不安化する日本政治 自公過半数割れと各党の思惑(前)
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ジャーナリスト 鮫島浩 氏
自公与党が過半数を割る一方、立憲民主党も野党を束ねて政権交代を実現することができず、減税を掲げて躍進した国民民主党がキャスティングボートを握って主役に躍り出た──。2024年総選挙は政権交代可能な二大政党政治の行き詰まりを露呈した。今年夏の参院選でもこの流れは加速するだろう。その後に待ち受けるのは、自民と立憲の大連立ではないか。
二大政党政治は機能不全
2024年は自民党の裏金事件への逆風が吹き荒れた一年だった。自民党は支持率低迷の岸田文雄氏から「党内野党」として正論を吐いてきた石破茂氏へ首相を差し替え、風圧を和らげて昨年10月の解散総選挙を乗り切ることを目論んだ。けれども、石破首相は「腐り切った自民党を変えてくれるかもしれない」という国民の期待を裏切り、裏金議員の大半を公認。総選挙最終盤には、裏金問題で非公認とした候補にも「裏公認料」として2,000万円を支給していたことが発覚して国民の怒りを買い、自公与党は過半数(233)を18議席下回る大惨敗を喫したのである。
石破首相は自ら掲げた勝敗ライン「自公で過半数」を下回ったものの、何事もなかったように続投を宣言。一方、立憲民主党の野田佳彦代表は野党第二党の日本維新の会や野党第三党の国民民主党に首相指名選挙で自らの投票するよう求めたものの、拒否され、野党連立政権は誕生しなかった。この結果、自公少数与党の第二次石破政権が発足した。
与党第一党が自滅して国民の信用を失っても、野党第一党に政権が渡らない。二大政党政治は機能不全に陥っている。
主導権なき与党 石破内閣は叩かれ役
自公与党は当面、所得税減税やガソリン税減税で「手取りを増やす」という公約を掲げて議席を4倍に伸ばした国民民主党の主張を受け入れる代わりに、予算案や法案に賛成してもらって可決・成立させていく方針だ。国民民主党に政権の命運を握られた格好である。
少数与党の政権運営は極めて厳しい。予算案や法案を与党だけで成立させることができず、野党の一部の賛成を取りつけるため大幅譲歩を重ねるしかない。いつ内閣不信任決議案が可決されて内閣総辞職に追い込まれてもおかしくはない。綱渡りの政権運営が続く。
とりわけ国会の花形である予算委員長のポストを立憲民主党に明け渡したことは今後の国会運営を極めて困難にさせる。通常国会で予算審議の最中に閣僚のスキャンダルが浮上して野党が更迭を要求すれば、受け入れるほかない。これまでは自公与党の数の力で野党の要求を退け、強行採決することもできた。しかし、今後は予算委員長に就任した立憲民主党の安住淳氏が閣僚を更迭するまで予算案の採決を認めないだろう。予算成立までに閣僚辞任ドミノが発生し、内閣支持率がずるずると落ちていく展開が十分に予想される。
ただでさえ、少数与党政権は短命に終わるといわれる。しかも夏には参院選が待ち受ける。総選挙で惨敗した石破首相は「参院選の顔」になり得ず、自民党内では「石破首相では選挙を戦えない」との見方が広がっている。
ただちに「石破おろし」の狼煙があがらないのは、いま首相を差し替えても少数与党の国会運営でたちまち立ち往生することが目に見えているからだ。誰が首相になっても、予算成立までは野党の攻勢を浴びて防戦一方になるのは避けられず、ひたすら耐えるしかない。ならば「たたかれ役」を石破首相に押し付け、予算成立後に首相を差し替えてイメージを刷新し、夏の参院選で巻き返すというのが自民党内の大方の相場観となっている。
石破内閣はよほど支持率が急上昇して国民人気を回復しない限り、半年の在任期間で終わりかねない。第二次石破内閣発足後の世論調査で支持率が少し回復したのは、石破首相が人気を取り戻したからではなく、自公与党が過半数を割って予算案や法案を一方的に決めることができない国会状況が歓迎されているに過ぎない。国民民主党が掲げた減税政策が実現することへの期待感もある。自公与党が国民民主党の要求を突っぱねて国会が立ち往生すれば、内閣支持率はたちまち急落するだろう。
限られた選択肢 国民か維新か
自公与党が予算成立後に石破首相を見切って新内閣を誕生させたところで少数与党の現状は変わらない。政権を安定させるには過半数を回復するしかないのだ。その方法は3つある。
1つ目は、無所属や野党の議員を次々に一本釣りすることだ。自民党は総選挙後ただちに裏金事件で非公認とした萩生田光一氏ら6人を会派に入れて221議席まで回復した。それでも過半数に12議席足りない。野党系無所属6人に加え、参政党3人と日本保守党3人を加えればぴったり233議席に届くが、自公を批判して当選した彼らを全員引き込むのは難しい。他の野党議員を含めて一本釣りを地道に重ねても、過半数回復はいつになるかわからない。長く険しい道のりだ。
2つ目は、国民民主党か日本維新の会を自公政権に引き込み、連立の枠組みを拡大させることである。個別政策ごとに国民民主党と協議して賛成を取りつけるやり方では、主導権を奪われて大幅譲歩を重ねていくことになる。国民民主党に反旗を翻されれば万事休すだ。本当なら国民民主党の玉木雄一郎代表を閣内に入れて連立政権に参画してもらうのが良い。
けれども、国民民主党が連立入りすれば「自公政権の延命に手を貸した」と批判を浴び、夏の参院選で惨敗を免れない。だからこそ玉木代表は連立入りを明確に否定し、個別政策を是々非々で協議していく「部分連合」の立場を鮮明にした。少なくとも参院選前に連立入りに応じる可能性は極めて低い。
国民民主党は所得税減税やガソリン税減税が昨年末の予算編成に盛り込まれる場合には予算成立までは自公与党に歩調を合わせていくが、予算成立後は夏の参院選をにらんで再び対決路線に転じる可能性もある。今度は総選挙で掲げた消費税減税を自公与党に迫り、拒否されたことを理由に自公与党と決別して対決姿勢に転じれば、夏の参院選で再び躍進する可能性があるだろう。
自公与党は、国民民主党に連携相手を絞ると不利だ。通常国会で維新と天秤にかけるのは間違いない。維新は総選挙で惨敗し、馬場伸幸代表が退くことになった。新代表には吉村洋文・大阪府知事が確実視されているが、新体制が固まるまでは身動きが取れない。そこで自公与党は国民民主党との連携を進めるしかなかったが、今後は維新と張り合わせて譲歩を迫るだろう。
とはいえ、維新が自公に接近するかどうかは不透明だ。維新創始者の橋下徹氏は馬場体制の自公接近を激しく批判した。初代代表の橋下氏と二代目の松井一郎氏は知事や市長だった。初の国会議員の代表である馬場体制で政党運営を軸が大阪から国会へ移っていたが、吉村体制では再び大阪へ戻るだろう。自公与党は大阪万博を強力に支援して維新の引き込みを狙うが、維新も「自公政権の延命に手を貸した」と批判されれば夏の参院選で再び惨敗する恐れがある。少なくとも参院選前の連立入りにはおよび腰にならざるを得ない。
夏の参院選までは、連立政権の枠組み拡大で安定的に過半数を回復させるのは相当に難しい。
(つづく)
<プロフィール>
鮫島浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月、49歳で新聞社を退社し独立。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)。▶ 新しいニュースのかたち│SAMEJIMA TIMES
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