林業活性化に不可欠な自ら「稼ぐ力」の創出(後)
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佐伯広域森林組合
代表理事専務 今山哲也 氏各地域における森林整備の担い手として大きな役割をはたしてきた森林組合だが、原木価格の低迷などを背景に、厳しい経営を強いられているところも多い。そんななか、大分県の佐伯広域森林組合は、早くから製材やバイオマスチップ製造、そして再造林などの事業の多角化に取り組み、「稼ぐ力」を強化することで安定的な経営を実現している。同組合の事業はもちろん、現在の林業や関連事業の動向にも詳しい、代表理事専務の今山哲也氏に話を聞いた。
若い世代の入職が活発化
──再造林とはどのようなことをする事業で、それが収益を上げているのにはどんな理由があるのでしょうか。
今山 森林整備事業は大きく「育林」と「収穫」という2つのカテゴリーに分かれますが、再造林とは前者を指します。森林組合の仕事は、森林所有者からの委託を受け森林の整備を行うことが主たるものですが、森林所有者の多くが兼業サラリーマンです。一方で、森林は「植える」「育てる」「守る」「伐採する」という繰り返しの作業を長年にわたり継続しなくてはなりませんから、兼業サラリーマンに円滑な整備は難しいのです。そこで、当組合では、植林から下刈り、間伐などといった一連の作業を一括で請け負う仕組みを確立し、継続的・安定的な業務を確保できる体制を整えました。一般的な森林組合には、木材伐採を専門に行う事業者が伐採した森林の再造林を手がけないケースもありますが、当組合は一括で請け負うことで、それを可能にしています。地域の森林の状況、たとえばどの森林所有者が伐採をしようとしているのかといった情報を常に把握できるようにもしています。これらにより、伐採量が増え、それにともない再造林事業が増えてきたわけです。
再造林事業のイメージ。植樹をしている様子 そのなかから大変心強い状況も見られ始めました。再造林の実務に携わる人たちのなかに、若い人材が増えているのです。当組合では、彼らに育林を中心とした業務を発注しているのですが、なかには発注額が1,000万円を超える方も出てきています。当組合が採用活動をしているわけはなく、彼らは口コミで入職してきます。もちろん、自治体などの補助金による成果でもありません。このことが何を意味するかというと、若い方々が魅力を感じていただけるくらい、再造林事業が稼げる仕事になってきたということです。
──一般的に林業は人材不足で、とくに若い世代の入職には苦戦していますが、それとは正反対の状況となっているのですね。
今山 ほかの森林組合や自治体の関係者にお話をすると、ほとんどの場合、人材募集にあたって「やりがい」や「環境問題の重要さ」「月給制」などをアピールしています。しかし、それでは効果がありません。人材募集の訴求ポイントとして最も効果的なのは「稼げる」ということ。再造林にあたっては、シカをはじめとする害獣対策なども含め仕事はいくらでもありますから、頑張ればその分収入が増えるのです。「フォレストワーカー」などというと聞こえは良いですが、そうした表面上のアピールではなく、稼げることを訴求するのが正当なリクルートの在り方だと感じています。
定着率も課題ですが、近年は機械化により作業負担はずいぶん軽減されています。稼げていれば、仮に山が嫌いな人でも、時間の経過とともに山を好きになってくれますし。いずれにせよ、仕事が途切れないことで、山で働く人たちの暮らしが安定する環境が、この5~6年で生まれています。もっとも、これはウッドショック以降、原木価格が以前に比べて高くなってきたことも影響していますが・・・。
国産材使用率向上へ
──ところで、林産業の今後に向けた大きな課題の1つに、これまで木材活用の受け皿だった「住宅市場の縮小」があります。
今山 問題なのは、住宅着工戸数の減少トレンドが強まる一方で、戦後に植林され伐採期を迎えた森林資源が豊富に存在し、市場に大量の木材が供給されていく状況です。こうした需要と供給のアンバランスに対応するためには、国産材の使用比率を引き上げることが重要です。そこで当組合では今後、2×4住宅向けの部材生産を開始するべく、取り組みを進めています。住宅市場を注視すると、市場全体は減少傾向にありますが、2×4住宅はほかの工法に比べて比較的堅調に推移していることから、その部材生産・販売に活路を見出せると判断しました。このほか、木造非住宅、いわゆる都市木造の分野の需要拡大にも期待しております。
工場内には製材が山積みされている。
その奥ではは2X4部材工場の建設に向けた作業が行われていた追い風を生かして
──他にも今後の課題として重要なことはありますか。
今山 先ほども申しましたが、森林所有者の対策が最重要課題の1つです。所有者は、戦後に植林をした人たちから代替わりし、その子ども、孫世代が中心となっていますが、彼らは総じて山林経営への熱意を失っています。原木価格は以前よりは値上がりしたとはいえ、彼らに大きな収益をもたらす状況にはなっていないからです。彼らは山林を所有しておくことにメリットを感じられなくなっており、再造林に積極的ではありません。当組合が管轄する地域では、彼らに対して積極的に働きかけることで伐採された森林の85%を再造林していますが、全国の再造林率はもっと低いのが現状です。再造林を進めなければ林業は崩壊してしまいますから、森林所有者が再造林に前向きになれるような仕組みづくりが求められます。
ただ、近年は環境保全の目的から、欧米諸国では原木の伐採や輸出にブレーキがかかりつつあります。それに加え、円安やバイオマス発電向けの需要が増大という前向きな状況も生じています。住宅着工の減少傾向などという難しい状況もありますが、そうした国産材の活用に向けた追い風を生かしながら、森林所有者の課題解決や再造林の活性化などを進めるべきだと考えています。
(了)
【田中直輝】
<COMPANY INFORMATION>
代表理事組合長:戸高壽生
所在地:大分県佐伯市宇目大字南田原283-2
設 立:1990年2月
出資金:7億4,151万4,000円
<プロフィール>
1990年、佐伯広域森林組合に入社。宇目工場長、加工流通課長、流通部長などを経て、2021年に参事に就任。23年9月から現職。元高校球児。趣味は家庭菜園。月刊まちづくりに記事を書きませんか?
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