいく方針です。

 また、BtoCの事業の多角化・拡充を図り、お客さまのライフタイムバリュー向上を包括的にサポートする体制を構築するという従来からの戦略に加えて、BtoBの事業への本格的な参入も視野に入れています。熊本ではTSMC進出を契機に、当社でも法人向けの土地分譲や物件販売が徐々に増加しています。

 さらに、かつて半導体産業で賑わい「シリコンアイランド」と言われた九州の産業を復活させようという機運が高まっています。国内外の輸送ニーズが高まる今、九州唯一の24時間空港がある北九州エリアのポテンシャルには期待感があります。見極めが非常に難しい時代ではありますが、反転攻勢の機会を逃さないようにしたいと考えています。

 ──最後に御社が地域社会にはたしていきたい役割について聞かせてください。

 一ノ瀬 23年4月に、地元北九州でも住まい・土地のことから相続相談まで一括で担うワンストップ店舗をオープンしました。ワンストップ店舗が担う役割は、地域の皆さんの暮らしに新たな価値を提案するパートナーであることです。「地元に大英産業があって良かった」と言っていただけるような店舗運営を目指しています。

 当社はこれからも、さまざまな人との接点をできるだけ多くつくることで、地域に根差した活動を展開していきたいと考えています。それが、地域愛着経営に取り組む総合不動産会社として、これまで築き上げてきたネットワークとともに事業の深化、事業領域の拡大につながり、ひいては北九州、山口、福岡、熊本など、当社がまちづくりに携わる地域の「元気な街、心豊かな暮らし」の実現に寄与するものと考えています。

【文・構成:若松大生】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:一ノ瀬謙二ほか1名
所在地:北九州市八幡西区下上津役4-1-36
設 立:1968年11月
資本金:3億3,743万円
売上高:(24/9連結)370億9,768万円


<プロフィール
一ノ瀬謙二
(いちのせ・けんじ)
1980年8月生まれ、佐賀県嬉野市出身。学卒後、2003年9月に大英産業(株)に入社。営業実績が評価され、不動産事業部長を経て、13年10月、常務取締役および管理本部長に就任。16年10月には不動産流通事業部長を、17年11月には(株)リビングサポートの取締役をそれぞれ兼任し、19年10月、マンション事業本部長に就任した。その後、21年10月、専務取締役への就任を経て、22年10月、代表取締役社長に就任。趣味はトライアスロン、読書。

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