移転場所は?跡地活用は? 錯綜する福岡市民病院(前)
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増床のため千早病院と統合・再編へ
福岡市民病院 建物施設や医療設備の老朽化などのため、移転が検討されている博多区吉塚本町の福岡市民病院(以下、市民病院)だが、2024年12月20日に開催された「令和6年度 第2回 福岡市病院事業運営審議会」において、東区千早の千早病院と統合して移転する方針が示された。
市民病院の在り方をめぐっては、当初は2002年12月開催の「福岡市病院事業運営審議会」の答申のなかで「こども病院・感染症センター」との一体的整備の必要性が言及され、03年8月にはこども病院・感染症センターと市民病院を統合して新病院を開設する市の方針が決定。新病院の建設場所はアイランドシティとされていた。だが、その後の市長交代などを経て両病院の統合案が白紙となり、福岡市立こども病院・感染症センターは単独でアイランドシティ内に移転し、14年11月に「福岡市立こども病院」として開院する一方で、市民病院は現在地での運営が続いていた。
だが、医療機器の大型化や提供する医療の高度化・多様化にともなう診療科に開設などにより狭隘化が進んでいたほか、老朽化によって電気・給排水などの施設・設備が大規模修繕の時期を迎えていること、200床台の病院規模ではスケールメリットが発揮しにくいなどの経営面の課題などから、22年10月頃より改めて市民病院の在り方についての検討を開始。当初は空きスペースでの「全面建替」、ローリング計画での「全面建替」と「増築・改修」の3つの手法による現地建替えが模索されていた。だが、24年2月開催の審議会において、現地建替えが難しいとの結論となったことで、「現地以外での整備」についての検討が進められることになった。
同審議会では、医療機能部会報告書において「今後、市民病院が必要な医療機能の強化を図り、その役割をはたすためには、増床や増員、施設・設備の拡充の検討が必要」とされていることを提示。また、病床数によって必要な面積が異なり、土地の選定に影響があることから、まずは病床の規模を検討することとなり、現在の200床という病床規模から、300床規模にまで増床していく方針が示された。一方で、医療法に基づき定められる基準病床数に対し、既存病床数が下回る病床不足地域であれば単純な増床の検討も可能ではあるものの、福岡市が属する福岡・糸島保健医療圏は病床過剰地域であり、単純な増床ができないことから、同保健医療圏内の医療機関との再編などによる増床についての検討を進めていく方針となった。
そして24年12月開催の審議会において、再編等の手法や相手方選定の視点を踏まえたうえで、統合の相手方候補として、千早病院が選定された。
老朽化・狭隘化が進む2つの公的医療機関
千早病院 市民病院はもともと、筑紫郡堅粕町と千代町の共同運営による「堅粕千代両町組合伝染病院」として開院したのが始まりで、1928(昭和3)年4月に堅粕町と千代町が福岡市へ編入された際に、「福岡市立松原病院」へと改称した。その後、市立第一病院への改称や、診療科の増設、病床数の増床などを経ながら、89年5月に現在地で福岡市民病院として開院した。現在地の敷地面積は6,028.78m2で、用途地域は商業地域、建ぺい率/容積率は80%/400%。病院施設は89年5月竣工の本館(SRC造・地上9階建、延床面積1万3,930.74m2)のほか、14年9月竣工の別館(救急診療棟/S造・地上4階建、延床面積1,447.06m2)の2棟で構成され、病床数は204床(一般200床、感染症4床)。20診療科を備え、「救急告示病院(二次救急)」「地域医療支援病院」「第二種感染症指定医療機関」の認定を受けた公立病院である。
一方の千早病院は、終戦後の満州からの引揚者に対する医療救護活動の一環で、御供所町の聖福寺内において財団法人在外同胞援護会救療部聖福病院として発足したのが始まり。その後、65年12月に聖福病院が閉鎖するとともに、東区千早に新築移転し、国家公務員共済組合連合会千早病院と名称変更されて現在に至っている。病床数は175床(一般175床)で12診療科を備え、「救急告示病院(二次救急)」の認定を受けた公的医療機関である。
25年1月時点で市民病院が築35年、千早病院が築59年と、ともに施設の老朽化や狭隘化などの課題を共通して抱える両病院だが、統合・再編によって期待される効果はいくつか挙げられる。
まず、統合によって病院規模が最大379床まで大きくなることで、病院経営上のスケールメリットが発揮しやすくなり、経営の安定化が見込まれること。それにより、医療機能部会報告書で示されている「新たな取り組み」による医療機能の強化や「感染症医療」「災害医療」への十分な対応が可能となること。新病院の建設によって施設・設備が刷新されることで、現病院の大規模修繕が不要となり、維持管理費の大幅な削減につながること。共通する診療科の統合や医療機能の整理等によって、医師の働き方改革に対応しやすくなること。そして何より両病院とも公的医療機関であり、地域医療構想の実現に向けた取り組みなどの公的医療機関に求められる役割や地域医療などを継続していけることだ。
なお、市民病院と千早病院の統合は現時点では決定したものではなく、今後は統合・再編などに向けた具体的な協議を開始することとなっている。
(つづく)
【坂田憲治】
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